夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

ジャパン・レクイエム:Requiem Japonica(32)

2005-09-13 | tale

 明けて1979年、1月16日のイランのパファレヴィ国王の亡命、翌日の石油メジャーの対日原油削減の通告、2月11日のイラン革命政権の樹立などいわゆる第2次オイルショックとイラン革命の進行を我らの主人公は、「いいぞ、いいぞ、もっとやれ」と大はしゃぎでテレビにかじりついていた。

 3月に入って原油供給逼迫の動きがいよいよ明らかになってくると、欽二に電話した。
「おい、好機到来だ。時木さんに面会の約束を取り付けてくれ」
「今、どこも大変なんだぞ。時期が悪いんじゃないのか?」
「今だからできるんじゃないか。いいから『事業の現状について至急ご説明したい。会社でもご自宅でも伺う』と言え。いいな?」
「……わかったよ」

 それから、1週間ほどして一流ホテルのラウンジで時木獅子男と会った。百合も茉莉も同席しなかった。二人が待つところにほぼ時間どおり獅子男が現われた。彼が座るなり、宇八は説明を始めた。これまでこの事業にどれだけ二人が努力したか、多くの資金を投入したか、いかに相手政府、我が国政府の官僚機構の壁が厚かったかを。欽二の努力を何倍にも膨らませ、自分の労苦のように語り、しかし資金については主に仲林商事の資金が使われたとあまり粉飾しないで、領収書を並べて(若干は自分の会社名義のものをでっち上げて混ぜておいた)説明した。しかるに、このたびの原油供給削減という我々の全く想像しなかった事態に遭遇し、最後の努力も虚しく、ここで涙をのんで撤退することが時木さんにもこれ以上迷惑を掛けない唯一の方途であると考えた次第であると無念やる方ない風情で。

 その間、獅子男は一言も言葉を差しはさむことなく、タバコを吹かしながら聞いていた。欽二は去年来のことを思い出してか、涙ぐんでいた。……
 話終えて、宇八が獅子男の顔を見るとおもむろに口を開いた。
「よくわかりました。わたしの理解するところと違う点も少々ありますが、お二人のご努力を虚しうするのはわたしの本意ではありません。これはお返ししましょう」
 背広の内ポケットから権利書と登記簿を出してテーブルに置いた。欽二は喉から手を出しそうな顔をしている。宇八は平然と『それで?』という目で獅子男を見た。彼はかすかに口元をほころばせて言った。
「……これまでに出費された資金は、こちらでもよく確認した上で、然るべくお支払いしましょう」
「わかりました。時木さんだけでなく、お嬢さん方にも、一方ならずご厚誼を賜りましたからな。……いやお嬢さんだったかな」
 獅子男は強い目つきで宇八をちらとだけ見て、息を少し大きめに吸って、吐くと、黙って去っていった。欽二はテーブルに残された権利書を押し戴いて「とりあえず、おれ帰る」と言って、そそくさと帰って行った。

 次の火曜日には仲林商事の口座には領収書の7割ほどが、羽部の会社の口座には70万円が振り込まれていた。すっかり立ち直った欽二から電話があった。
「全部はみてくれないんだな。まあ、欲かいちゃいかんが」
「まあ、残りはお賽銭と思うんだな」
「お賽銭?どこへの?」
「美女二人への……と思ったら美女と野獣へのだったがな」
 そう笑って、電話を切った。



   OFFERTORIUM
 
 Domine Jesu Christe, Rex gloriae,
 Libera animas omnium fidelium defunctorum de poenis inferni,
 et de profundo lacu; libera eas de ore leonis,
 ne absorbeat eas tartarus, ne cadant in obscurum:
 sed signifer sanctus Michael repaesentet eas in lucem sanctam,
 Quam olim Abrahae promisisti et semini ejus.
 Hostias et preces tibi, Domine, laudis offerimus:
 tu suscipe pro animabus illis, quarum hodie memoriam facimus:
 fac eas, Domine, de morte transire ad vitam.
 Quam olim Abrahae promisisti et semini ejus.


    奉献唱

 栄光の王、主イエス・キリストよ
 この世を去ったすべての信者の魂を、地獄の罰と
 深い淵から救い出し、獅子の口から解き放ってください。
 彼らが冥府に呑まれることなく、闇に陥ることなく、
 旗手聖ミカエルが彼らを聖なる光に導かれますよう。
 その昔、アブラハムとその子孫に約束されたように。
 讃美のいけにえと祈りを、主よ、我らは捧げます。
 今日、追悼する霊魂のために、これを受け入れてください。
 彼らを、主よ、死から生へ移してください。
 その昔、アブラハムとその子孫に約束されたように。


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