草むしりしながら

読書・料理・野菜つくりなど日々の想いをしたためます

草むしりの「桃の井戸」

2019-06-17 12:50:50 | 偏屈婆さん
どっちだろうか 
 
 昨年の秋口だっただろうか。「気がつくともうこんな歳になってしまった。けれど気持ちの方は子どもの頃のままだ」と伯母が言ったことある。まあ、皆思っていることなのだが、九十九歳になる伯母の口から聞こうとは思わなかった。
 
 伯母の話と言えば、子供の頃のことや若い頃に行っていた満州のことくらいだと思っていたのに。もっとゆっくり話を聞いてみたい気がするのだが、頼まれた用事が終わるとすぐの帰ってしまう。
 
 今日は朝から雨が降っている。ゆっくり話を聞いてみようか。できれば伯母が喋った通りに、そのまま書き留めておくのもいいのではないか。シーツの交換や箪笥の中の整理をしながら、ぼつぼつと伯母の話に耳を傾けた。
 
 生家の甥の家の田植えの話や、十人いた姉弟の話。姉弟の中で一番長生きした長女の伯母に似て来たね。等と話はつきない。
 
 しばらくして足のふくろはぎに出来た痣を摩りながら、近ごろ痣やシミの上の皮がペロリとむける。と言って、小指の爪ほどの大きさの皮を剥いで見せてくれた。
 
 何度か皮がむけると、下からきれいな皮膚が出て来る。体中の皮がむけて赤ちゃんみたいにきれいな肌になったら、お迎えが来るのだろう。というようなことを言った。
 
 なるほど良いことゆうものだ。早速家に帰ると、パソコンのワードを開いた。
 
 この頃、こうしち皮がむくる。これはアレのあとで、むけた後はきれいなナニがでてくる。あそらくナニだ、ナニが全部むけて、アレにになったら、あそこからお迎えが来るだろう。
 
 うーん喋ったことをそのまま書き留めておくには、ちょっと無理だった。やはり愛情のある注訳が必要だろう。
 
 それにしても果たして伯母は、あそこに行きたいのだろうか、行きたくないのだろうか。
 

くさむしりの「ジャングル=ブック」3

2019-06-03 13:14:59 | 草むしりの「ジャングル=ブック」
草むしりの「ジャングル=ブック」3
「三本脚」
 
「えっ、今度は畑なの」
 お祖父ちゃんの大好きな筍を食べた猪が、今度は畑を荒らした。収穫間近のジャガイモが全滅の危機にさらされた。筍の時にはまだまだ冷静だったお祖父ちゃんが、今度はマジで怒っている。すぐに知り合いの猟師さんを呼んで来た。
「三本脚だな。間違いないよ」
 畑に残された足跡を指さして、猟師さんとお祖父ちゃんが話している。
「やっぱりそうか。ここしばらく出てこないから、安心していたんだか。困ったものだ。」
「ああ、三本脚だからね。これは少々厄介ですよ。まったく困ったものですよ」
 二人は困った、困ったと言いながら、足跡を見て溜息をついている。うーん、今年はジャガイモ抜きのカレーか。えっ、もしかして肉ジャガのジャガ抜き。そんなー。嘘だろう。つらいナー。僕の大好物はジャイモで、肉ジャガは僕のソウルフードになる予定なんだ。

 ところで三本脚っていったい何のことなのだろうか。聞いたことないな。
「三本脚じゃあ、たぶん騙されないだろうけど、とりあえず箱罠仕掛けてみるから、子どもさんに気をつけて」
 夕方また来ると言って猟師さんが帰ろうとしていたら、小太郎がひょっこりと現れた。いったいどこに行っていたのだろうか。雄二が呼んだ時には来なかったくせに。
 小太郎は猟師さんの差し出した人差し指に鼻をコッンコさせて、ニャーと鳴いた。猟師さんも小太郎と話が出来るのだろうか。小太郎は猟師さんの足元に頭をグルグルとこすりつけている。
「キミは三本脚にはついて行かなかったのかい」
 猟師さんが小太郎に話しかけている、心なしか小太郎が鳴いた気がする。
「そうだね。キミはそれほど子どもじゃ無いからね。ところでどうだった三本脚。元気だったかい」
 あれ、また鳴いたな。
「そうかい。それを聞いて安心したよ。でも僕の仕掛けておいた罠は全部壊されちゃっているだろうな。これから行ってみて来るよ」
猟師さんは慌てて帰って行った。
「小太郎、誘われたけど行かなかったんだって」
「雄二、お前。通訳も出来るようになったのか」

これは後でお祖父ちゃんに聞いた話なんだけど。
 三本脚って言うのは、後ろの片方の脚のヒズメの部分が無い猪の事だって。どうして無くなったのかというと、巣立って間もない頃に罠にかかり、かかった方の脚を引きちぎって逃げたからだって。それからそいつはどんな罠にもかからなくなったばかりか、仕掛けている罠なんか簡単に壊してしまうんだって。とんでもなく頭のいい猪だってお祖父ちゃん言っていたよ。
「でもとっても優しいお母さん猪なんだよ。前に飼っていた子猫が、一緒に山についてったことがあるんだ」
「えっ、小太郎の他にも猫がいたの」
「ああ、いたよ。時生がまだ赤ちゃんの時だったよ。ネズミ捕りの上手な猫と、ネズミ捕りの下手クソな猫がいたよ」
「お兄ちゃんの赤ちゃんの時には猫が二匹いたの。僕が赤ちゃんの時に、小太郎が来たんでしょ」
「そうだよ、お祖父ちゃんが拾って来たんだ」
「じゃあさあ、お父さんが赤ちゃんの時は何がいたの」
「お父さんが子どもの頃には犬がいたよ」
「じゃあ、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんが子どもの頃には、何がいたの」
「うん、昔はなぁ。農家はどこも牛や馬を飼っていて、荷物を運ばせたり、田んぼや畑を耕したりしていたよ。今の耕運機やトラクターの代わりにね」
「へー。昔は牛がトラクターの代わりをしていたの」
「そうだよ。昔はね」
「だったらねぇ、お祖父ちゃんのお祖父ちゃんが子どもの頃は何がいたの。お大昔でしょう。だったら恐竜がいたんじゃないの」
おい、雄二。いくらなんでもそれはないだろう。ちょんまげは結っていたと思うけど。

 しかし知らなかった。小太郎の他にも猫がいたなんて。しかも、三本脚について行ってしまったなんて。僕はそっちの方の話を聞きたいって、お祖父ちゃんに頼んだ。
「ああその話なら前にお祖母ちゃんが小説に書いたから、今夜読んでもらえ」
お祖父ちゃんは残ったジャイモを掘りに、畑に行ってしまった。
えっ、今夜。それは困るよ。今は「宝島」読んでもらっているから。

「八銀貨!八銀貨!」
 僕の後ろで、突然雄二の声が響いた。振り向くと雄二が小太郎を肩に乗せていた。
「はいはい、お前がシルバーで、小太郎がフリント船長だろう」
 小柄な雄二の方に必死に乗っている小太郎。雄二を傷つけないように爪立てずに乗っているから、ずり落ちてしまいそうだ。お前たち本当に仲良しで、羨ましいよ。 僕もなんか飼ってみたいな。牛はちょっと無理だけど、犬とかね……。
 
 実際僕は大人になって、本当に犬を飼うようになるのだけど、その話は祖母ちゃんの頭の中で渦を巻いていて、書きたいけど書けない状態が長い間続いている。お祖母ちゃん、そろそろ書いてもいいころだよ。頑張ってね。

 今日はちょっとお休みをしてしまいました。明日からはまた「宝島」です。シルバーにつかまったジムは、どうなるのでしょうか。フリントの宝は見つかるのでしょうか。

それでは皆さん「獲物がどっさり」