あんまりにも面白くて引き込まれるようにぐんぐんと読んでしまいました。
「りかさん」(梨木香穂さん 新潮文庫)です。
あっという間に読んでしまい、巻末の小林すみ江さんの解説の中に
この話には後日談のような形の別の作品があると書かれていたので
早速図書館に「りかさん」返却がてら借りに行きましたら
なんと1週間 在庫整理のため休館とのこと!
じゃあ「りかさん」返すのやめてもう一度ゆっくり読んでみようと思いまして
さっきまで読んでました。
で 強く思いました。
これは私に2度目を読ませるための奇跡の休館。
いや奇跡じゃないな、予め決まっていた運命の休館だとね。
1度目は感情のままに先へ先へと流れるように読んでしまい
だからこそ感じられる鮮烈さ、興奮、どきどきがあるわけですが
2度目では細部まで観察し 心のひだまでゆっくりひっくり返して味わうわけです。
解釈の深まり!発見の連続!
いうなれば 駆け抜ける15才の夏と 思慮深く少しは冷静さを身に着けた50才の秋
くらいに違う訳ですよ。
(実のところ50の秋が15の夏に比べて思慮深くて冷静かは断言できないのですが。)
さて、
「りかさん」の作者の梨木(なしき)さんは「西の魔女が死んだ」の梨木さんです。
もう作者聞いただけで読みたくなるでしょう?
ええ、絶対読んで下さい。
ほっんと良いですから。
「りかさん」とは主人公「ようこ」がおばあちゃんから譲り受けた不思議な人形
の名前。
「りかさん」はおばあちゃんやようこと話が出来る人形です。
数々の和洋の人形たちの背景や思い出も ようこに仲介してくれます。
りかさんと話すようになって ようこは他のものの思いや 思いの変化を敏感に
感じ取れるようになっていくのです。
物語はお雛様の時期で、ようこの自宅に飾られた雛人形たちや
友達の登美子ちゃん(登美子ちゃんちの蔵の中には沢山の人形が保管されている)の
おうちの人形たちが入れ代わり立ち代わり展開する興味深い話の数々で進みます。
人形の語りを借りて古い昔の出来事が紐解かれていく様は 映像が浮かぶよう。
りかさんに守られて ようこは人形を通して人の思いに触れていくのですが
これらのことは この先のこの少女の成長が
人やものや自然への深い慈しみの形成されていく、素晴らしい成長であることを
予感させてくれます。
人形の話を織り交ぜつつ、主軸はりかさん、そしておばあちゃんとのかかわりにある、
羨ましいほどの愛情の物語なのです。
なるほどと思ったのはおばあちゃんがようこに人形の使命について語るところ。
「人形の本当の使命は生きている人間の、強すぎる気持ちをとんとん整理して
あげることにある。」「気持ちは、あんまり激しいと、濁って行く。いいお人形は
吸い取り紙のように感情の濁りの部分だけを吸い取っていく」
「人形遊びをしないで大きくなった女の子は、疳(かん)が強すぎて自分でも
大変。」なるほどです。
また価値観の違うおじいちゃんとなんで結婚したのか、とか(おじいちゃんは、
男社会の「肩書」が大事な人だったのです)そういう人と結婚して
何がわかったか、とか
ようことおばあちゃんのやり取りがしみじみ胸に積もってきます。
それからようこを通して 自分の小さい頃の感覚を時におぼろげに、時に電光石火のごとく
思い出していく目覚めのような快感も体験しました。
「あ~私も!私も!!」っていう 嬉しさ。
98ページの「~大人の会話に付いて行けているという自負」なんてくだりは
私が初めてそう感じて高揚したときの満足感まで思い出しました。
好きな箇所は数々あるのですが、
内側から腐ってきた近所の桜の木が伐採された場面で
以前この桜の木から立ち上る思いに絡まれて怖い思いをしたために
この桜によい思いが持てなかったようこが、その木を供養するために拾い集めた
枝の一本をつかんだ時 この枝に残る微かな温かみに気づき後悔する場面は
特にいいです。
「・・・・・逃げよう逃げようとしていたから、こういうこともわからなかったんだ」
ようこのこの気づきもいいし、
供養のためにこの桜の枝を煮出して反物を染めて りかさんの着物にする作業の
場面で、(植物染料は化学染料と違って媒染が必要なのですが)
「人形にも樹にも人にも、みんなそれぞれの物語があるんだねえ、おばあちゃん。
・・・媒染を変えたら出てくる物語も違うんだろうか」
と問うようこに
「お前の心持ちによっても変わるだろうよ」
と返すおばあちゃん。
するとりかさんが
「ようこちゃんは媒染材みたいな人になれるよ」
と予言めいたことを言う。
・・・いちいち なにやら深そうじゃありませんか。
読み手によって解釈がかわりそう。
私の胸には染みました。
あと、私個人的に“いい子”って言葉が嫌いだったのですが
おばあちゃんがようこに
「こんなかわいい、こんないい子が生まれて。これがいちばんいいことだった」
というセリフに出会って “いい子って表現アレルギー”が消えていきました。
ああ、言葉って誰がどう使うかによって違って聞こえるんだな、と。
あーーー長くなりすぎた。
最後に同時収録の『ミケルの庭』のお知らせだけ。
ようこのその後が出てきます。
主人公はようこってわけではないのですが。
あとマーガレット(・・って誰でしょう?えへっ)もちらっと。
そしてこの2つの話の間に、今回私が借り損ねた『からくりからくさ』があるようです。
早く来週になってーーー