夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

歌物語~白露

2005-09-12 | tale

 最近、和歌にちょっと凝ってまして、たくさん読むわけではないんですが、いくつか気に入ったものからいろいろ場面を想像したりします。伊勢物語や和泉式部日記、源氏物語などなど平安時代の物語の多くには、和歌が出てきます。物語と和歌の関係は様々ですが、そういうのを私も書いてみようかなと思いました。というのは後からつけた説明で、長い物語を書き直しながらブログに載せていると、短いのも書いてみたくなって、そのとっかかりに和歌を使ってみようと思いついたわけです。まあ、単なる思いつきですからうまくいくような気もしませんし、一回のブログとしても短いものになりそうですが、そこはご容赦いただいて。

    *  *  *

  白露

 目が覚めたときに何か夢を見たけれど、なんだったか思い出せなかった。そんなことを考えられるのも一週間でいちばんのんびりできる土曜日だからこそだけど、最近は彼の夢を見ないなって思った。冷蔵庫の中を見てもミルク以外には何もないので、トーストを焼きながらコーヒーを淹れて、ミルクを半分くらいとぽとぽと混ぜる。独り暮らしを始める時にお母さんが朝ごはんだけは食べなさいって言ったので、パン一枚とかシリアルだけでも食べる。
 あっという間にすんでしまって、顔を洗って歯を磨いていると、高校の古文の授業で、平安時代の人は恋人が夢に現れなくなるのは、思ってくれなくなったためだって考えてたと習ったのを思い出した。その時のあたしは、今のあたしたちが夢を自分の潜在的な欲求の現われと思うのと逆で、ロマンティックだったんだって思った。でも、鏡の中の自分を見ながら、昔の人の考えの方が正しいような気がしてきた。最近は、眠ってるとき以外はだいたいいつも考えてて、仕事に追われたり、友だちと飲みに行ったりして頭から去っていてくれるとかえってほっとするくらいだから。でも、その分は後からまとめてやってくるみたい。目をそむけて、このデンタル・ペーストはちょっとからすぎるって、吐き出した。

     *

 表参道のみんな楽しそうに歩いてる中で、涙がこぼれてしまうなんて冗談じゃないって思った。みっともないって思いながら、泣いているって自分で意識してしまうと、感情がよけいに乱れてどうしようもなくなるのはわかっていた。冷静な自分がいる。でも、それはあたしから離れて傍観しているだけ。何の手助けもしてくれそうにない。彼は困ったような顔をして表情を引き締めていたけれど、それは薄笑いの表情にならないよう気をつけているから。悪気じゃない、わかってる。でも、なぜこうしたときに照れ笑いなんかするんだろう。
「スタバでも行こうか?」
 仕事の打ち合わせじゃあるまいしって気はしたけれど、かすかにうなずく。こういうことって前にもあった? 風が頬を撫でる。涙がもう秋だって教えてくれる。
スタバの中は半袖じゃあ寒いくらい。彼が言いにくそうに言う話は二重否定が多くてよくわからない。浮気じゃないって言いたいんだろうけど、それが浮気よって思ってた。……悪い予感は当たるもの。いい予感なんてあったことがない。それがいつも明るいねって言われるあたしの実体。最近どうもまずいなあって思っていたとおりだった。

     *

 歩いてきた後を振り返る。坂道を登りつめたこの辺りで、家々の灯りを見るのがくせになっていて、暖かいような切ないような気持ちになるのが好きだった。でも、今日みたいな日は自分一人が除け者になっているって感じてしまう。灯りがゆれて見える。

  秋風は 吹きむすべども 白露の
  みだれて置かぬ 草の葉ぞなき
             大弐三位・新古今和歌集


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