「平和百人一首」とこのシリーズについての解説は、初回記事と2回目の記事をご参照ください。前回記事はこちらで見られます。
なお、かなづかいや句読点は原文のままとするので、読みづらい点はご了承ください。
平和百人一首
生けるものみな満ち足りて住むといふ 国を思ひぬ春の日かげに
日立市下町 酒井 芳水
私の少年時代の夢は、この地上に天国を再現せんとの果無き夢であつた。
そのために費やされた一生の努力は、宛らバベルの塔を築いたニムロデのそれの如く空しき努力であつた。誠に
「人は皆草の如く、その光栄はみな草の花の如し、草は枯れ花は落つ」
である。多くの愛する者を失ひ、又戦禍によつて裸になつた私の心には、いつしか我等が導師の
「神われ等の為に備へたまへる永遠の都の外我等この世に永住の都なく、又これに勝りて慕はしき故郷なし」
と云うあの言葉が深く深く銘刻され、最早この地上に、何一つ私の心を捉へるものがなくなつてしまつた。
うららかな春の一日、らんまんと咲き匂ふ花の下に座して、暖かい日光を浴びながら、心ゆくまで「神の都」を瞑想している時、ふと胸に浮んできたのがこの歌であつた。
(芳水)