明け方に目を覚まして外を見た。目が覚めたばかりでまだ頭の中が半分眠っているのだろうか、それともどんより曇った空のせいで辺りが薄暗いからだろうか。雨が降っているのかどうか分からない。カーテンの隙間から目を瞬かせて覗いてみると、防火水槽の水面に小さく波立っている。あれは雨ではないようだ。どっちにしても天気予報は雨だし、今日は土曜日だ。もう一度寝直すとしよう。
私の家のすぐ前には防火水槽がある。昔家の畑だった場所に作られいて、窓越しに見ることができる。いつの頃からだろうか、ウシガエルが住み着いたのは。親の住む母屋の庭先に建てた我が家の歴史よりも、たぶんもっと前からいるのだろう。地面を揺さぶるような啼き声が、入居早々に聞こえて来た。名前のとおりモウ―モウ―と、牛が啼いているようだ。
昨年この防火水槽に、無数のオタマジャクシが発生した。どれも特大級の大きさで、ウシガエルの子供だとすぐに分かった。それは特別大きなオタマジャクシだったから分かった訳ではなく、一匹のウシガエルがいつも水槽の淵に座っていたからだ。たぶんお母さんガエルなのだろう。畑に行くために私は日に何度となくこの前を通るのだが、その度に慌てて水の中に飛びこむ。
オタマジャクシが孵った頃から、時折水槽の付近でヘビをみかけるようになった。一番最初に見たのは大きなアオダイショウだった。。家の蔵には昔からアオダイショウが住み着いていて、毎年盆過ぎに出てきては庭を横切る。たぶんそのアオ水ダイショウだろうと思い、「今年はやけに早く出て来たね」なんて声をかけてしまったが、きっとオタマジャクシを狙ってやって来たのだろう。それからいろんな種類のヘビを見かけるようになった。お母さんガエルは水槽の淵に座り、ヘビから子供たちを守っていたのだろう。秋の終わりの冷たい雨に濡れながら、子供たちを見守る母カエルの姿が忘れなれない。
ウシガエルは成長するのに2年もかかるなんて知らなかった。今年子供たちは尻尾の横に小さな脚を生やして、防火水槽の中を泳いでいる。蛇は相変わらず見かける、子供たちがカエルになって水の中から出てくるのを待っているのだろう。だた母親の姿はどこにも見当たらない。事故にでも合ったのだろうか。それとも縄張りを子供たちに譲り、別の所に行ったのだろうか。あの地面を揺らす啼き声も、今年は聞かれない。
外来動植物の生態系への悪影響が叫ばれて久しい。無数に泳ぐオタマジャクシをみていると、これは大変なことにになるのではと不安になる。しかしそれを在来種のヘビが狙っているとは。在来種も弱いばかりではないようだ。でもあの雨の中の母カエルの姿を思い浮かべると、悲しくもある。頼んだよヘビ、頑張れウシガエル。
雨脚がだんだんと激しくなる。遠くで雷が鳴っている。梅雨明けが近いのだろう。