ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

042. ジラソル(ヒマワリ)はどこに?

2018-11-28 | エッセイ


 



5月の18日にポルトガルに戻ってきて、車検や画材の購入などを大急ぎですませてから、野の花を見るのを楽しみに郊外に出かけたのだが、もうどこもほとんど枯れていて、がっかりしていた。
今年は野の花が終るのがずいぶん早かったようだ。

それから猛暑がやってきた。
猛暑が去った後、しばらくして季節はずれの雨と風それに雷まで加わった嵐が3日ほど続いた。
バターリャの近くの町ポルト・デ・モシュでは集中豪雨で、車に乗っていた親子が亡くなったという。
例年なら6月半ばといえば毎日晴天続きで、この時期に大雨が降ることは考えられないことだ。
スペインではこぶし大のヒョウが降って、屋根を突き破ったというニュースが流れた。

嵐が去った後も数日どんよりとした日が続いて、なかなかすっきりと晴れない。
でも天気の回復をいつまで待っていてもらちがあかないし、
ちょうどサッカーワールドカップの「日本ーブラジル」戦まで数日間あるので、アレンテージョの旅に出ることにした。
目的はスケッチとそして、ジラソル、つまりヒマワリ畑。

いつのまにかもう6月も半ば。
今の時期はヒマワリの花が満開になっているはず。
ヒマワリは種から食用油をとったり、マーガリンを作ったり、種そのものをつまみで食べたりする。
畑で栽培している作物だが、広大な面積にいっせいに咲いている光景は、野の花の咲き乱れる豪華さとはまた違う、豪快さがある。
「よし、ヒマワリ畑を見に行こう!」

何年か前になるがモウラの近郊で見かけたことがある。
どこかを走っていて、偶然ヒマワリ畑に出会ったのだった。
でもどの道路沿いだったかまでは覚えていない。
とりあえずあのあたりの田舎道を走ればどこかで見られるかもしれない…。

朝、どんよりと曇っていた空もだんだん晴れて、エヴォラに着く頃には強烈な陽射しになった。
町を歩いても知らず知らずに日陰を求めている。
海岸沿いの町に比べて、内陸は暑さがぜんぜん違う。

エヴォラからモウラに向かった。
道の両脇には大きな鬼アザミがところどころに紫の花を咲かせている。
花の大きさは10センチ以上もあるだろうか。
でも茶色に枯れかかったのも多い。
もう鬼アザミも終わりかけだな~とがっかりしたのだが、そのあと次々に群生が現れ、咲いている花の数もどんどん多くなっていった。
ちらっと見た目にはゴワゴワとごついが、近くで見るとなかなかきれい。
群生していると、紫色が周りの枯れ野にくっきりと映える。

 

 


花はこぶし大よりも大きい巨大アザミ

ところでヒマワリ畑はどこにある?
次々と現れるのは、麦刈りの終わった畑や枯れ草の茂るオリーヴ畑ばかり。
結局、モウラまでの間にはヒマワリ畑はぜんぜんなかった。

モウラの特産はオリーヴ油。我が家でもよく使っている。
ラヴェルにはモウラのお城が描かれている。
そのお城の前にあるレシデンシャルに泊った。
部屋を決める前に「見せてください」と言うと、「どうぞどうぞ」と気持ち良く見せてくれる。
ホテルと名のついた宿は無理だと思うが、ペンションやレシデンシャルなどはどこでもそうして下見ができるから、
もし気に入らなかったら他の宿をあたればよい。
気にいった部屋と納得値段で泊れるから、すごく親切なシステムだと思う。
そのレシデンシャルはもともとは古いペンションだったらしいが、建物全体を立て替えてあり、どこを見ても清潔で気持良かった。
風呂はシャワーだけだが、エアコンまで付いている。
内陸の町に泊まると、夏は熱帯夜、冬は冷蔵庫の状態なので、今までは真夏と真冬は旅をしなかったのだが、
エアコン付きの宿がどんどん増えてきたのは旅行者にとってありがたい。
私たちはいつもレシデンシャルに泊る。ほとんどがリメイクして、しかも同じ程度の設備のホテルに比べて低料金。
モウラのレシデンシャルも二人で朝食つき35ユーロ(約5000円)。
朝食も普通はパンとミルクとコーヒーとジャムだけだが、このレシデンシャルはハムやチーズやヨーグルトなどが用意してある。
モウラでは数年前に三ツ星ホテルに泊まったことがあるが、そこに比べてバスタブが付いてないのと、部屋が少し狭いだけの違いで、朝食の内容はほとんど同じだ。

 


モウラの城と、泊ったレシデンシャル

モウラのお城は城壁だけは立派に残っているが、中には入れない。
ずっと廃墟のままだったのだが、今度ようやく改修工事が始まったようで、塔の周りに鉄骨の足場が組んであるのが見えた。
その塔のてっぺんにはコウノトリが大きな巣を掛けている。
工事が始まったらどこかに移されるのだろう。

翌日、モウラからセルパに行く途中の国道沿いでローマ橋を見かけたので車を止めると、今は使われていない石橋を囲むように、広大なヒマワリ畑が広がっていた。
まだ花びらをつけたのもチラホラと残っているが、そのほとんどがもう種をつけて地味な色になっている。
もしローマ橋がそこになかったら、ヒマワリ畑に気が付かずに通り過ぎていただろう。

久しぶりにセルパの町を歩き回った後、ヒマワリ畑を求めて走ることになった。
ローマ橋の所は花がもうすっかり終わっていたが、ひょっとしたら他の場所ではまだ咲いているかもしれない。

地図を見て今度は国道ではなく、もっと田舎の道を選んだ…つもりだったのだが。
セルパを出る時、どこでどう間違ったのか、行けども行けども一本道が続き、しかも道路標識も何もない。
地図はあっても、道路標識で確認できないので、自分たちが今どこを走っているのか見当がつかなくなった。
だいぶ走ってようやく他の道との交差点に出た。
そこにやっと見つけた標識を見ると、なんと目的地と反対方向に来てしまったようだ。
左に行くとモウラに戻る道、右は地図を見るとスペインへ行ってしまう。
今きたばかりの道をセルパに戻るのもいやだし、そうすると残された道はまっすぐしかない。
ぐるりとずいぶん無駄な遠回りだがしかたがない。

その道に入ってすぐ、二本の大きな松の木が立っていて、空にはコウノトリが一羽飛んでいるのが見えた。
その松の枝には大きな巣が架かっている。
しかもあっちにもこっちにも、数えると7個もあった。どの巣にもヒナが育っている。
二本の木に大きな巣が鈴なりの様子で、コウノトリの集合住宅といったところ。
このあたりには川や湖が多いので、えさになる小魚もたくさん捕れるのだろう。

そこを過ぎると牧場があった。
その向こうの丘になんだか薄っすらと黄色い畑が見える。
ひょっとしてあれはヒマワリ畑?
10倍ズームをいっぱいにしても遠景にしか写らない。
他人の敷地に入り込むわけにもいかないし。
せっかくヒマワリを発見したのに、近くで見られないのは残念だがしょうがない。
やがてT字路に突き当った。
左に曲らないといけないのだが、ふと右を見ると、黄色に染まった畑がすぐ側にある。
「わっ、あれだ!」
土ぼこりのもうもうと立つ道を100メートルも行かない所に、あった、ありました!
広大なヒマワリ畑が道の端から向こうの丘の斜面いっぱいにうねうねと広がっている。
接写、遠景、なんでも撮り放題!
しかも今が満開の花畑だ。

 


ヒマワリ畑の端っこに咲く鬼アザミ

 


ひまわり畑とコルク樫

田舎道に迷いこんだおかげで、ぐうぜん出会えたヒマワリ畑でした。

MUZ
2006/06/28

©2006,Mutsuko Takemoto
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(この文は2006年7月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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K.56. ニワトリ型卵入れ Galinha Caldas

2018-11-28 | 飾り棚

長さ13cm

  今年は鳥年。
 トップバッターにふさわしい物をと思い、ニワトリの卵入れを選んでみた。

 オビドスの隣町、カルダス・ダ・ライーニャ特産の焼き物。
 縮めんキャベツの葉脈まで克明に模した陶器で有名だが、
 その他にもイセエビの形、フルーツの盛り合わせの陶器などいろいろある。

 ボルダロという人が1884年に窯を開いて創始者になった。
 ボルダロの作品は手作りの良い物がリスボンの古代博物館にある。

 でもこれは型で作った超安物。

 我が家では、原則として禁煙だけれど、たまに来られる愛煙家にこれをそっと出す。
 ニワトリを持ち上げてタバコをサッと入れてすばやく蓋をすると、煙が立たない。

 本来は長さ30センチほどの大きなもので、ニワトリの蓋を取ると、卵を入れる中皿があり、12個の卵が置けるようになっている。MUZ

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