このごろはどこもここも異常気象だらけだ。
地球温暖化会議が紛糾し、その熱を冷ますかのように、ヨーロッパは100年ぶりとかの寒波に襲われている。
パリは12月の初め、大雪が降り、モンマルトルの丘にそびえるサクレクール寺院から下に降りる急な階段を、若者がスキーで滑降しているニュースを見てびっくりした。
まるでハリー・ポッターさながらファンタジー映画の1シーンを観ている様な映像だった。
日本でも寒波。
その前には新潟や秋田などで竜巻が発生した。
数年前には宮崎の延岡市で竜巻が発生、街中を縦断して大きな被害が出た。
私は宮崎で生まれ育ったが、
小さな竜巻の子供が落ち葉をくるくる舞い上げているのはしょっちゅう目にして面白がっていたものだ。
でも竜巻で大きな被害が出たという記憶はなかった。
竜巻はアメリカで起きるものだとばかり思っていたのだが。
12月の半ば、ポルトガルのトマールで竜巻の被害が出た。
公園の大木は根こそぎ倒れ、街路樹は幹の途中から引きちぎられ、電柱は引き倒され、民家の屋根は剥ぎとられていた。
幸い、人的被害はなかったが、物的被害はすごい。
一瞬の強風が残した爪あとは莫大なものだ。
竜巻は地震と同じで、突然始まって一瞬に破壊してしまう。
クリスマスが近づくと、ポルトガルのテレビでは毎年決まったように「オズの魔法使い」を放映していた。
ジュディ・ガーランドの少女時代の代表作、1939年製作のカラー映画だ。
物語は、アメリカカンザスで少女が大きな竜巻に巻き込まれ、オズの国に運ばれていくことから始まる。
途中で脳のない案山子、心のないブリキの木こり、臆病なライオンと出会い、それぞれの願いを叶えるため、助け合いながらオズの魔法使いに会いに行く。
ファンタジーな内容で、この映画の予告が始まると、「またクリスマスだ」と感じるのだった。
でも去年あたりからさすがに古過ぎるのか放映しなくなり、現代の日常生活を描いたクリスマス映画にとって代られた。
ところが今年は、実際に強烈な竜巻がトマールを襲ったのだ。
トマールは14世紀、エンリケ航海皇子が率いるキリスト騎士団の本拠地として栄えた。
街の中をナバオン川がゆっくりと流れる、水の都という印象だ。
私たちがトマールを訪れたのは、まだポルトガルに住みつく前のこと、日本からリュックを担いで一ヶ月間ポルトガルを旅した時だ。
バスで着いて、ペンサオンを探して歩いたが、どこにも見当たらず、日も暮れそうだし、どうしようかと不安だった。
通りを歩いている人もまばらだったが、正面から来るやけに目立つ男が目に留まった。
がっしりした体格の若い男で、肩を怒らせて歩いてくる。
靴は派手な彫りの入ったカウボーイブーツ。
でも見かけによらず、気の良さそうな感じもする。
思い切って尋ねてみた。
「このあたりにペンサオンがありますか?」
男はちょっと考えていたが、心当たりを思い出したらしく、
「よし、案内してやるよ」と歩き出した。
私たちが道を尋ねた場所は町外れだったらしく、男に連れられて人通りの多い所に着いた。
「ここにペンサオンがあるけど、部屋が空いているかどうか聞いてくるよ」
男は二階に上がって行き、すぐに下りてきた。
「部屋はあるそうだよ。じゃあね」
と言ってすたすた歩いて行ってしまった。
お礼をろくろく言うひまもなかったが、ずいぶん親切な男だった。
旅先で親切にしてもらうと、いつまでも心に残る。
あのカウボーイブーツの男は
オズの国で心をもらった親切なブリキの木こりではなかったのだろうか?
あれからずいぶん時間が経ってしまった。
その後、ポルトガルに住み着いて画材を求め全国の町や村のほとんどを訪れたけど、トマールはあの時一度行っただけ。
トマールもかなり変ったことだろう。
特にこんどの竜巻騒ぎで大変なことになっている。
しばらくして落ち着いたら、もう一度訪ねてみよう。
MUZ
2010/12/16
©2010,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。
一切の無断転載はご遠慮下さい
Copyright Editions Ilyfunet,All rights reserved.
No reproduction or republication without written permission.
(この文は2011年1月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。。)