南風が運んだリズム
道の両側に広がった田んぼにはもう色づきかけた稲穂が揺れていた。ところどころに見える森よりはこじんまりとした、林よりは鬱蒼とした樹々の群れには鳥居や祠の幻影が見え隠れして、不特定な懐旧の念を誘うのだった。
「なつかしいよね」
「なつかしいね」
彼女がそう応えた際に念頭にあったはずの年代にはぼくはもうこんな風景を見なくなってしまっていたし、たとえ見たとしても(例えばどこかに向かう列車がトンネルに入る直前にスライドの一齣のように窓を横切った光景が目に残るといったことだけれど)、それは記憶と照合されて喚起された複製的な印象だったはずだから、ズレがあって当然なのだが、不思議とないらしいのは見る対象のお蔭なのか、見る主体の感情の一致なのか訝しく思った。
「田植えのちょっと前には水を張るんだよね」
「土が黒いから青空が映るときれいね」
「さざなみも立たないくらいしんとしているだろうな」
「水切りをするの。男の子より上手だったよ」
色褪せてオレンジ色のようになった赤いスカートを履いて、アンダースローで石を投げる小柄な女の子がいたような気がする。時間も距離(今、通っている道はぼくが生まれ育った土地から何百キロも離れていて、しゃべる言葉も口にする食べ物も殊更にと思うほど異なっていた)も見渡せないほどはるかに遠いのに話はつながって、夏は夢のような季節だと再び思った。
やがて真昼の広々とした海に出た。強い風は重い海が単調な白い波の群れで応えるのに飽きたのか、砂を巻き上げ、ぼくらの会話を吹き飛ばし、そのなごりは夜にホテルに着いてからも彼女のローファーから砂時計のように流れ落ちた。
道の両側に広がった田んぼにはもう色づきかけた稲穂が揺れていた。ところどころに見える森よりはこじんまりとした、林よりは鬱蒼とした樹々の群れには鳥居や祠の幻影が見え隠れして、不特定な懐旧の念を誘うのだった。
「なつかしいよね」
「なつかしいね」
彼女がそう応えた際に念頭にあったはずの年代にはぼくはもうこんな風景を見なくなってしまっていたし、たとえ見たとしても(例えばどこかに向かう列車がトンネルに入る直前にスライドの一齣のように窓を横切った光景が目に残るといったことだけれど)、それは記憶と照合されて喚起された複製的な印象だったはずだから、ズレがあって当然なのだが、不思議とないらしいのは見る対象のお蔭なのか、見る主体の感情の一致なのか訝しく思った。
「田植えのちょっと前には水を張るんだよね」
「土が黒いから青空が映るときれいね」
「さざなみも立たないくらいしんとしているだろうな」
「水切りをするの。男の子より上手だったよ」
色褪せてオレンジ色のようになった赤いスカートを履いて、アンダースローで石を投げる小柄な女の子がいたような気がする。時間も距離(今、通っている道はぼくが生まれ育った土地から何百キロも離れていて、しゃべる言葉も口にする食べ物も殊更にと思うほど異なっていた)も見渡せないほどはるかに遠いのに話はつながって、夏は夢のような季節だと再び思った。
やがて真昼の広々とした海に出た。強い風は重い海が単調な白い波の群れで応えるのに飽きたのか、砂を巻き上げ、ぼくらの会話を吹き飛ばし、そのなごりは夜にホテルに着いてからも彼女のローファーから砂時計のように流れ落ちた。
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なんかいろんなものがあるサイトです。
なんかいろいろしゃべります。
ドラマの最初の語りのような。
役者さんのセリフが語りの終わりと共に聞こえてきそうな。
鎮守の森?どこが南風?と思っていましたが、最後の2行で一気に風が吹きましたねw
確かに夏の空って南国の空っぽいからなのか、遥かな国とつながってる感じがしますね。
どこが詩?って言われそうですが、イメージだけで何も残らなければやっぱり詩なのかなって。。