ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

038. すっきりと初日の出

2018-11-24 | エッセイ

 新年はどうやらまともに初日の出が拝めそうだ。
  というのもベランダの東側を覆っていた松の大木がばっさりと切り倒されたおかげ。
  ここに住んで長年の間に周りの松の木たちは伸びに伸びて、もうちょっとで我が家のベランダに届きそうなほどだった。

  夏は猛暑続きで全国各地で山火事が次々と発生して大騒ぎだった。
  そのニュースは日本にも流されたそうだ。
  その騒ぎのあと、政府広報らしきもので「家の周囲50mに生えている木を切りましょう」と何度かTVのCMで流れるのを見たことがある。

  「うちの周りの木も切ってほしいな~」と思い続けていた。
  この松林は下から吹き上げてくる風を防ぐためにもずいぶん役にたっているし、山鳩の巣もずいぶん前から枝の二股に架かっている。
  多産な山鳩は雛が巣立ったかと思うと、すぐに次の卵を抱いている様子で、巣の中が冷える暇もないほどしょっちゅう使っていた。
  もし松林を伐採したらきっと山鳩一家は困ることだろう。
  火事を心配すると伐採してほしいし、山鳩のためには切らないでほしいし…と私も困ってしまった。

  でもある日、一台のトラックと三人の男たちがやって来て上を見上げてなにやら相談をしていた。
  そしてとうとう松の木の伐採が始まったのだ。
  でも大木を二本切り倒してそれで終わりだった。
  山鳩の巣がある松ノ木はそのまま残った。我が家のベランダに一番近い木なのだが。
  切り倒した木材はいつまでもそのまま置いてあった。

  私たちはそのあと旅に出て、帰宅したのは一ヶ月近く後だった。
  さすがに木材はどこかへ運ばれていた。
  それから一週間程経ったある日、騒がしい声が下のほうから聞こえてきた。
  以前に木を切った男たちがまたやって来たのだ。
  どうやら残りの木を切るつもりらしい。

  今度は木の上には登らずに、根元にチェンソーを入れて切り始めたのだが、なにしろ幹が大きいのでなかなかうまくいかないようだ。
  ある程度鋸を入れるとその少し上にワイヤーを結んで、ちょっと離れた所に停めてあるトラックがワイヤーを巻き始めた。
  松の木は鋸の切り目からメリメリと引き裂かれて、一階の家の風呂場の窓枠を直撃した。
  マリアさんとこのトニーさんが驚いて家から飛び出してきて、目を丸くしている。
  でも幸いにも窓は大丈夫だったらしい。
  男たちは次の大木もなんとか切り倒した。
  この木に山鳩の巣があったのだが、今は空家だったらしく山鳩の姿はどこにもなかった。
  残念だが仕方がない。

  三本目の大木は、トラックが水道局の周りをぐるっと大回りして今までと反対側に降りてワイヤーを掛けた。
  ずいぶん乱暴なやり方でワイヤーを引っぱると、大木は根元からバリバリと割れて周りの木の枝を引き裂きながら、それでも男たちの狙った場所へなんとか無事に倒れていった。
  前回のように短く切らずに、一本の木材が転がっている。
  今度は立派な長い板が何枚も取れることだろう。

  おかげで松林もずいぶんすっきりとなった。
  今まで隠れて見えなかった町の家並も、サド湾の入り江の奥もかなり見晴らせるようになった。
  そして何よりも良いのは朝の太陽が顔を出す瞬間が見えるようになったことだ。
  今までは初日の出は、風呂場の小さな窓からしか見られなかった。
  今度からは居間のベランダからたっぷりと真っ赤な初日の出を拝めるようになる。

  山鳩も松の木の巣がなくなっても平気な様子で、「クエーッ」と鳴きながらベランダの上を目指して行ったり来たりしている。
  どうやら屋根の隙間に新しい巣を作ったようだ。
  そこからはもっときれいに初日の出が拝めることだろう。

MUZ
(2005/12/31)

 

(この文は2006年1月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ 』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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K.052. エルバス市紋中皿 Prato

2018-11-24 | 飾り棚

直径26cm

 エルバスのTURISMO(観光案内所)で10年以上も前に買ったエルバス市の紋章入りの中皿。
 そのツーリスモはエルバスの中心地にどっしりと構えるノッサ・セニョーラ・ダ・アスンサオン教会と対峙するところの古い趣のある建物の中にある。

 教会とツーリスモの間には三角形の白と黒にモザイクされた美しい広場があった。
 その広場は今、大きく掘り返され、2台のショベルカーが忙しく働いている。たぶん地下駐車場を造っているのだろうと思う。

 かつてはツーリスモの真ん前に路線バスの発着場があった。
 エルバスの町は城壁に囲まれている。
 二階建てのバスはその城壁の中に入りグルッと五分の一ほど周り狭い石畳の道を家の軒先を引っ掛けんばかりにして中心広場まで上って行く。そしてツーリスモの真ん前で人々を降ろす。
 「何もこんなに苦労をして上って来なくても城壁の外にバスターミナルを造れば良いのに」といつも思っていた。

 だいたい小さな町である。
 せめて城壁の中はクルマ禁止にして、町の人や観光客のためにトランだけを走らせれば良いのに!と思っている。
 町の人には無料で定期券を配布して、観光客からは乗車代金を徴収する。
というアイデアはどうであろうか?
 商店への納入業者の通行は早朝のみ!とかに制限して。
 観光資源の豊富な古い町である。果たして地下駐車場は必要なのだろうか?

 各町ごとにそれぞれ特徴的な紋章があり、それを見るのも楽しい。
 ちなみにセトゥーバル市の紋章は中心部分に帆船が描かれている。 MUZ

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