草むしりの「ジャングル=ブック」3
「三本脚」
「えっ、今度は畑なの」
お祖父ちゃんの大好きな筍を食べた猪が、今度は畑を荒らした。収穫間近のジャガイモが全滅の危機にさらされた。筍の時にはまだまだ冷静だったお祖父ちゃんが、今度はマジで怒っている。すぐに知り合いの猟師さんを呼んで来た。
「三本脚だな。間違いないよ」
畑に残された足跡を指さして、猟師さんとお祖父ちゃんが話している。
「やっぱりそうか。ここしばらく出てこないから、安心していたんだか。困ったものだ。」
「ああ、三本脚だからね。これは少々厄介ですよ。まったく困ったものですよ」
二人は困った、困ったと言いながら、足跡を見て溜息をついている。うーん、今年はジャガイモ抜きのカレーか。えっ、もしかして肉ジャガのジャガ抜き。そんなー。嘘だろう。つらいナー。僕の大好物はジャイモで、肉ジャガは僕のソウルフードになる予定なんだ。
ところで三本脚っていったい何のことなのだろうか。聞いたことないな。
「三本脚じゃあ、たぶん騙されないだろうけど、とりあえず箱罠仕掛けてみるから、子どもさんに気をつけて」
夕方また来ると言って猟師さんが帰ろうとしていたら、小太郎がひょっこりと現れた。いったいどこに行っていたのだろうか。雄二が呼んだ時には来なかったくせに。
小太郎は猟師さんの差し出した人差し指に鼻をコッンコさせて、ニャーと鳴いた。猟師さんも小太郎と話が出来るのだろうか。小太郎は猟師さんの足元に頭をグルグルとこすりつけている。
「キミは三本脚にはついて行かなかったのかい」
猟師さんが小太郎に話しかけている、心なしか小太郎が鳴いた気がする。
「そうだね。キミはそれほど子どもじゃ無いからね。ところでどうだった三本脚。元気だったかい」
あれ、また鳴いたな。
「そうかい。それを聞いて安心したよ。でも僕の仕掛けておいた罠は全部壊されちゃっているだろうな。これから行ってみて来るよ」
猟師さんは慌てて帰って行った。
「小太郎、誘われたけど行かなかったんだって」
「雄二、お前。通訳も出来るようになったのか」
これは後でお祖父ちゃんに聞いた話なんだけど。
三本脚って言うのは、後ろの片方の脚のヒズメの部分が無い猪の事だって。どうして無くなったのかというと、巣立って間もない頃に罠にかかり、かかった方の脚を引きちぎって逃げたからだって。それからそいつはどんな罠にもかからなくなったばかりか、仕掛けている罠なんか簡単に壊してしまうんだって。とんでもなく頭のいい猪だってお祖父ちゃん言っていたよ。
「でもとっても優しいお母さん猪なんだよ。前に飼っていた子猫が、一緒に山についてったことがあるんだ」
「えっ、小太郎の他にも猫がいたの」
「ああ、いたよ。時生がまだ赤ちゃんの時だったよ。ネズミ捕りの上手な猫と、ネズミ捕りの下手クソな猫がいたよ」
「お兄ちゃんの赤ちゃんの時には猫が二匹いたの。僕が赤ちゃんの時に、小太郎が来たんでしょ」
「そうだよ、お祖父ちゃんが拾って来たんだ」
「じゃあさあ、お父さんが赤ちゃんの時は何がいたの」
「お父さんが子どもの頃には犬がいたよ」
「じゃあ、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんが子どもの頃には、何がいたの」
「うん、昔はなぁ。農家はどこも牛や馬を飼っていて、荷物を運ばせたり、田んぼや畑を耕したりしていたよ。今の耕運機やトラクターの代わりにね」
「へー。昔は牛がトラクターの代わりをしていたの」
「そうだよ。昔はね」
「だったらねぇ、お祖父ちゃんのお祖父ちゃんが子どもの頃は何がいたの。お大昔でしょう。だったら恐竜がいたんじゃないの」
おい、雄二。いくらなんでもそれはないだろう。ちょんまげは結っていたと思うけど。
しかし知らなかった。小太郎の他にも猫がいたなんて。しかも、三本脚について行ってしまったなんて。僕はそっちの方の話を聞きたいって、お祖父ちゃんに頼んだ。
「ああその話なら前にお祖母ちゃんが小説に書いたから、今夜読んでもらえ」
お祖父ちゃんは残ったジャイモを掘りに、畑に行ってしまった。
えっ、今夜。それは困るよ。今は「宝島」読んでもらっているから。
「八銀貨!八銀貨!」
僕の後ろで、突然雄二の声が響いた。振り向くと雄二が小太郎を肩に乗せていた。
「はいはい、お前がシルバーで、小太郎がフリント船長だろう」
小柄な雄二の方に必死に乗っている小太郎。雄二を傷つけないように爪立てずに乗っているから、ずり落ちてしまいそうだ。お前たち本当に仲良しで、羨ましいよ。 僕もなんか飼ってみたいな。牛はちょっと無理だけど、犬とかね……。
実際僕は大人になって、本当に犬を飼うようになるのだけど、その話は祖母ちゃんの頭の中で渦を巻いていて、書きたいけど書けない状態が長い間続いている。お祖母ちゃん、そろそろ書いてもいいころだよ。頑張ってね。
今日はちょっとお休みをしてしまいました。明日からはまた「宝島」です。シルバーにつかまったジムは、どうなるのでしょうか。フリントの宝は見つかるのでしょうか。
それでは皆さん「獲物がどっさり」