少年は走っていた。
はあはあと
それでもまだまだ歩きました。
彼は
じっと座っていると
やみくもに走っていた。
とまると不安の波が来るから。
はあはあと
耐えきれなくなり
菜の花の横の道で倒れ込んだ
それでもまだまだ歩きました。
なぜなら
少年は
ある少女から
とても優しくされたのです。
自分など見向いてももらえないと思ってた少年にとって
少女の態度は
きっと誰にでもそうであるだろうに
臆病な少年にとっては
夢のようなことだったのです
その間とても幸せな時間でした。
けれども少年は
その後
少女が自分には見せたことのないような笑顔を
彼の知らない人に向けているのを見ました。
わずかな間の幸せであったと悟った彼は
とにかく走ったのです。
彼は
海のそばまでやってきました。
波の音を聞きに来ました
「流してしまえばいい。この波に流してしまえばいい。」
彼は胸の中の小さな痛みを
波の中に溶け込ませたいと想ったのです。
小さな胸は痛みではち切れんばかりでした。
じっと座っていると
寄せては返す海の波の音は
彼の心の中の様々な痛みや苦しみや
そして涙が出そうな想いを
少しずつ少しずつ癒してくれました。
きっと海は彼に教えてくれる
そんな想いを
抱くたび
あなたは優しくなれるよと。
幼い少年の心はきっと
また1つたくましくなるでしょう。
彼は
少女が自分に向けてくれたあの優しい笑顔や言葉は
自分が彼女のためにしていたことへの感謝であり
これからも励んでねという
その文言であったことにようやく気づいたのでした。
勘違いしてしまったけど
心配しなくても
彼はいずれ
本物の言葉や愛を向けてくれる人と巡り会えることでしょう。
波の音は
そんな少年の心を
なんだか応援してくれているようでした。
幼い少年の顔に
少しだけたくましさが見えたのは
海に反射した眩しい光のせいだけではないでしょうね。