えつこのマンマダイアリー

♪東京の田舎でのスローライフ...病気とも仲良く...ありのままに、ユーモラスに......♪

心にふれる話 ~意思表示の形~

2015年07月17日 | 雑記

  話 

     ...  

 台風の余波で朝から荒れ模様の天気だった今日、Kさんは憂鬱な気分で
電車に乗っていた。病院の予約をキャンセルしたくなくてしぶしぶ出てきた上に、
政府与党が安保法制案を衆院で強引に可決させたばかりだったからだ。

 ふと、少し離れた場所に立つ女性のリュックサックに目が行った。次の駅で
乗ってきた、2人連れのうちの1人の背中だった。50代だろうか...同じ稲城市民
だろうか...。黄色い布の四角いタグが下げられ、「NO NUKES 脱原発」と
印字されている。Kさんはハッとした。こんな形で自分の意思表示をする
方法があったんだ...背中で、小さな文字でさりげなく...でもしっかりと...。
 さらに、その2人の会話が断片的にKさんの耳に入ってきた。どうやら、
安保法制案の強行採決に反対するデモに参加したときの様子を、リュックの
女性が語っているようだった。「やっぱり、現場に行かないと、その場の
雰囲気はわからないものね」

 Kさんも政権のやり方に反対の意思と怒りをぶつけたい気持ちは山々だったが、
デモや集会に参加する機会をとらえられず、悶々と過ごしてきていた。そんな
Kさんには、黄色いタグと女性の後ろ姿がとても頼もしく映ると同時に、自分の
乏しい行動力を恥じ入らせもした。でも、さらに、Kさんの背中を押しもしてくれた。
電車を降りるとき、あの女性に声をかけてみよう。Kさんにそう思わせたのだ。
 ところが、降車駅に着いたとき、彼女たちは先にホームに降り立ち、向かい側に
停まっていた特急電車に乗り込んでしまった。行き先の違うKさんは、忸怩たる
思いでその場を離れるしかなかった。

 駅前の広場に出ると、乗ろうと思っていたバスがちょうど出たところだった。
今日はとことんついてないなぁ...。強くなった雨足を傘に感じながら、Kさんが
バス停に立っていると、隣りの女性の手許が目に入った。折りたたまれた
チラシが、カバンにしまわれることもなく、傘を持つ手にしっかりと握られている。
国会議事堂のイラストが見える。「3日連続抗議」の字も...。どうやら、安保法制案の
強行可決に抗議する集会のチラシらしい。

 自分よりひと回り以上年配に見えるその女性に、Kさんは今度はすかさず
声をかけた。「そのチラシ、どこで配られていたんですか?」 その女性の
手が指し示したのは、Kさんが出てきた出口とは別の出口だった。Kさんは
質問を続けた。「集会に出られるのですか?」「いえ...」「今までデモや集会に
出たことあるんですか?」「いえ...気持ちはあるんですけど、体力がなくて...」
 この人も同じなんだ...。「やっぱりそうなんですね...私もそうなんです。
気持ちは山々なんですけど、なかなかできなくて...」と言ったところで、
なぜかKさんは胸が詰まってしまった。すると、その女性もしばらく言葉を
詰まらせた後、続けた。「あまりにひどくて...」 その言葉と様子に、Kさんは
大きくうなずくのが精一杯だった。その後2人は、それぞれの思いの中、
無言で雨の景色を見つめるだけだった。

 バスが目的地に近づき、Kさんは降車口近くに進んだ。すぐそばの席に、
あの女性が座っている。Kさんは決めていた。降りるとき、彼女に目で語りかけようと。
ドアが開き、一歩踏み出しながら振り向くと、彼女は下を向いて目をつぶっていた。
またダメか...。Kさんがそう思った瞬間、彼女が顔を上げ、目を開けた。2人の
目が合った。
 想いを目に込め、笑顔でうなずいて見せたKさんに、その女性も笑顔で
うなずき返した。その目はこう語っているようだった。諦めずにがんばりましょう!

 

                                          

 ご無沙汰いたしました。無事旅行から戻ってきております。他に優先している懸案があり、更新が滞っておりますが、ボチボチ再開します。はい...ご明察どおり、Kさんとは私のことでございました(^_^;
 またおつき合いくださると嬉しいです(#^.^#)

 


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