世に悪妻と言う存在がある。拙宅妻女もそれである。何が『それ』か?・・・ネコが好きで好きで大好きでどうしようもなく好きで、きちがいのように好きで・・・部屋が猫のシッコ臭気で目がシバシバする程臭い、クサイ、ドーシヨーもなく臭い!
ところが彼女は『鼻が利かない!』高校生の時修学旅行で風邪引いていらい鼻がダメになったらしい。そんな臭い部屋で夜は眠るのだ。そこでピアノを教える、猫に餌をやる、ヘーキ平気、車に乗れば制限速度標識のプラス20キロ、片手はシフトレバー、片手はハンドルで走る。俺もあんな【目の粗い感性】が欲しい。
彼女は片付けがダメ。使いもしない楽譜や本やパンフレットを巨大な本棚にギッシリごちゃごちゃ詰め込んでいる。ハローキティーが大好きで、たまらなく好きで雑多なフィギュアの類、その図柄のタオルかれこれ、そこいらじゅうにある。雑然、雑然、はたまた雑然、家の中超雑然!・・・
一方の俺は理科系人間で鉄鋼構造物設計技師、理路整然無駄徹底排除、simple is the best信者、整理整頓片付け掃除大好き、拭きあげて板張り床が冷たく光る塵ひとつない部屋で香を焚いて古今の名著を紐解いたりリュートを弾いたりする高雅な趣味人なのだ。
一度キレてネコ二匹、どうあっても承認しない、と頑張って保健所に持って行かせた。妻は泣いた、泣いた、三日三晩泣いた・・・『なんだ、たかがネコ、ケダモノじゃありませんか』と内心思ったが【たかが猫】で四十数年間共に暮らしたのを解消するのも知恵無き所業か?と我慢することにした。・・・『【かか】と娘が猫が好きで、迷惑しとっとばい』ともう鬼籍に入った同僚が愚痴ったことがあったが、気持ちワカル。
犬や猫を飼う人の気が知れん!ケダモノじゃありませんか。俺は機械の方が好きだ。鋼鉄の研ぎ澄まされた面の、角の、冷たい光り、峠道をぶっ飛ばした後のあのカストロールの焼けた臭い!
ソクラテスの妻チッポラは名うての悪妻だった由、如何にも悪妻めいた名前だな、・・だが彼は悪妻故に哲学者になった。俺はそんな才能ない。