憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

お登勢・・31

2022-12-18 12:37:11 | お登勢
店の中は相変わらずあわただしい。大釜で染料を溶かし始めていた徳冶が晋太を見つけると「法楽屋の暖簾をやってみろ」と、いう。法楽屋の暖簾はこれから蝋を落としてゆく段階である。その最初の段階を任せるという。それはすなわち最後の仕上げまで晋太がやれという事に通じる。何処までの技量に仕上がっているか、試されるのだと判ると晋太に軽い武者震いが起きていた。晋太に仕事を言いつけた徳冶の様子が常でないと晋太が気が付 . . . 本文を読む

お登勢・・32

2022-12-18 12:36:57 | お登勢
大森屋の奥に入れば、腹が減ってるだろうと徳冶がたずねるより先に晋太への飯とおかずが給仕されてくる。「いけたよな?」と、酒を注文した後に晋太を振り返る徳治の気配りも深い。「お登勢ちゃんの分もたのんである。折りにつめるようにいってあるから、帰りにもらっていってやってくれ」それでゆっくり喋れるという按配で徳冶が用件を切り出し始めた。「お登勢ちゃんからも、聞いていることと思うが・・」と、徳冶が言い出した言 . . . 本文を読む

お登勢・・33

2022-12-18 12:36:42 | お登勢
「このままじゃ、お登勢は外にも出られない。おまけに、女将には、黙っていようとするお登勢だと木蔦屋の旦那にとっても、他の女を捜すより、女将には話さないお登勢なら、自分の立場も護れるし、外に出て行ったお登勢だから、女将の知らぬ所で、旦那はいっそう、好き勝手が出来る。こんな好都合な事はない。って、事になる。お登勢は喋らないことでいっそう自分を窮地に追い込んでいるんだ。俺のところに逃げ込んだって何の解決に . . . 本文を読む

お登勢・・34

2022-12-18 12:36:28 | お登勢
屋移りの祝いに貰った酒を湯飲みに注ぎながら、晋太は飯台の上に折り詰めをおいたままのお登勢に遠慮することはない、とすすめなおした。「あんちゃんはお酒をのむようになったんだ?」「うん。だけど、これは違う。これは屋移りの祝い酒だから・・・」今までは給金は井筒屋預かりであるが、節季にまとまった金を渡されると姉川の両親の元へ届けに行った。金を渡しに行って、帰ってくるだけの盆休み・正月休みになるのだが、晋太の . . . 本文を読む

お登勢・・35

2022-12-18 12:36:15 | お登勢
酸味が勝った安物の酒は口の中に小さな粟粒を残す。口の中の渋さを湯飲みの酒でのみほして、又も、小さな粟粒のような酸味を舌にころがして、晋太は止まったお登勢の手先を見つめなおした。「まあ・・・たべながら・・にしよう」せっかくの折を食べさせなきゃ徳治にももうし分けない。「うん・・」漬物をぽりりとかみしめて、お登勢は晋太を待った。「夫婦ってのは、割れ鍋に綴じ蓋っていうようにな・・・。それなりの相手にそれな . . . 本文を読む

お登勢・・36

2022-12-18 12:36:02 | お登勢
「・・・・」返す言葉がでてこなくなったお登勢である。確かに・・・あんちゃんのいう事は筋が通っている。でも・・・。登勢が考えたように、「魔がさした」で、収まってしまうことはないのだろうか?もし、気の迷いだったと旦那様がかんがえなおすのであれば、女将さんに事実を伝えずにすましたほうが、なんぼか、良いに決まっている。旦那さまの足元をくずす真似をする必要はないといえる。それでも、あんちゃんの言う通り、旦那 . . . 本文を読む

お登勢・・37

2022-12-18 12:35:48 | お登勢
「う・・・ん」頷いてみたものの、やはり、お登勢の不安は取り払えない。事実を知った女将さんがどんなに苦しむだろう。そればかりじゃない。知ったばかりに、逆に旦那様に愛想をつかしゃしないだろうか?晋太は迷い顔のお登勢をじっと見ていた。「それに、このままじゃ、お前は女将さんに顔むけができなくて罪を侵した人間みたいに外に出ることもできないんじゃないか?よしんば、外に出ずにずっと、ここにいてもいつ旦那様が、此 . . . 本文を読む

お登勢・・38

2022-12-18 12:35:35 | お登勢
晋太の暖かさにお登勢の瞳から涙がまたあふれかえってくる。その涙をひっこめてやろうと晋太が言う。「食い物商売ってのは、いいな。お前がしっかり話してゆくと決めたからあんちゃんが大森屋に口をきいてみるよ」「大森屋?」「ああ。その折が大森屋だ。うまいだろ?」「うん」頷きながら、あんちゃんらしい、お登勢はそう思う。きっと、あんちゃんは登勢が働きたいって言ったときから大森屋がいいって決めていたんだ。でも、登勢 . . . 本文を読む

お登勢・・39

2022-12-18 12:35:21 | お登勢
井筒屋に入った途端晋太は徳冶にひっぱられる。「で、どうだった?」徳冶がたずねることはお登勢の事に決まっている。「木蔦屋には話に行きます。それとは、別に、お登勢は働きにいきたいっていいだして・・・。俺もその方がいいと思うし、食べ物屋かなにかがいいっていうから、大森屋に話にいってこようかとおもってるんですよ」「う~ん」徳冶にすれば、そんなところにお登勢を働きにいかせたくない。嫁にもらえば、大森屋だって . . . 本文を読む

お登勢・・40

2022-12-18 12:35:08 | お登勢
「ところで・・・木蔦屋の女将さんには、いつ話しにいく?出来れば、俺がついていって、立ち会ってやりたいとは思うが・・・」そうも行かないことは重々承知の徳治である。「できるだけ、早いうち、俺は今からでも良いと思ってるんですが、こんな話しってのは難しいですよ」晋太がいうのは、病で言えば自覚という事である。自分に病巣があると、うすうす気が付いている人間に話すことはたやすい。病人はすなおに病から救われる法に . . . 本文を読む

お登勢・・41

2022-12-18 12:34:55 | お登勢
「まあ・・びっくりしたよ」大森屋の奥にとおされたお芳の前に小さくお登勢がうずくまりただただ、頭をたたみに擦り付けている。その横に、染物屋の晋太さんがお登勢の頭が上がってくるのをじっと見ている。「お登勢・・まあ、無事でいるってわかったから、なんだよ、あたしも・・なおさら、やっぱり、はいそうですか。って、いいきれないんだけどね・・。なんだって、おまえ、何も言わずに飛び出しちまったんだい?なんで、あたし . . . 本文を読む

お登勢・・42

2022-12-18 12:34:41 | お登勢
だが・・・。「女将さん・・。追い出したり出来る人なら、あたしも逆に堪忍してやってくださいとお願いもしたと思います。その人は・・・」一番言いたくない事実にお登勢の肩が震え、お芳はお登勢の様子をみつめていた。その頭の隅でなにおか、納得するにしっくり来ない食い違いが在るとおぼろげに理解し始めていた。「お登勢・・・? 約束するよ。それが、誰であろうとけっして、悪いようにはしない」お登勢の口が開かれるを待つ . . . 本文を読む

お登勢・・43

2022-12-18 12:34:27 | お登勢
お登勢にあった。無事で居ると分かって安心したし、あとは、お登勢の想う人と木蔦屋に仲人をよこした先方様が合致すれば、話はとんとんとまとまるだろう。 あの品の良いご隠居がどこの誰かを調べなきゃ成らないなと考えながら家路を急ぐお芳の胸にふいに暗く深い痛みがはしってきた。 お登勢から聞かされた事実。いや、正確にはやっと気が着いた事実。 剛三郎の不埒を嘘だと否定してみるものの、どう考えても、つじつまが . . . 本文を読む

お登勢・・44

2022-12-18 12:34:13 | お登勢
大森屋の奥座敷からお芳を送り出すと、お登勢はほうううとため息をついていた。 お芳の胸中を思うと暗澹としたものがお登勢をつつむこんでゆくのであるが、その暗い気持ちの横に得手勝手なうきたちが並び立ってくる。 「あんちゃん?女将さんがいっていた縁談っていうのは・・・ひょっとして?」 徳冶さんのことだろうか?と、たずねたくなる言葉をお登勢はつぐんだ。 いくら、女将さんがお登勢が自身の幸せをつかめば . . . 本文を読む

お登勢・・45

2022-12-18 12:33:59 | お登勢
「なんだろう?なにか、良いしらせかね?」 「・・・・・」 「お登勢の縁談相手がわかったのかい? だったら・・・、 うちで、仕度をしてやらなきゃなるまい? 木蔦屋から、嫁にだしてやろう・・。 そうだな・・。そうなら、お登勢に帰ってくるように おまえ、ちゃんといったんだろうな? はああ~~ん。 帰ってくるんだな?そういったんだろう?」 饒舌になる剛三郎の言葉の中に魂胆がある。 筋 . . . 本文を読む