手が震える
過ごしやすい季節になりましたね。日中はまだ暑かったですが、今夜から冷え込むようですね。皆さま暖かくしてお休みください。
我が家でも今まで使たことのなかった掛け布団に、新しいシーツを掛けて冬支度をしました。ただサイズを確認しなかったため、蒲団より大きなサイズのシーツを買ってしまいました。
この布団はたぶん毛布と同じサイズなのでしょう。横幅は同じなのですが縦幅がシーツより10センチ短いのです。そこでシーツの下の部分を縫いこんで、蒲団のサイズに合わせることにしました。
難しく考える必要はありません。ただシーツの下の縫い目から10センチ上をまっすぐ150センチ縫えばいいだけの話です。昔だったらこんなものすぐにできたのに、どうしたことか時間がかかってしまいました。
それと申しますのも、裸眼では針の穴が見えないのです。そこで老眼鏡かけて、針穴に糸通そうとしました。ところが糸の太さが針の穴よりも大きくて、通すことができないのです。
糸は太口サイズの木綿糸なので、無理もありません。木綿の糸はハサミで切ると、切り口が針の穴より太くなってしまいます。このような場合は糸を手で引っ張ってちぎると、ちぎり口が細くなります。細くなった部分を指先で縒(よ)って針穴に通すのです。
そこで早速糸を引きちぎって針穴に通し、グシグシと縫っていきました。ただ150センチも縫わなければならないので、途中で何度か糸が無くなりました。そのたびに力を込めて糸を引きちぎりました。
そのせいでしょうか、途中で手が震えてはじめました。稀にお年寄りの方で、手が小刻みに震える方がいらっしゃいますね。あんな感じです。
子供の頃エンタツ・アチャコという大御所漫才師がいました。エンタツは見たことがなかったのですが、アチャコの方はテレビで見たことがあります。お年寄りの役をして、片方の手をブルブル震わせていました。大げさな震え方で、止めようとするとますます大きく震えて、最後は体中を震わせていました。それがおかしくて大笑いしたのを覚えています。
昨日の震えは、まさにアチャコ級の震えでした。止めよとして手に力を入れるとますます震えが大きくなり、最後には手だけだはなく腕まで震えてしまいました。
アチャコの演技は、もしかして本物だったのかも知れませんね。私の場合は少し休むと震えも止まり、無事に150センチ縫うことができました。
その時木綿糸を引きちぎる方法を教えてくれた、伯母のことを思い出しました。母の姉である伯母は母とは一回り、私とは三回り違う猿年の生まれです。
伯母は自分の生家である母の実家で暮らしており、昼間は少し離れたところにある酒屋の店番していました。とても元気で店番の他にも畑で野菜を作り、店の周りは掃除も行き届いておりました。
しかし九七になった年に腰を痛め、しばらく寝たきりになりました。誰もがこれが最後と思いましたが、見事に復活しまた歩き始めました。白寿の祝いをしてもらい、百歳を数か月後に控えたある日大往生しました。
糸の切り方を教えてくれたのはちょうど腰を痛めて寝ている時でした。その時もやはりシーツの丈を縮めておりました。伯母は糸の切り方を教えてくれただけではなく、裸眼で針に糸も通してくれました。
私は自分が老眼鏡をかけているのが、恥ずかしくなりました。その上今では、糸を引っ張っただけで手が震えるなんて……。
今の私を見て伯母はなんと言うでしょうか。
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