彼は目を見るとわかる
そう言いました。
彼の直属の上司は
最初彼を厄介だと言いました。
部下の中ではやりにくい部類に入る。
何とか彼をうまく使いこなせないものか
上司は色々悩みました。
そこである才能豊かなもうひとりの部下に相談したのです。
その部下は様々な資料や文献
心理学的な見解を上げて
彼の取り扱い方を指南しました。
ある意味ルーティンとも言えるコツを
上司に進言したのです。
上司はその時から
仕事を円滑に進めるため
彼の持ついい面を伸ばして行けるよう
様々に心配りを始めました。
彼は上司の、想った通り
ぐんぐんと能力を上げていきました。
上司はこれは大成功だと喜びました。
それこそ本当に
上司は色々悩み苦労して
彼をちゃんとしたビジネス人として通用するように指南したのです。
上司に彼を分析し色々進言したもうひとりの部下は
彼の進言が結果に結びついたにも関わらず
彼の評価はあまり高くなっていないと少し苛立ちました。
もうひとりの部下はある日
彼の今の状態を確かめたくて
彼に会いに行きました。
彼は感受性が強く案外神経質な性格でしたが
会いに来たもうひとりの部下の目を見た瞬間に
いろんなことを悟りました。
目を見たから。
彼は長期休暇を取りました。
目に現れたすべての事を悟り
信頼や希望は利益のためだけに作られたものなのかと嘆きました。
上司のことも疑い出す自分が耐えられなくなったのです。
しばらく休みをもらい
海辺の町にでかけた彼に
声をかけてくれたのは
一人の女性でした。
よくわからない中
色々話し込み
彼は自分が飛び出した理由が
ある人の目なのだと言いました。
ひと通り黙って聞いていた彼女は
彼に
会社としては間違ってはいないと想うわ
と言いました。
目は確かにいろんなことを語るし
ある意味傷ついたかもしれない
けれども会社というものはそういうものなのよ
彼女は笑いながら彼に言いました。
毎日ぼーっと過ごすうち
彼はなんとなく
上司にすまなかったなと想いました。
上司は彼にその能力や役割を十分伸ばしてやりたいと言う想いがあったのを
彼は痛いほどわかっていたからです
もうひとりの部下の目は
自分が実はその上司に全てを進言し
君の全ての事を把握している
自分が実は主導権を持っているのだという自信の目で
少し好戦的なものでした。
それがいたたまれなくなっただけでした。
彼女は
「今はしばらく空っぽになりなさい」
そう言いました。
「からっぽにしなきゃ入ってこないわ」
彼はひと月そこにとどまりました。
からっぽにするために。
ひと月たったある朝
彼は想いました
自分の仕事を
自分でしたらいい
想う仕事を
無心にしたらいいのかな
彼は街に戻り
ふらふらと会社の社屋の近くに向かいました。
ふと玄関のところを見ると
ちょっと背中を丸くして
キョロキョロしている人を見つけました
それは彼の事を
帰ってくるかなと
毎朝毎朝
玄関のところでキョロキョロしていた上司の姿でした。
目が合うと
上司は笑いました。
彼は上司の、目を見ました。
言葉よりも確かなものが
その瞳の中にあったのかもしれません。
彼は彼なりの仕事を
していきたいと
心に決めて戻ったのですから。
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なんて。
これは昭和のロマンチシズムかもしれませんねえ。(笑)
しかしこんな物語
どうやっておるごーるに仕立てるの?
と、
自分で笑ってしまう今です。
いっぱいいっぱい浮かぶけど
ちょっとなあ。
でも
本当の大人のメルヘンを
模索している中生まれる物語はたくさんありますね。
試行錯誤中です。(笑)