肌寒やヒトにすり寄る野良一匹
使はれぬままの電話機肌寒し
胡桃とや我が脳味噌の頑なさ
電波塔の潔ぎよく立つ秋気かな
青空をカンバスにして銀薄
故郷の届く差し入れ栗ご飯
連れ合ひを育みし里天高し
つくばいの静もる水面や木の実落つ
ヴィーナスの微笑む風や秋桜
相撲草負けてたたらを踏む子かな
頬紅を初めし乙女や鶏頭花
秋の蜘蛛雄の喰はるる悲哀かな
とんからとはた織る秋の蜘蛛囲かな
とんからとはた織る音や秋の蜘蛛
葉隠れに餌を待つ秋の蜘蛛囲か
故郷に戻れ賑はい菊人形
をさな日のお伽話や菊人形
菊人形いざや別れとかぐや姫
すがれ虫の蟻と比さるる処世かな
秋寂ぶや水琴窟の音澄みて
故郷に日野の山あり秋桜
古戦場を臨みて余呉の芒原
秋深し能登の入日の未練かな
山里に田仕舞う煙立ちにけり
柿をもぐ竿の先なる夕日かな
すがれ虫鳴く夜推理の一書かな
金木犀の雨後なほ増せる色香かな
あらねばてふ立ち様はなく秋桜
立ち様(たちざま)
北アルプスに発す湧水秋澄めり
右左迷いて楽し秋の旅
秋澄むやちひろの描きしをさな顔
陽に熟れてゴーヤ魔顔となりにけり