6.
入口で手術室用のスリッパに履き替え、車椅子に座らせられる。車椅子は初めての経験だった。押されて手術室まで行く間、何人かの看護師が次々に「こんにちは!」と明るく挨拶してくれる。メガネもコンタクトも使えないので、ド近眼の私には彼女らの表情は全くわからなかったが、とても好意的な感じは伝わってきた。お姫様みたいで、ちょっといい気分。もの珍しいので、見えない目でキョロキョロ見渡す。
手術室に入ると、なぜかびっくり。「広くて明るいんですね~」と言うと、車椅子を押してくれた看護師が、「そうですかぁ?」と後ろで笑う。
手術台に横たわった。不思議なことに、悲壮感はおろか緊張も不安もなかった。無我の境地とはこういうことだろうか…。
「こんにちは」と挨拶しながらスタッフが次々寄ってきて、心電図のケーブルやら何やらつけ始める。ほどなく「プップップップッ…」と自分の心音が聞こえてきた。ゆったりと穏やかに脈打っているのが自分でもよくわかる。まな板の上の鯉の心境があるとすれば、こういうものだろうと思った。
やがて麻酔科医が入ってきて、「Tと申します。どうぞよろしく」と挨拶する。こちらこそ!!! マスクを私の口に当てがいながら、「昨夜は良く眠れましたか?」と訊く。シューッと音を立ててマスクから薬が流れてきた。「さぁ、すぐに眠くなりますよぉ…1、2、3、4、5、6…」 記憶にあるのは、そこまでだった。
入口で手術室用のスリッパに履き替え、車椅子に座らせられる。車椅子は初めての経験だった。押されて手術室まで行く間、何人かの看護師が次々に「こんにちは!」と明るく挨拶してくれる。メガネもコンタクトも使えないので、ド近眼の私には彼女らの表情は全くわからなかったが、とても好意的な感じは伝わってきた。お姫様みたいで、ちょっといい気分。もの珍しいので、見えない目でキョロキョロ見渡す。
手術室に入ると、なぜかびっくり。「広くて明るいんですね~」と言うと、車椅子を押してくれた看護師が、「そうですかぁ?」と後ろで笑う。
手術台に横たわった。不思議なことに、悲壮感はおろか緊張も不安もなかった。無我の境地とはこういうことだろうか…。
「こんにちは」と挨拶しながらスタッフが次々寄ってきて、心電図のケーブルやら何やらつけ始める。ほどなく「プップップップッ…」と自分の心音が聞こえてきた。ゆったりと穏やかに脈打っているのが自分でもよくわかる。まな板の上の鯉の心境があるとすれば、こういうものだろうと思った。
やがて麻酔科医が入ってきて、「Tと申します。どうぞよろしく」と挨拶する。こちらこそ!!! マスクを私の口に当てがいながら、「昨夜は良く眠れましたか?」と訊く。シューッと音を立ててマスクから薬が流れてきた。「さぁ、すぐに眠くなりますよぉ…1、2、3、4、5、6…」 記憶にあるのは、そこまでだった。