ポルトガルで納豆を作り始めてもう十数年になる。
海外で日本の食品を作ろうとすると、材料を手に入れることから始まる。
たとえば納豆を作る場合、大豆が必要だが、周りの店やスーパーなどでは絶対に売っていない。
他の豆はいろんな種類が豊富にそろっているのに、大豆と小豆は見かけない。
ところがオレオ・デ・ソーヤ(大豆油)はどのスーパーの棚にも並んでいるし、このごろは紙パック入りの豆乳まで売られている。
それなのに原材料である大豆は売っていない。
ではいったいどこで大豆を手に入れるかというと、健康食品店か中華食品店に行くしかない。
中華食品店はセトゥーバルには一軒もないので、リスボンまで出かけた時にまとめて買ってくる。
とうぜん中国産の大豆。
買ってきた大豆300gはよく水洗いして汚れとゴミを取り除き、大豆の3倍の量の水に一晩漬けておく。
次の朝、硬くて丸かった大豆は2倍以上に膨れて、形も細長い豆に変身している。
これを圧力鍋に入れて、大豆の浸け汁を豆がヒタヒタになる程度にいれる。
このヒタヒタが大事です。
私はこの水加減で何度も失敗した。
水を少しでも多く入れすぎると、圧力がかかったときに水が吹きこぼれてしまう。
コンロの周りは水浸し、ガスの火も消える。
そこで、水は必ずヒタヒタ。
鍋の蓋をきっちりとして、強火にかけ、沸騰しシュルシュルシューとコマが回り始めたとたん、ガスを一番弱火にする。
それから約1時間ほど弱火で炊く。
この間に道具を用意する。
20センチ四方の木箱と、幅の広い竹の皮2枚、布巾1枚、リンゴ箱用(何でもいいけど、とにかく)蓋付きの発泡スチロール箱、湯たんぽ、ひざ掛け用毛布、そして納豆菌
木箱はあちこちに隙間のある方が良い。
納豆菌は空気を好むらしく、完全に密閉した容器では出来がよくないそう。
我が家で使っている木箱はビトシの手作りで、もともと田舎豆腐を作るためのものだったが、豆腐作りは手間ばかりかかってちょろっとしかできないのであきらめて、もっぱら三段重ねの押し寿司を作るのに重宝している。
底がカパッとはずれるようになっていて、空気はどこからでも出入りし放題。
ある時はバッテラ寿司、ある時は納豆作り~と大活躍の万能箱。
竹の皮が手に入らなかったら、清潔な布巾でも良いが、あとの洗濯がちょっと手間です。
私は帰国した時に必ず宮崎名産の灰汁(あく)巻きを買うことにしている。
竹の皮で包んであるので中味は日本で食べて、竹の皮はポルトガルに持ってくるのだが、破けやすいので、毎年新しいのに更新する。
発泡スチロール箱は、宮崎のスーパーに行った時、もらったもの。
ちょうどその時、店内で青森物産展が始まった初日で、業者がリンゴ箱から次々とリンゴを取り出して、台に並べている最中だったのが、私にとってラッキーだった。
ぱっと見た瞬間、「これは味噌麹作りに最高の箱だ!」とひらめいて、厚かましくお願いした。
その時は海外で味噌を作る為の麹を発酵させる箱を探していたのだ。
そのあと、納豆作りにも挑戦して、同じ箱を使い、それから十数年、箱は今でも味噌麹培養と納豆作りに立派に役立っている。
納豆作りに湯たんぽというと奇妙な組み合わせに聞こえるが、これは必需品です。
箱の中の温度を一定に保って納豆菌の発酵をさせた後、じょじょに冷めていく優れもの。
私たちは毎年4月前後に帰国するので、そのころは湯たんぽなどはどこの店でもとっくに片付けてしまって、どこを探しても無くて、困ったものです。
あちこち電話をかけまくり、やっと倉庫の中から見つけてもらった湯たんぽ。
初代は金属製、二代目はプラスティック製。
大豆を煮て1時間後、蓋を開けて、豆を一粒、親指と小指の間に挟んでみよう。
簡単に潰れたら出来上がり、少し固いようならまた圧力をかけて弱火で15分ほど煮る。
湯たんぽに熱湯を入れて、発泡スチロール箱に入れておく。
洗い桶に熱湯を溜めて、その中に木箱を全体が浸かるように入れて、消毒。
竹の皮も熱湯にサッとくぐらせて水を切り、木箱に十文字に敷く。
納豆菌の粉、耳掻き3杯ほどを少量の水で溶いておく。
煮あがった大豆を煮汁を切った後ボールに移し、その中に納豆菌を水で溶いたものを加えて、
全体をサッとかき混ぜる。
木箱に手早く入れて、発泡スチロール箱の中に湯たんぽと並べて入れ、蓋をして居間などの暖かい所に置いて、ひざ掛け毛布を上からかける。
約20時間後、箱の蓋を開けると納豆のいいにおいが漂ってくるはず。
蓋を取って2~3時間ほど常温に置いて、出来上がり。
温度が冷めたら、1回に食べる量づつラップに包んで冷凍保存しておけば長持ちするし、好きな時にいつでも食べられる。
熱々ご飯に手作り納豆、刻みネギと海苔をぱらぱらとかけて、いただきま~す。
MUZ
2007/01/31
MUZの手作り納豆レシピ
1.材料
大豆300g、納豆菌少々
道具
蓋付き発泡スチロール箱、木箱、布巾、湯たんぽ、竹の皮、圧力鍋
2.一晩水に漬けた大豆を圧力鍋に入れ、浸け汁をひたひた程度に加える。
最初強火で、コマが回り始めたら弱火にして約1時間煮る。
3.その間に納豆菌を少量の水で溶いておく。
木箱と竹の皮を熱湯消毒して水を切る。
4.1時間後一度取り出し、親指と小指で挟んで左のように潰れたらできあがり。潰れなかったらもう一度圧力をかけて15分ほど煮る。
5.煮あがった大豆は水を切り、ボールに移して水溶き納豆菌をさっと混ぜ込み、竹の皮を十文字に敷いた木箱のなかに入れる。
6.発泡スチロール箱に熱湯を入れた湯たんぽを入れ、布巾で包んだ木箱を横に並べて、蓋をする。
居間などの暖かい所に置いてひざ掛け毛布で軽く包む。
7.約20時間後、蓋を開けると、表面を白く覆われた納豆ができている。
ガス抜きのため、2時間ほどそのまま放置して、出来上がり。
納豆菌を売ってくれる所
成瀬発酵研究所
住所:東京都練馬区練馬2-18-7
©2007,Mutsuko Takemoto
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(この文は2007年8月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)