道しるべの向こう

ありふれた人生 
もう何も考えまい 
君が欲しかったものも 
僕が欲しかったものも 
生きていくことの愚かささえも…

当分消えそうにない…

2022-05-30 16:10:00 | 日記

ショートボブというより
無造作にカットされたヘアスタイル

ブルーのTシャツからは
はちきれんばかりの両腕

くびれのない寸胴と
ランパンに隠された
アクセントも感じられないヒップ

黒いレギンスで覆った
太めのふとももとふくらはぎ

だけど
単なるおデブさんではない何かが
彼女の後ろ姿からは感じられた

小太りなのに
動きそのものがそんなに重くない
というよりむしろ軽く見えて…

いわば
成長しきれてない
女子中高生にありがちなスタイルだと
僕の目には映って…

でもたしか18歳以下は
ウルトラに参加できないはず…
ってことは20代か?

15キロ過ぎから
追い越したり
追い越されたり
繰り返し続いていた

その間
道端で応援してくれてる人たちや
エイドステーションのオバさんたちに
走るの代わってよ〜とか
もう帰りたいよ〜とか
死んじゃうよ〜とか
ジョークを投げかけながら走ってたのを
シッカリ聞いていたのか
信号待ちの交差点で止まったとき
彼女はそれまでかけていた
真っ黒なサングラスを外して
僕に微笑みかけながら隣に並ぶように…

チャラいジジイランナーは
そんな彼女の笑顔に嬉しくなり
思わず声をかけた


ワカモノ女子よ〜結構速いじゃん!

オジさんこそ〜!


そして
シンクロするように声を出して笑った
お互いに…

それから
同じように何度も
追い越し追い越されつつ…


この調子で折り返し地点まで行ければ
それでもう完走できるんじゃない?

何言ってんだよ
折り返してからがウルトラの本番さ!


わかってるような口振りは
彼女よりも自分自身に言い聞かせるために…

51キロの折り返し地点まで長く続く
急な登り坂を頑張って歩くジジイの脚は
すでに限界に近く…

ようやく折り返し地点に辿り着いたものの
歩いて登るのが必至の急坂は
下るときも駆け降りられないほどの勾配で…

それまで感じることのなかった
両膝上の内腿の痛みと疲労感が
完走への不安を俄かに駆り出し…

(こりゃヤバいゼ〜)
(完走できるかな…)

そう思った時点で
たぶん僕は負けてしまっていたのだろう

急坂が終わってからも続く
緩やかな長い下り坂になっても
内腿の痛みと疲労感は消えず
消えるどころかますますひどくなり…

そんなジジイを置き去り?にして
ワカモノ女子は軽快に進んで行った
やっぱり若いってことだなぁ…

折り返し地点から15キロほど進んだ
とあるエイドst.に
ヘロヘロになって辿り着いたとき…


オジさん遅いよ〜!
待ってたんだよ〜!

おおっワカモノ女子よ〜
やっぱキミ速いじゃん!


彼女の顔は疲れた風もなく
表情は元気そのもの


ネェ
一緒に写真撮ろうよ〜

(なんだそれでオレを待ってたのか?)


彼女は自分のスマホをリュックから取り出し
エイドのボランティアのオバちゃんに渡した

オバちゃんがスマホのカメラを向けたとき
僕は当たり前のように
彼女の肩に手を回して軽く抱くみたいに…

そして
彼女の方も何の躊躇いもなく
僕の腰に腕を回して…

ピースやグーサインで
何枚かのショットを…

見ず知らずの
ジジイランナーとワカモノ女子なのに
あたかも仲の良いカップルのごとく…

4年前に仕事をリタイアしてから
こんな風に若い子の肩を抱くことなんて…

エロジジイの性根は治らず…


それじゃ
アタシは出発するからね〜

エッ?
じゃあ今の写真はオレには?

無事に完走ゴールしたら渡すから!笑

ガチで完走キビシ〜よ〜オレには!泣

じゃあまたね〜
頑張ってね〜

おお〜
またな〜


手を振りながら走り始めた彼女に
手を振りかえしながら
そう返事をするのが僕には精一杯だった

(写メ欲しいなぁ…)

残された40キロ弱の道のり
制限時間までは6時間ほど…

キロ9分ペースで走れれば
ギリギリ完走できそうだけど
僕の脚はすでに悲鳴すら上げられないほど
ダメージを負っていて…

無理をしないで
しばらく歩き続ければ
もしかすると復活するかもしれないと
希望を捨てないでエイドをあとにしたが…


彼女…
ワカモノ女子とあいまみえることは
2度となかった

持っていたサプリも全部つぎ込んだものの
ジジイの脚が甦ることはなかった








80キロのエイドまであともうちょっと…
そう気持ちを奮い立たせながら
自販機で買ったドリンクを手に
フラフラになって歩道を歩いてると…

不意に横付けに止まったワゴン車
中から降りてきたのは
大会事務局のTシャツを着たオジさん!

このままじゃ
制限時間に間に合わないので
リタイアして車に乗ってください

あと25キロくらい
制限時間まで3時間半ほど
普段だったら何でもない距離と時間なのに…

そう思いながら
悔しさが込み上げてきたけど
もう歩かなくてもいいと
ホッと胸を撫で下ろしたのも
間違いのない事実で…

今のこのザマじゃ…







ゴールまであと10キロばかりの地点
リタイアしたランナーたちを乗せた
大型バスに乗り換え
綺麗な夕焼けを見てボ〜ッとしてた僕の目に
飛び込んできたのは…

見覚えのある
あのワカモノ女子の走る姿

(おお〜っ!走ってる走ってる〜!)
(制限時間まであと1時間半近くだぜ〜!)
(頑張って無事にゴールしろよ〜!)

打ちひしがれつつも
心の中で叫んだジジイランナーのエール
ワカモノ女子に届いただろうか?

もう一度会いたい…




よもやリタイアするとは
考えもしなかったスタート前の勇姿?😂

脚の痛みは
当分消えそうにない…

ワカモノ女子への想いも
当分消えそうにない…



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