091 揺らぐ
もしあなたがとても疲れて
水銀の涙を流してたら
あたしのボートに乗って
夜の深さを測りに来て
葦笛を吹いてあげる
へたっぴぃだし、変な顔だけど
くすくす笑わないで
赤い月は潮が満ちてくるのを
舟べりから伝えてくれる
092 夜明け前
初電までの1時間半がいちばん眠い
唄いたい歌は2時間前になくなって
水っぽくなったウーロンハイが並んでいる
店を出ればまだ暗くだるい
ゴミ袋から頭を上げたカラスににらまれる
うん、ここで別れよう
つまらないこと言っちゃう前に
093 ようやく
あたしは26の誕生日から
あさってがその日だと思って生きてきた
天気予報だってそんなに当たらないでしょ?
だからこそいろいろ考えられる
余命3か月と宣告されて
あなたの誕生日の2日前かなと思ったけど
そんなに正確な話じゃないらしい
やっぱり死はリアルじゃない
094 48時間
48時間前のあたしと今のあたしと
何か変わったことはあるかな?
体重は±1キロの範囲内
爪はまだ伸びてない
映画や本は見える世界を変えない
3年前にバザーでもらった苗木
もう2回も植木鉢を替えて
一人前の木らしくなってきた
あさっての今頃、また水をあげよう
095 らしくない
スカートを履くとそう言われる
「似合わない?」
「ううん、そんなことないけど」
お互い苦笑する
男はスカートと長い髪が好きだ
でも、それが似合う女がいいとは限らない
「あの子は面倒くさいよって言ったでしょ?」
「そうだけどさぁ」
男らしくないなと笑う
096 理想
犯罪もなく不正もなく
みんなマナーを守って清潔で
そういう社会に近づいています
監視カメラとインターネットと
何よりみなさんの協力で
いずれ警察署も税務署も要らなくなるでしょう
すべてのことが記録され、いつでも検索可能ですから
どうぞご自由に振舞ってください
あなたの隣の人があなたの脳の中まで覗いていますから
097 リボン
窓の外にくるくると回りながら
落ちてきたのは赤いリボン
顔を出して見上げても
上の階からなのか
もっと高い秋の空からなのか
プレゼントの箱もなく
長い髪の女の子もいない
コンクリートの地面から拾って
テーブルの上に花に見立てて置いたら
夜中に夢にからまって
朝には少し短くなっていた
098 煉獄の炎
秋の明け方の風のように心地よく
頬を撫でるこの宇宙の炎の燃料は
幾多の人びとのいつもながら脂ぎった魂
清められて退屈な諸天を昇っていくか
辺獄で賢者たちと宗教でも語り合うか
劫を経るまで考えてもよいけれど
高慢と怠惰の癖はなくなりそうもない
099 連鎖
川岸で水面の上下を測っている人は
打ち寄せる波の形を描こうとする人を
不正確で無意味だと嘲笑う
すると全体を把握して関連を考えろと反論される
橋の上にたたずんでいるあたしは
通り過ぎる船と航跡を眺めているけれど
カモメだって知ってることを言って
嫌われたくないから黙って立ち去る
100 忘れない
草叢の息が詰まるようなにおい
若葉を透かして見る日光
どんぐりが屋根に落ちる音
尖った雨が灰色の雪に変わるとき
あなたと過ごした季節
終わってしまった音楽
消えてしまった世界の色彩
とてもありふれた些細なこと
ようやく2連詩100題ができました。去年の5月からですから1年4か月もかかりました。半分ほどできてからだんだん遅くなって、あと20個で半年間足踏みをしてしまいました。
理由もなく決められた題で作るのも、2連詩という形式も飽きちゃってましたから。
それで、自分の好きなように詩を作りたくなって、頑張って片付けたって感じです。
あとあまり説明することもありません(と言うか、書いてるときに言いたいことがあっても書き終わるとどうでもよくなるのかなw)が、前回083の魔女は定家の「白妙の袖の別れに露落ちて 身に染む色の秋風ぞ吹く」を使ったものです。
もしあなたがとても疲れて
水銀の涙を流してたら
あたしのボートに乗って
夜の深さを測りに来て
葦笛を吹いてあげる
へたっぴぃだし、変な顔だけど
くすくす笑わないで
赤い月は潮が満ちてくるのを
舟べりから伝えてくれる
092 夜明け前
初電までの1時間半がいちばん眠い
唄いたい歌は2時間前になくなって
水っぽくなったウーロンハイが並んでいる
店を出ればまだ暗くだるい
ゴミ袋から頭を上げたカラスににらまれる
うん、ここで別れよう
つまらないこと言っちゃう前に
093 ようやく
あたしは26の誕生日から
あさってがその日だと思って生きてきた
天気予報だってそんなに当たらないでしょ?
だからこそいろいろ考えられる
余命3か月と宣告されて
あなたの誕生日の2日前かなと思ったけど
そんなに正確な話じゃないらしい
やっぱり死はリアルじゃない
094 48時間
48時間前のあたしと今のあたしと
何か変わったことはあるかな?
体重は±1キロの範囲内
爪はまだ伸びてない
映画や本は見える世界を変えない
3年前にバザーでもらった苗木
もう2回も植木鉢を替えて
一人前の木らしくなってきた
あさっての今頃、また水をあげよう
095 らしくない
スカートを履くとそう言われる
「似合わない?」
「ううん、そんなことないけど」
お互い苦笑する
男はスカートと長い髪が好きだ
でも、それが似合う女がいいとは限らない
「あの子は面倒くさいよって言ったでしょ?」
「そうだけどさぁ」
男らしくないなと笑う
096 理想
犯罪もなく不正もなく
みんなマナーを守って清潔で
そういう社会に近づいています
監視カメラとインターネットと
何よりみなさんの協力で
いずれ警察署も税務署も要らなくなるでしょう
すべてのことが記録され、いつでも検索可能ですから
どうぞご自由に振舞ってください
あなたの隣の人があなたの脳の中まで覗いていますから
097 リボン
窓の外にくるくると回りながら
落ちてきたのは赤いリボン
顔を出して見上げても
上の階からなのか
もっと高い秋の空からなのか
プレゼントの箱もなく
長い髪の女の子もいない
コンクリートの地面から拾って
テーブルの上に花に見立てて置いたら
夜中に夢にからまって
朝には少し短くなっていた
098 煉獄の炎
秋の明け方の風のように心地よく
頬を撫でるこの宇宙の炎の燃料は
幾多の人びとのいつもながら脂ぎった魂
清められて退屈な諸天を昇っていくか
辺獄で賢者たちと宗教でも語り合うか
劫を経るまで考えてもよいけれど
高慢と怠惰の癖はなくなりそうもない
099 連鎖
川岸で水面の上下を測っている人は
打ち寄せる波の形を描こうとする人を
不正確で無意味だと嘲笑う
すると全体を把握して関連を考えろと反論される
橋の上にたたずんでいるあたしは
通り過ぎる船と航跡を眺めているけれど
カモメだって知ってることを言って
嫌われたくないから黙って立ち去る
100 忘れない
草叢の息が詰まるようなにおい
若葉を透かして見る日光
どんぐりが屋根に落ちる音
尖った雨が灰色の雪に変わるとき
あなたと過ごした季節
終わってしまった音楽
消えてしまった世界の色彩
とてもありふれた些細なこと
ようやく2連詩100題ができました。去年の5月からですから1年4か月もかかりました。半分ほどできてからだんだん遅くなって、あと20個で半年間足踏みをしてしまいました。
理由もなく決められた題で作るのも、2連詩という形式も飽きちゃってましたから。
それで、自分の好きなように詩を作りたくなって、頑張って片付けたって感じです。
あとあまり説明することもありません(と言うか、書いてるときに言いたいことがあっても書き終わるとどうでもよくなるのかなw)が、前回083の魔女は定家の「白妙の袖の別れに露落ちて 身に染む色の秋風ぞ吹く」を使ったものです。
「揺らぐ」…そういう絵を見たことがあるような気になります。
「理想」…ショートショートみたいでコワおもしろい。
「煉獄の炎」…宇宙はありとあらゆるパワーをエネルギーにして生きているのでしょうね。
「闇の中」とか「揺らぐ」とか、ポケットさんってわりとエロっぽい詩が好きなんですね