夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

ウィーンで見た音楽~ホイリゲ

2005-05-04 | music

 3日も、4日もそばばかり(しかも手抜きのw)では、どうも脂っこいものが食べたくなるのが人情というものでしょう。そういう意味では、ウィーンのホイリゲという、ワインの新酒(ホイリゲ)を飲ませる郊外の居酒屋はうってつけです。皮ごとの豚や鶏のローストやソーセージと山盛りのジャガイモ、キャベツの酢漬けなどなど、その一人前の多いこと。いっぺんで脂肪過多になってしまいます。でも、今でも時々食べたいなと、あの味を思い出します。
 ワインもテイスティングなんかなし、銘柄なんかありません。白か赤かと、1リットルとか半リットルとかの分量を注文するだけ。ボジョレヌーボのようなありがたいものではありません。1/4リットルなんて頼めば、日本人は弱いなとからかわれます。
 そういうところでは、やはり音楽。流しのヴァイオリンとアコーディオンが席を回り、シュランメルンと呼ばれる民謡だか俗謡を奏でます。演奏に声を合わせて歌い、おばさんとおじさんが何とも楽しそうに踊ります。
 これはどうも演歌のような感じで、私には入っていけない世界でしたので、ヴィナー・ブルート(ウィーンかたぎ)、メリーウィドウ(ルスティゲ・ヴィトヴェ)ワルツといったオペレッタのさわりのところを頼んでいました。モーツァルトなんて頼んではいけません。一度アイネ・クライネ…を言ってみたら、全然通じませんでした。日本人と見ると「さくら、さくら」なんて弾いてくれるのもいますが、どうみてもチップ稼ぎだけで、周りの雰囲気を考えるとよくありません。
 日本人は慣れてないので仕方ないのですが、チップのあげ方が下手で、少なすぎたり、多すぎたり、日本では下にも置かれないような人がうろうろしているのは、どうもみっともないものです。相手のことを気にするからでしょう。こちらは主人(Herr)、あっちは楽士。出来栄えに応じて、下げ渡せばよいのです。身分をわきまえないとあっちが迷惑します。

 お気に入りの店があって、そこのヴァイオリニストはブルッフもイザイも知らないでしょうが、日本の音大出なんてめじゃない腕前です。顔なじみになると、いい感じで場を盛り上げてくれます。いろいろ話してみると、黒い髪、黒い目の東欧系の名前を持つ彼は、ウィーンは家賃が高いからなんと隣国スロヴァキアの首都ブラスティラヴァの近くから、毎晩通ってくるとのことでした。彼らの生活の一端とヨーロッパの国のあり方を窺わせる話でした。
 ある夜、髪の毛が栗色、目はグレーのヴィナリン(ウィーンのお嬢さん)とその店に行った折、いつもならリクエストを求める彼が静かに弾き始めます。彼の演奏に耳を傾けながらおしゃべりをしていますが、私は彼女の目をじっと見ていました。どうしてこの瞳が表情によって、鳶色に見えたり、緑がかって見えるのかと。ハンガリー風の田園舞曲に音楽が変わり、彼女は手を優雅に上げて、ゆったりと踊り始めます、座ったままで。周りのテーブルから声がかかりますが、それはいつもの囃し立てるようなものではなく、短い感嘆の声です。ヴァイオリンのパッセージに合わせて、揺れる髪の毛の色合いも微妙に変化するようです。子どもの頃はブロンドだったという話をうなずかせるような。……夢のようなひと時の後、彼女は初めて若い女性らしいはにかみを見せました。ワインの酔いも手伝って、私はウィンクする彼に多すぎるチップを握らせました。
 私がウィーンを離れる何日か前に独りで、その店に行きました。いつものヴィナー・ブルートの演奏に(そんなことはしたことがないのですが)小声でいっしょに歌いました。ふだんはチィゴイネルヴァイゼンはめったに弾いてくれませんでした。彼の中の血がこの難曲をいい加減に弾くことを許さないように感じていましたが、その日は快く弾いてくれました。激しく、熱く、そして颯爽と。……私も明るく彼と別れを告げなくてはなりません。Auf Wiedersehen! また会えるように、と。


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4 コメント

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やっぱり (Junco)
2005-05-04 12:21:07
手抜き~♪



バフェィスタイルの飲み屋さんじゃないですか(^o^)

立ち飲みやさんと変わんない♪
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ちっちー (夢のもつれ)
2005-05-04 12:24:55
立って飲むのはイギリスのパブですね。



ホイリゲは安い飲み屋だけど、夏はぶどう畑をを見ながら、音楽聴けるのはロクヒルの100万倍いいですよw
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ホイリゲ! (フンメル)
2005-05-09 19:52:23
ホイリゲ、いいですね!住んでる時は日常生活の一部のような感がありましたが、一度離れるとたまらなく懐かしくなり、ウィーンに再訪するたびに必ず行きます。あの雰囲気って、他の国にもありそうで意外とないんですよね。

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コメントありがとうございます (夢のもつれ)
2005-05-09 21:58:18
そうですね。ミュンヘンのビアホールもちょっと感じが違いますし、なんせ今頃から夏にかけて戸外で暮れていく中でワインを飲むのが何とも言えず、すがすがしくて。行きたいなぁって思います。
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