草むしりしながら

読書・料理・野菜つくりなど日々の想いをしたためます

折り鶴を添えて

2024-12-12 06:45:38 | 読書記録

折り鶴を添えて

 先日買った折り紙の本を見ながら、昨日は折り紙をしていました。四、五歳児向けのごく初歩的な折り方なので、私でも折ることができました。それでも時々考えこんでしまいましたが、いい頭の体操になりました。

 それにしても真四角の紙でいろんな物が作れるのですね。サンタさんやクマやカエル。中には懐かしい風船や奴さんと袴もありました。紙風船なら私は本を見ずに折ることができます。

 紙風船の折り方は幼稚園の時に教わりました。先生が大きな折り紙を使って折るのを、小さな折り紙で真似して折りました。四角に折ったり三角にしたり……。途中までは割と簡単だったのですが、折り目の中に折り目を刺し込む最後の仕上げに苦戦しまた。

 何度も同じ折り紙を折ったり広げたりして、やっと風船ができあがりました。今でも風船だけはスラスラ折れます。手が覚えていいるのですね。ただ当時は風船が折れたことよりも、折り紙を貰ったことの方が嬉しかった記憶があります。

 家に持って帰って何度も開いたり折ったりしました。多分折り紙を手にしたのはそのときが初めてだったのかもしれませんね。遠い昔の嬉しかった記憶は今でもはっきり覚えているものですね。

 昨日は半日ほど熱中して折っておりました。その間テレビがついていたのですが、ニュースやワイドショーではノーベル平和賞の授賞式が放映されていました。受賞者の手には折り鶴がありました。

「世界の核兵器現実に向けた努力と核兵器が二度と使われてはならないことを本人たちの証言を通して示したこと」を評価しての受賞とされます。遠い日の記憶として終わらせてはならないのですね。

 出来上がった折り紙は綺麗な袋に入れて、本と一緒に孫たちのクリスマスプレゼントにします。袋の一番上には折り鶴を入れて贈ります。

 


世界から猫が消えたなら

2024-04-05 11:55:20 | 読書記録

 川村 元気「世界から猫が消えたなら」

 月曜日の朝僕は医者から、あと一週間しか生きられないと告げられた。

 アパートに戻ると、そのまま気を失って倒れた。飼い猫の鳴き声で目を覚ました僕の前に、悪魔が現われてささやいた。「この世界から一つだけ何かを消す。その代わりに、あなたは一日の命を得ることができるのです」

 考えてみると、この世界は世の中はいらないもので溢れている。その中から要らないものをひとつ消せば一日の命がもらえる。僕は取引に応じた。だが消すものは、悪魔が自分で決めるという。

 悪魔は僕の携帯電話見て、世界から電話を消すといった。

 僕はさんざん迷った末に電話を消すことを承知したのだが、ふと父のことを思った。母が死んで四年、父とは一度も連絡を取っていないし会ってもいない。自分は死んでしまうのに、こんなことでいいのか……。

 悪魔は僕の気持ちを見透かしたように言った。

「最後に一回だけ消すものを使っていいという、オプションをつけましょう」

 それでも僕は、どうしても父に電話をすることはできなかった。母の死んだ四年前のことが許すことができかったのだ。

 そこでぼくは悩んだすえ、あの人に電話をした。あの人の電話番号は登録されていなかったが、体が覚えていた。僕はゆっくりとダイヤルを回した。

 翌日の火曜日の朝、電話はほんとに消えていた。それから水曜日には映画が、木曜日には時計が消えたが、世の中は混乱することはなかった。すると悪魔は金曜日に「世界から猫を消しましょう」言い出した。

 だが金曜日の朝、ぼくの飼い猫は僕の隣で寝ていた。僕は世界から猫を消すことができなかったのだ。それはつまり僕が消えるということだった。

 土曜日には僕が消える。その前に僕にはしなければならないことがあった……。

 佐藤健さんの主演で映画化もされましたね。主人公の僕は30歳になる郵便配達員です。こんな素敵な配達員さんがいたらな、毎日自分宛に手紙を書いて、配達してもらうかもしれませんね。

 この手紙と郵便配達員、この話の中では重要な役割を果たします。でもそれは読んでのお楽しみですね。

 作者の川村元気さんは若き映画プロデューサー、映画原作を捜して年間五百冊を読んだといいます。

 どんな人なのでしょうね。きっと映画が好きで、猫はそれよりもっと好きなのかも知れませんね。


寺地はるな「夜が暗いとは限らない」

2024-02-20 12:16:54 | 読書記録

寺地はるな「夜が暗いとはかぎらない」

 閉店が決まった「あかつきマーケット」のマスコット・キャラクター「あかつきんちゃん」が突然失踪した。この「あかつきん」失踪の謎を背景に、13の物語が展開する。

 第一話に登場するのはあかつきマーケットで働く芦田さん。この芦田さんとごみ捨て場で挨拶をした白川さんが次の物語の主人公になる。

 物語の主人公という名のバトンが、物語の中に少しだけ登場した人物に渡される。渡された人が次の物語主人公になる。主人公たちは葛藤を抱えながら、今日も頑張っている。優しくて不思議な物語。

 興味をひかれたの、表紙の絵だった。ネズミとも猫とも犬ともつかない人形みたいな生き物が、赤い頭巾をかぶり赤いブーツをはいてベンチに腰かけている。ちょっと見は可愛いけど、よく見たら不気味で引いちゃいそうだ。いったいどんな話なのだろうか。

 表紙の絵がもっと可愛かったら手には取らなかっただろうと思う。

 寺地はるなの作品は今回初めて読んだ。申し訳ないが作者の代表作どころか名前さえ知らなかった。しかし図書館のずらりと並んだ本の中から、よくまあこんな素敵な本を一発で探し当てたものだと感心した。

  さて、第五話の「赤い魚逃げた」では父親の葬儀に赤い振袖を着るという娘が登場した。 娘は成人式のために用意した振袖も、父の反対で着ることができなかったのだ。父娘の確執が弟の目線で書かれている。

 結局振袖は着たのかどうかは読んでみてのお楽しみである。

 ただ父親の葬式に赤い振袖というのが引っかかる。私は子供の時に実際に父親の葬式の時に、赤い振袖を着ていた娘を見たがあるのだ。

 振袖だったか訪問着だったかは定かにではないが、その人は確かに赤い着物を着て父親の棺桶の前に座っていた。

 昔はみんなそうだったのだろうか。その家だけそうだったのだろうか。家で葬式をせずに、墓地にある小さな広場に筵をひいて、葬式をしたような気がする。その時にその家のお姉さんが赤い着物を着て、棺桶の前に座っていたのだ。

 子ども心にも赤い着物は異様に見えたのだが、母はそれをおかしいとは言わかった。

「自分の一番いい着物で親を送るのだから、おかしくもなんともない」

 そのようなことを言った気がする。その家だけだだったのだろうか。娘が葬式に晴れ着を着たのは。  

 思い出してみると祖父の葬式の時には、叔母は晴れ着を着ていなかった。その時は叔母も晴れ着を着るのだろかと、内心冷や冷やしていた覚えがある。

 だから祖父の葬式よりも前の出来事だったのだろう。そんな幼い頃のことをよく思いだしたものだ。これもこの本を読んだおかげだろう。

 葬式に晴れ着を着たのを見たのは、その時だけだった。もしかしたら私がもの心つく前には、そんな風習があったかもしれない……?などと思ったりもした。

 何はともあれ、またひとつ幼年期の思い出ができた。


竹吉優輔「レミングスの夏」

2024-02-09 12:31:09 | 読書記録

竹吉優輔「レミングスの夏」

  二〇一四年、八月十七日

 僕たちは小高い丘に立っていた。モトオは四年前夏の計画を、中二病だったのだといった。あの計画に誰よりの必死だったヨーコは夢を見つけ、ミトは今でもみんなのことを祈り続けている。だがここにナギはいなかった。

 ナギは孤独に計画を練り上げ、僕たちを誘った。僕たちはナギと共に全力で戦った。そしてナギは僕たちの前から消えた。

 あの夏僕たちはレミングスと名乗り、市長の娘の白石宏美を誘拐した。レミングスとは集団で移動し川や海を渡り、新天地を目指す鼠のことだ。僕たちなら必ずやり遂げられる。そして新天地にたどりつける。僕たちはそう信じていた。

 その夜白石宏美の携帯から父である市長への要求を送りつけた。

「あなたの手腕は認めている。しかし改革を急ぐあまり、古きよきこの街を蹂躙しようとしている。我々はあなたに要求する。あなたが以下の六箇条をすべて守るなら、娘は八月末日には無事に戻るだろ。

 街を思うなら。誠意を見せてほしい。我々は心から、平和を望んでいる」

 六つの条件はいずれも町に古くからある施設の解体や運営にかかわるのもで、市長の独断で決定できるものばかりだった。市長が推し進めている開発計画の反対派の犯行のように見せかけたのだ。誰も中学生のやったことだとは思わないだろう……。

 

 中学二年の夏、彼らは何故こんな誘拐事件を起こしたのだろうか。事件の真相はフラッシュバックのように一瞬垣間見られるのだが、全容は最後の最後まで分からない。そこが気になって読みつづけてしまう。

 果たしてフレミングスの鼠たちは新天地にたどりつくことができたのだろうか。それとも途中でおぼれ死んでしまったのだろうか。


長岡弘樹「道具箱はささやく」

2024-02-06 11:19:32 | 読書記録

長岡弘樹「道具箱はささやく」

 一冊の本の中に、原稿用紙20枚でつづられるミステリーが18編おさめられている。 18のミステリーの中には18の職業が登場する。そしてその職業に応じた道具が18出てくる。

  第一の事件「声」には、容疑者を見張る二人の刑事とラジオから流れてくパーソナリティの声が登場する。このパーソナリティは、以前二人の所属する警察署で講演をしたことがあったが、最初から最後までマイクは使わなかった。よく通る声の持ち主だからマイクなど必要ないわけだ。

 今日の声もやけにクリアで、先日起こったひったくり事件の話をしている。

「それを目撃した僕はひったくりに向かって『泥棒っ』って叫んだんですよ。そうしたら犯人だけあっちを向いたままなんです」

 この事件は先週のことなので、たぶんこの放送は録音だろう。と刑事は推理した。ところがその途端、容疑者がアパートから出てきた。中肉中背の体に背広をまとい、どこにでもいるようなサラリーマンを装っている。そして同じような格好の群れの中に紛れ込んでしまった。

 さて二人の刑事はどうやって容疑者を見つけるのか。この時例のパーソナリティの声はどんな役割を果たすか……。それは読んでのお楽しみだ。

 

 最後の落ちがいいですね。ふん、ふん、ふん。と読み進んでいって、なるほどそうなのかと納得したとたんに、最後にコロっとひっくり返る。そんな書き方大好きです。

ショートショート。楽しいですね。星新一の「ボッコちゃん」を再読してみたくなりました。