復旧遅れ 国の責任
元衆院議員・能登半島地震被災者共同支援センター責任者 藤野保史さんに聞く
能登半島地震(最大震度7)からまもなく1年になりますが、被災地の復旧・復興は遅れています。なぜなのか―。被災地の現状と課題を、日本共産党の元衆院議員で「能登半島地震被災者共同支援センター」(石川県羽咋(はくい)市)責任者として支援を続ける藤野保史さんに聞きました。(遠藤寿人)
―1年近くたつ能登地方の現状は?
自治体による全壊家屋の解体撤去(公費解体)はまだ全体の25%しか進んでいません。他の震災のときと比べても遅れが突出しています。そうしたところへ9月、集中豪雨が起き、かつてない複合災害になっています。学校などに開設された避難所には、いまだに300人以上が生活しています。
関連死も増加
石破茂政権は集中豪雨の翌月、被災地への対策をとらずに、総選挙に走りました。地震と豪雨の複合災害に見合った支援をすべきタイミングでそれを行わなかった国の責任は重大です。
深刻なのは、災害関連死が255人(24日現在)と月日がたつとともに増加していることです。直接死の228人を上回りました。申請中のケースも200人を超えています。これは重大な「命の問題」です。
また、自治体の人口減が大問題です。石川県全体では、奥能登(輪島市、珠洲(すず)市、能登町、穴水町)の4市町で4156人減少(11月1日現在)しました。珠洲、輪島両市は約1割も減っています。
「命の問題」と「住めない問題」から、能登を去らざるを得ない。この現象が現在進行しています。自治体任せではとても解決できません。国の責任が問われています。

(写真)支援物資をセンターに運び込む日本共産党福井県委員会から応援にきた人たち=4月4日、石川県羽咋市
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要請10回以上
―共産党はこれまでどんな取り組みをしてきましたか。
日本共産党は民主団体とともに発災から約1カ月後の2月、能登半島地震被災者共同支援センターを立ち上げました。11月末までで支援物資330トン、5キロ入り段ボール箱で6万6000個分の物資を被災者に届けました。延べ7000人を超えるボランティアが来ました。募金は3億円に達しています。この場をお借りして全国の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。
党としては発災直後に能登半島地震災害対策本部(責任者=田村智子委員長)を立ち上げて支援センターと連携しながら、80~100回の国会質問を行いました。
私自身、被災者の声を政府に届ける政府申し入れを10回以上してきました。被災地で自ら被災しながら支援の先頭に立っている党員、議員の皆さんに心から敬意を表します。
能登で生きる希望を
制度ありきの政治変えたい
活動当初は、「共同支援センター? どこの人たち?」という反応もありました。1年たって、被災者や行政との関係が深まりました。今では自治体の後援を受けて物資のお渡し会を実施しているところもあります。保守的な地域ですが、今回の災害を通じて共産党への共感が大きく広がっています。
医療費や介護サービス利用料などの自己負担免除措置の延長は、国会で何度も求めて来年6月までの減免を実現しました。さらに延長を勝ち取るよう力を尽くしたい。
生業(なりわい)をめぐっては、輪島塗の仮設工房づくりなど論戦と運動で実現してきました。
国による被災者生活再建支援金300万円に、県独自で300万円増額する制度をつくらせました。これは被災者の運動と、佐藤正幸党県議の議会での追及などの成果です。
―国の対策は?
国は震災被害に対し、予備費で対応してきました。復旧・復興に何年もかかるのにもかかわらず、総選挙の前までは、自公政権は補正予算を組むという立場を1回も取りませんでした。
国は「制度ありき」で、「それに当てはまらなければ支援しない」との態度です。大規模地震と豪雨というかつてない複合災害であり、関連死の増加や人口の減少を止めるためには、国の支援の抜本的強化が必要です。生活と生業の再建、医療や介護などの基盤再生、1次産業の立て直しが急務です。
「半壊」が基準
仮設住宅ができていますが、6畳と4畳半の部屋が2室だけなど狭いプレハブが大半です。お年寄りのいる世帯で介護ベッドを置いたら仮設の大半が埋まります。しかも、そういう仮設にさえ入れない人たちもいます。自宅の損壊状態が「半壊以上」と判定されないと入れないからです。
仮設に入れない人の家の中には、傾いた家とか、地域で水道が復旧しておらず水が出ない家など事実上住む機能が失われているものもあります。
自治体職員は大合併で削減されたうえ過疎化や高齢化が進み、復興の担い手が減っています。マンパワー不足が大きなネックになっています。現場では専門ではない職員が手探りで実務を担っています。全国からの職員派遣をもっと拡充継続すべきです。
石川県は「創造的復興」を進めています。もともとは阪神・淡路大震災のときに兵庫で使われた言葉で、かつ東日本大震災では宮城県で使われました。「上からの復興」だと私たちは見ています。

(写真)地震で燃えた店舗=2024年5月、石川県輪島市
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(写真)地震でつぶれた家屋=2024年5月、石川県輪島市
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集約化の名で
大本には国の姿勢があります。財務省財政制度等審議会は3月、「被災地は集約化しなければならない」「復興は効率的でなければならない」と打ち出しました。「集約化」とは四つの公立病院を一つにするなどです。
土屋品子復興大臣(岸田内閣)自身が能登に来て、「集約化しないといけない」と記者会見で述べました。能登で生きていこうと希望を求めている被災者に対して、国が「集約化」「効率」を迫るのは言語道断です。
馳浩県知事は3月にはすでに、被災者に「自立」を求めました。国と一緒になって「自立」「効率化」を迫っているのです。
能登の特徴は、1次産業が他地域の約3倍もの役割を担っているところにあります。また温泉などの観光地や輪島塗をはじめとする伝統工芸、あるいは日本酒づくりなど地場産業が多種多様にあります。「能登の里山里海」は世界遺産に指定されています。本来それらを中心にした復興をめざすべきです。被災者の意向を踏まえた再建計画がないまま「上からの復興」を進めれば、能登の良さがつぶされかねません。
今回の地震で北陸電力の志賀原発(羽咋郡志賀町)は、油漏れし外部電源を喪失していました。30キロ圏内で15万人もの住民が避難できない状況に陥りました。住民の不安と不信は非常に大きいです。原発はいますぐにでも廃止すべきです。
―復旧・復興の遅れは政治の責任です。速度を速めるには共産党の前進が必要です。
先の総選挙で少数与党となり、国の姿勢を変えることができるようになりました。能登半島の復興にあてる財源で予備費ではなく補正予算をつくらせたことも一つの変化です。
能登で生きていく希望が持てる政治をつくりたい。大本にある冷たい政治を変えたい―。そのためにも、来年の参院選で日本共産党の比例5人の当選をはじめ、全国での躍進が何としても必要です。私も頑張ります。