夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

贋金つくりのコツ

2014-03-15 | news
小保方氏問題 理研4時間会見詳報 聴取時の小保方氏「心身ともに消耗した状態」(産経新聞) - goo ニュース

STAP細胞の問題は別の実験の画像をちょこっとレタッチして流用したのが一目瞭然となった時点で、科学リテラシーがある人なら誰しも「あちゃー、終わったな」と思っただろう。だのにマスコミに何時間も突っつき回される野依さんら理研関係者の心中は察するにあまりある。文化大革命で三角帽子をかぶせられて紅衛兵(というかただのガキども)に糾弾された学者を連想してしまった。
「こんなことするやつのことなんか知らねーよ」と本当は言いたいのかもしれない。
「その言い方はないんじゃないです?理研として関知しない、責任はないということですか?」と『理研、あきれた無責任体質!』なんて見出しを思い浮かべて記者が訊く。
「ちげーよ。責任あると思ってるから、こうやってしょーもない質問に付き合ってやってるんだろうが!」
「理研としての説明責任、コンプライアンスをしょうもないとおっしゃるんですね?」と『説明の必要なし、根深い隠蔽体質』の見出し(仮)。
「言ってねえよ!誘導尋問もたいがいにしとけよ、おまえ!」
「誘導?問題の画像は誰かの誘導なんですか?」と『世紀の発見の裏に潜むもの?!』との見出し(妄想)。

この手の記者会見を見てると、言いたいことを言えない立場の人間をステロタイプの悪役にはめようと企む記者がねちねち揚げ足取りをするという構図になっている気がする。しかし、それはそれとして、かの「Nature」のレフェリーをごまかしたのはすごい。すごいだけにSTAP細胞がたとえ本物でも数年は研究が進められないだろう。だって、どこのジャーナルのエディターもひるんじゃうから。査読を通らないのがわかっている論文を書く科学者がいたら教えてほしい。

ちょっと前はリケジョのお手本だの、割烹着はおばあさん譲りだの肝心の実験内容なんかそっちのけで持ち上げるだけ持ち上げておいて、一転して小保方さんの人格攻撃をしてドブに叩き込む。殺人犯の方がまだ人権を守られているとさえ思う。

どっかずれてるのは佐村河内さんの件も同じだ。ほとんど作曲する能力のない彼がゴーストライターのお蔭で、贋作品を世に出し、聾者という付加価値で売れた。売れないクラッシクの現代作品が売れるには障害か美談か、アニメなどとのコラボくらいしかない。で、同じマーケットで生業を立てている音楽評論家が褒めそやすのは、家電芸人と同じってことくらい誰だってわかっている。

わかってはいるが、現代のベートーヴェンはさすがにあきれた。ぼくはクラシックファンの中でもわりと現代作品を聴いている方だと自負しているが、天才どころか才能を感じさせる作品さえ極めて少ない。評価できるのはブーレーズとベリオとタン・ドゥンくらいで、武満の作品はポップス以外はどうにも好きになれない。総じて言えばもうベートーヴェンやモーツァルトは生まれない。そんなのわからないじゃないかと言う人は、浄瑠璃でもギリシャ悲劇でもいいから諸芸術の栄枯盛衰の歴史を見てほしい。クラシック音楽の世界は第2次大戦の辺りでテーマの展開部は終わって終結部に入ったと思う。長い目で見ればクラシック音楽の本流は決してシンフォニーやピアノ曲ではなく、宗教曲とオペラであって、基盤自体が両者とも失われていったからだ。

彼が誠実な(と衆目は一致している)ゴーストライターを名誉棄損で訴えるというのは、ある意味で首尾一貫していて、簡単に言えば盗人猛々しいということだ。レコード会社とともに詐欺罪で告発して、損害賠償請求の集団提訴を目論みたいところだが、残念ながらCDを買っていない。

さて、贋金つくりというのは重罪である。その理由はウィキの「偽造通貨の流通はその国の信用を揺るがし、最悪の場合、国家の転覆をも生じかねない性質を持つため、どの国においても金額の多少に関わらず重罰が適用される」ということだろう。逆に言えば千円札をカラーコピー(最近のはできないようになっているそうだが)しただけで、革命家の気分になれる。あるいは貨幣自体を物神として崇める人々の蒙を啓くことにもなる。どちらもなつかしいおバカな新左翼青春時代に、マルクスの新たな解読としてルカーチや廣松渉が示した物象化論が一世を風靡した。そんなの万札を燃やしてみれば(これも犯罪だが)わかることなのに。

赤瀬川源平の千円札模写・印刷もこうした時代背景の下に起きたはずで、起訴されてご本人は欣喜雀躍したんじゃないかと想像する。朝日新聞が立件のきっかけを作ったり、検察が「思想的変質者」と偏見のようで意外と的確な見方をしていたりと楽しいので、リンク先を一読されたい。ただ原告の裁判のやり方は感心しない。ここはぜひとも通貨及証券模造取締法自体が憲法の保障する思想・表現の自由に抵触する違憲立法であるという立論でケンカを売ってほしかった。

科学界もクラシック界も日本の場合、お互い顔見知りの田舎町のようなものだから、そこに贋金を放り込まれてもにわかにはわからないのかもしれない。あるいはSTAP細胞の場合はあやしいと思っても野依さんの権威の前に、全聾作曲家の場合は(のだめと同じように)ブームに便乗したいという思惑で、それぞれ沈黙したのかもしれない。後者についてはゴーストライターが名乗り出なければそのまま「通貨」として流通し続けたことは間違いないだろうけど。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。