10月になっても晴れ日は続く。
ただし、セトゥーバルでは…と断わらなければいけないのだが~。
リスボン以北では雨降りばかりだったのに、セトゥーバルから以南では晴れ日が続いている。
しかもこのところ毎日汗ばむほどの暑さ。
10月も後半だというのに。
こんな日はビーチに行こう!
セトゥーバルにはビーチがいくつもある。
代表的なのが、サド湾を渡ったところにあるトロイア。
バルコ(渡し舟)に乗って15分、
白い砂浜が長々と続く素敵なビーチだ。
でも数年前からトロイアは高級ホテルと高級マンションの立ち並ぶリゾート地に変身した。
バルコの料金もフェリーの料金も一気に2倍以上も値上がり。
行きづらくなってしまった。
しかし対岸に渡らなくても、こちら側に数箇所のビーチがある。
町外れにあるプライア・デ・アルバクエルは歩いて行こうと思えば行けるほど。
駐車場もあるし、レストランやバーもある。
先週、夕方にそこに行ってみた。
レストランはもう閉鎖していたが、バーは営業していて、ひまそうなおじさん達がカードをやっていた。
ビーチには日光浴をしている人たちがあっちこっちに寝そべっている。
今週は別のビーチに行った。
そこはちょっと遠い。
クルマで15分といったところか。
アラビダ山の麓、セメント工場を抜けて、オータオンの病院を過ぎたところにある、プライア・デ・フィゲイラ。
がけ崩れ防止の金網が一面に張られた巨大な崖の下に広がるビーチだ。
落石を防ぐトンネルも最近作られたから、もともとかなり危険な所だが、道路を隔てて広い駐車場とレストランがあり、ビーチはそのまた向こうにあるから、たぶん大丈夫。
でも次からは落石のおそれのない端っこにクルマを停めることにしよう。
その日はビーチ用の椅子をふたつ持っていった。
波打ち際まで細かく深い砂浜が続いて、足を取られそう。
ビーチにはあちこちに人々が寝そべっている。
海に浸かってはしゃいでいる家族連れや、一人で寝そべって身体を焼いているビキニ姿の若い女性、老人夫婦は服を着たまま散歩している。
私たちもノースリーブと短パンでビーチチェアーに座って海を眺める。
焼け付くような強い日差しは、夏そのもの。
水着を持ってくればよかった!
水は青く澄みわたり、波はひたひたと小さなさざなみ程度でとても穏やか。
でも足先を浸けるとさすがに冷たい。
こんなに冷たいのに泳いでいる人が何人もいるのは、驚き。
水際をジョギングしている男性。
胸板厚く、胸毛もくもく。
何度も何度も往復して走っている。
数えただけで10回以上も走ったあと、次は水に入り、端から端までクロールで泳ぎ始めた。
これも何回も往復。
すごい体力だ。
ひょっとしてトライアスロン競技に向けて鍛えているのかもしれない。
引き潮の時間らしく、波打ち際はどんどん後退していく。
ドイツ人の父子がざぶざぶと水に入り、5メートルほど沖まで行き、横に歩き始めた。
腰までの水深しかない。
その手前はそれより深そうだから、どうやらそこの部分だけ帯状に砂の道があるようだ。
その先にはちょっと小高い砂の島が見える。
父子はその島に向っている様子だ。
遠くに姿を現わした貨物船がみるみる大きくなり、ビーチの目の前に迫ってきた。
ここはサド湾が大西洋に流れ込む所なので、ビーチのすぐ先は大型船が航行できるほどの深さがある。
巨大なビルのような貨物船が父子の向こうを通り過ぎて行った。
しばらくして、高さ50センチほどの波が父子に襲いかかった。
貨物船がかき分けた波が岸に向って押し寄せたのだ。
父子は島にむかうのを諦めて、岸に戻ってきた。
砂の島に目をやると、何かが動いている。
ゴマ粒のように小さく見えるが、それは一人の男だ。
ゆっくりゆっくりと、島の半分を歩くと、ふいに見えなくなった。
どうやら向こう側は低くなっているようだ。
しばらくすると、右側から姿を現わした。
男は何回も何回も島の周りを歩くのを繰り返している。
それから30分以上経っただろうか。
島の男はまだ周り続けている。
波打ち際はだいぶ遠のいて、砂の道がかなりはっきりしてきた。
その間が湖のようになり、一羽のウが水に浸かり、えさを探している。
魚が一匹跳ねたと思ったら、すばやくウが口にくわえた。
さっきから波打ち際を行ったり来たりしていた男女が決心したように水に入り、砂の道を歩き始めた。
男は20代、女は40代に見えるから、親子だろうか。
砂の道は先ほどと違って、もう足首ほどまで浅くなっている。
でもところどころ深いところがあるようで、時々立ち止まり、少し引き返し、道を探りながら、少しずつ砂の島へ向っていく。
彼らがかなり進んだ時、さっき途中で諦めたドイツ人の父子が再び砂の道を歩き始めた。
今度はずいぶん浅くなっているから、どんどん進んで行く。
しばらく間を置いて、男が後に続いた。
さっきジョギングをしていた胸毛男だ。
あれほど運動をしたあとなのに、また島まで歩いている。
すご~い!
水際にいたビア樽のようにぶっといおばさんが、どっこいしょと砂の道に上がり、のそのそと歩き始めた。
「まさか彼女が~」
でもゆっくりと進んで行く。
最初に歩いて行った男女はとうとう砂の島にたどり着いたようだ。
ところで島の男は?
島に着いたのは二人なのに、島にはごまつぶのように小さな人影が3人寄り添っている。
そこにドイツ人の父子がたどり着き、しばらくして胸毛男も到着した。
ビア樽おばさんはまだ道半ばである。
MUZ
2010/10/21
©2010,Mutsuko Takemoto
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(この文は2010年11月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)