モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

ときめきの植物雑学 その18:本草書のトレンド②

2008-01-22 09:08:29 | ときめきの植物雑学ノート
ときめきの植物雑学 その18:本草書のトレンド②

ドイツで勃興する本草書のブーム

1000年以上も持続した本草学の権威、ディオスコリデスを超えるのは、
一体誰だろうか? これが今回のテーマだ。

レオナルド・ダ・ヴインからジョン・ジェラードまで、わずか1世紀もかからずに
対象としての植物をリアルに認識し、写実的に描くことが実現した。
自然・社会を対象として眺め、写実的に特徴を捉える。
この思考の変革は、劇的であり、身近にある植物でなされたことの意味は大きい。

『本草書の時代』をリードしたのはドイツの草本家で、その後同時多発的に
ヨーロッパ各国で同じ動きが起きる。
印刷技術が改革され印刷工業が勃興したドイツでは、聖書に代わる
コンテンツが欲しいという潜在したビジネスのニーズがあった。
この印刷メディアとコンテンツとの新しい緊張関係が、ドイツで始まっていたということだろう。
そして
新しい視線で植物を捉え焼き付けたのは、画家・アーティスト・職人のようだ。
本草家がコピーと構成の役割を担ったようだが、ディオスコリデスをなかなか超えられていない。
アーティストは、既成概念から解き放たれるのも早く、全体を俯瞰する能力が高いのであろうか?
そしてこのような、人材と環境がそろっていたのは、印刷工業が発展しているドイツ以外なかった。

こんな仮説で本草書出版の歴史ドキュメントが読み込めそうだ。

=千年続いた模写の時代=
デイオスコリデス(Dioscorides 1世紀頃)
『薬物について(De Materia Medica Libriquinque)』という本草書を、1世紀の頃に書いた。
・1000年以上もの間イスラム・ヨーロッパの世界で権威ある薬学のテキストとして使用される。



=模写の歴史での最後の本草書=
コンラッド・フォン・メーゲンベルク(Conrad von Megenberg 1309-1374)ドイツ
・1475年『自然の書(Buch der Natur)』最初の印刷版がアウグスブルクで出版。
・母国語(ドイツ語)で書かれた最初の本草書。
・注目点は、木版画が本文を補完する意図で作成・印刷された最初の本。



=本草書の時代の開幕=
ペーター・シェッファー(Peter Schöffer 1430頃-1503)ドイツ
・1485年『ドイツ本草書』出版
・ドイツにない植物を描くために、画家をともなって取材旅行し、
・実写での植物図版が初めて登場した。
・グーテンベルグとの共同経営者だが乗っ取りをおこなった。しかし、写実主義を実践した
ことにおいては貢献度が高い。



オットー・ブルンフェルス(Otto.Brunfels. 1488頃― 1534 )ドイツ
・1530年 シュトラスブルクで『本草写生図譜』第一巻を出版。
・シェッファー以降植物の写実性が劣ってきたが、この本で、ルネッサンスの思想である
写実主義・自然主義を復活した。
・1532年 ドイツ語版『図説本草』を出版。本文はディオスコリデスの複写だが、植物図版が優れており、
植物図の歴史に新時代が開ける。
・この図版を描いたのは、ニューハンブルクの画家 ハンス・ヴァイデイツ(Hans.Weiditz)。
画家の目でありのままに実写し、枯れたところまで描いた。
・ハンス・ヴァイデイツは、アルブレヒト・デューラーと同じ派であり、確かな目を持っていた。
・しかし、植物図版として、必要ないところまで描いてしまったので普遍性が劣った。



レオンハルト・フックス(Leonhard fuchs 1501-1566)ドイツ
・1542年 『植物誌』をバーゼルで出版
(注) 1542 - Fuchs, Leonhard (author) - Basil - The Warnock Library(コピーが出来ませんがかなりのページが見れます)
・約400種のドイツ原産の植物、約100種の外国産の植物を記載。
・植物をアルファベット順に記載し、分類は試みていない。
・内容は過去の模倣であり、科学的な価値には乏しい。
・歴史上高い評価を得ているのは、500を超える植物の図版。
・分業体制で植物図版を作成した初めての本。
・実際の植物を写生したのは、アルブレヒト・メイヤー。図解的に書き直し版木に下絵を描いたのは
ハインリッヒ・フュッルマウラー。版木を彫る仕事をしたのがルドルフ・シュペックル。
・実際の植物をリアルに描くのではなく、種としての共通の特徴的な性質・形態を描き、
オットー・ブルンフェルスの画家ハンス・ヴァイデイツが、ありのままの植物をリアルに描いたのとは大きく異なる。
・植物図鑑の図版としてのあるべき描き方を発見し、確定した。
植物図版アネモネ この高精細度の再構成された精密なアネモネの素晴らしさ。



ヒエロニムス・ボック(Hieronymus Bock 1498-1554)ドイツ
・1538年 シュトラスブルクで『新本草書』を出版。
・1546年 フックスの図版の影響を受け、ブルンフェルス、フックスの図を下敷きにして改定
・ドイツに自生している薬草を自分の目で観察して記述した。



<<ナチュラリストの流れ>>
・古代文明(中国・インド・エジプト)
・アリストテレス(紀元前384-322)『動物誌』ギリシャ
・テオプラストス(紀元前384-322)『植物誌』植物学の父 ギリシャ
・プリニウス(紀元23-79)『自然誌』ローマ
・ディオスコリデス(紀元1世紀頃)『薬物誌』西洋本草書の出発点、ローマ
⇒Here 地殻変動 ⇒ 知殻変動【その15】
・イスラムの世界へ
⇒Here 西欧初の大学 ボローニアに誕生(1088)【その13】
⇒Here 黒死病(ペスト)(1347)【その10】
・グーテンベルク 活版印刷技術(合金製の活字と油性インク使用)を実用化(1447年)
・レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)イタリア
⇒Here コロンブスアメリカ新大陸に到着(1492)【その4~8】
⇒Here ルネッサンス庭園【その11】
⇒Here パドヴァ植物園(1545)世界最古の研究目的の大学付属植物園【その12】
⇒Here 『本草書の時代』(16世紀ドイツ中心に発展)【その17、その18】
⇒Here レオンハルト・フックス(1501-1566)『植物誌』本草書の手本。ドイツ【その18】
・李時珍(りじちん 1518-1583)『本草網目』日本への影響大、中国
⇒Here 花卉画の誕生(1606年) 【その1~3】
⇒Here 魔女狩りのピーク(1600年代)【その14】


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