主人に聞いてみました。
「今も開業したいって思ってるのー?」と。
「お?なんだいやぶから棒に。んー、そりゃ、いつかはって思わなくもないけどさ。」
「今日先生にね、精神科足りないって聞いたのよ。」
「は?このクリニックが潰れる時代に。余ってるって聞いてるよ。足りないってなにごと?」
「知らないわよ。そう先生がおっしゃるんだから、足りないんじゃないの?」
「そんな地域はあるのかな。」
「さあ。」
と、最初はこんな感じで、恐ろしく適当な家庭の会話からスタートした気がします。
主人はやっぱり非現実的な話として捉えていたと思うんですね。
それで、ちょっとヘルパーさん達にも聞いてみたんです。
「あのー、精神科ってこの辺、足りないんですか?」
「足りないなんてもんじゃないわよ!」
「え?」
「だって、病院に患者さんと行くでしょう?4時間待ちだから!」
「はあ?4時間ですって?そんなの疲れる以外に方法はあるんですか?」
「もう、通常の利用時間では終わらないわよね。基本的に延長っていうか。」
「えー。」
「ご家族で連れて行くのはほぼ無理ってなっちゃうわよね。」
「そんな状況なんですか。」
自分の住んでいる地域の精神科の現状を知らなかったことは恥ずかしいことかもしれませんが、恥ずかしいとかいう感情以上に、その状況はあまりに悲惨だと思いました。通院介助もヘルパーさんのお仕事でそれなりのウェートをしめているようでしたが、往復の時間や診察・会計、薬待ちの時間などを含めると1日つぶれてしまうことも往々にしてあるようでした。
待っている時間もじっと待っていられないこともあるから、大変なのよ、とのことで。
なんとかできることはないのかと思いました。
主人にこの話をしますと「えー、ひどいなあ!」と驚いていました。そして、患者さんのためにはとか、いろんなことをいつもの通りとうとうと話していましたので、しばらく聞いた後に改めて提案しました。
「パパ、開業したいって言ってたよね。」
「うん?まあ。」
「じゃあ、開業しようよ。まずは、ちょっと調べてみよう。」
「はあ?冗談も休み休み言いなよ。君はなんだって奇抜な発想ばっかり。」
「いや、こういうのはね、ご縁もあるんだよ。この時っていう時とのご縁もあるんだよ。」
「だって、君はろくに動けない、やるのは僕なんだよ?」
「それはそうだけど。だからこうやって提案だけしてるんだ。」
「失敗したらどうするんだよ!」
「最善を尽くして失敗したら、その時考えればいいんだよ。命を取られるわけじゃない。生きていればなんとかなる。」
相変わらず思うことは、私が病気でなければ開業はまだしていなかったと思います。
もう失うものがなかった私にとって、開業の失敗なんてむしろ願ったり叶ったりくらいの瑣末なことにしか思えませんでした。
人生のスパイス程度。
元気な時は失敗するのがとっても怖かったので、開業なんて背中を押すどころか認めたかどうかもわかりません。
この時には、借金さえ返し終われば(人に迷惑をかけなければ)、多少のお金くらい失ってもいいじゃんと思っていました。
ということで、段々と主人がその気になりまして。
本当に開業準備を始めることになりました。