白銅からの伝えを聞くと、
澄明は、また、善嬉のもとへ出向いた。
「白銅を通して、男のことは読めるのですが」
気になるのは、男 榊十郎の息子、榊縅之輔の
思念に混ざり込んできた白い大きな犬だった。
「白銅は、犬神のもとに成ったのではないか、と考えている様です」
あとは、善嬉が白い犬を読み下すだろう。
しばらく、善嬉は、黙りこくっていた。
やがて
「澄明、白銅の思う通りだの。
榊一 . . . 本文を読む
昼には、烏丸まで、と、思っていたが
鴨川縁に、人だかりを見た。
それで足が止まったのだが、
人だかりの真ん中に、あの口入屋の男がいる、と
法祥がいいだした。
「どれだ?」
「あの、背の高い男です。着物を羽織っている、あの男です」
妙な言い方をしているが、素裸に着物を羽織っているのではない。
普通に、着物をきておいて、もう1枚薄手の麻かなにかの着物を
羽織っている。
羽織を重ねる . . . 本文を読む
もう小半刻たつだろうか。
法祥も白銅も言葉を交わす事なく
魯をこぐ音と水音だけが、
舟のうしろへ流れていた。
悟るとは、さあと取れる事を言う。
法祥は考えても考えても
さあ、と、取れるものを掴めずにいる。
考えるだけ、無駄と言っても良い。
「法祥、おまえは、なにを考えるか判っておらぬ。
わしが、いうたのは、 自分で ということを
考えろというたのじゃ」
転がりだした岩を止めて . . . 本文を読む
白銅と法祥は、京にむかう。
おそらく、舟で大津ちかくまでいくだろう。
旅支度も手慣れたもので、ささと、整えると
銭をくれと、白銅が手を差し出す。
戸袋にあるといいおくと
澄明もまた、家を出た。
行き先はすでに決まっている。
九十九善嬉 白虎を祀る善嬉を尋ねる。
銀狼を手繰る事は出来ないと考えてはいたが
法祥に答えているうちに
見えてきたことがある。
それを、まず、善嬉に尋ね合 . . . 本文を読む
白銅と二人、黒犬からおりたてば
そこは二人の住まいの外
裏庭におろされた。
「念のいったことだ」
白銅がつぶやく。
「念がいっている?」
「そうだろう。裏口におろしよるのだから」
なにが念入りなのか、やはり、わからない。
「わしは、はらがへった」
「ああ・・」
裏口をあければ、そこはすぐ、くどである。
確かに念入りだとおもうが、やはり、気にかかる。
「うまく . . . 本文を読む
飯屋にはいると、
白銅は驚かされる。
やけに、店主が丁寧なのだ。
驚いた顔の意味を察した法祥は
店主の丁寧さの理由を話す。
「坊主には親切にしておくと
あの世での扱いが良くなる、と、信じられているのですよ」
「ほおお」
間の抜けた返事しか出てこなかったが
思うところはある。
寺ばかりある。 神社も多い。
ーどうせ、鎬を削るに都合の良い風聞をたてたのだろうー
「誰が吹聴したか . . . 本文を読む
澄明の式神により、善嬉が来ると知らされた白銅は
その由と善嬉とともに、
榊十郎の息子、縅之輔に逢おう と、法祥に伝えた。
「わざわざ、逢わずとも、陰陽術で読むことができるのでは?」
ー読むーと、いうことを、簡単にできると考えるのは
仕方が無い事である。
「直接、白い犬が縅之輔に、憑いていいるのなら、
それもできる。
が、縅之輔の前世がひょっくり顔をだしたというより
血の中に溶け込 . . . 本文を読む
善嬉も、舟で行くだろうが、
むこうには、舟が一艘。
三井寺の船場に留めてある。
と、なると、
帰りの無駄を省くためにも
善嬉は、船頭を見つけるだろう。
そして、白銅が借りた舟で帰ってくる。
ー無駄を嫌うのは、良いのだが
時に、無駄を楽しむ気を持ってくれればよいのにー
と、澄明が思ってしまうのは
善嬉が、恋さえ、無駄と考えているように見えるからだが、
この前の妙に、気色ばんだ善 . . . 本文を読む
白銅からの伝えを聞くと、
澄明は、また、善嬉のもとへ出向いた。
「白銅を通して、男のことは読めるのですが」
気になるのは、男 榊十郎の息子、榊縅之輔の
思念に混ざり込んできた白い大きな犬だった。
「白銅は、犬神のもとに成ったのではないか、と考えている様です」
あとは、善嬉が白い犬を読み下すだろう。
しばらく、善嬉は、黙りこくっていた。
やがて
「澄明、白銅の思う通りだの。
榊一 . . . 本文を読む
「榊縅之輔の思念の中に、大きな白い犬が映ってくる
これは、たぶん、犬神の大元、前世の最初ではないかと思うのだ」
白い犬と一口で言ってしまうと
法祥には判らない事であろう。
「白い犬というのは、
人間になりたい、と、思っているのだ」
やはり、法祥は得心できない。
「犬が?犬が、人間になりたい、と、思う?
じゃあ、輪廻転生で、場合によっては
私が、元は白い犬だったということだってあり . . . 本文を読む
息子の縅之輔に犬神が憑くことにより、
榊十郎への守護が無くなるのではないだろうか?
この場合、守護と言わないだろうが、
それでも、お上の目から密貿易を隠し通す
と、いうことが、犬神の守護であれば
榊十郎を守護している間は
榊十郎は、安楽に密貿易を行える。
だが、犬神が榊十郎を見限ったら、
お上につかまり、刑罰を与えられる。
どんな刑罰になるのかまでは、
法祥には、判らないが
. . . 本文を読む
なにか、妙だと感じただけの法祥であったが
白銅は妙ではなく、はっきりとなにかを見抜いているのか
「白銅さん・・良くない・・というのは?」
「みっつ、ある」
「みっつ・・・も?」
「ひとつは、お前が聞いてきたことの裏だ」
法祥はまだ、なにも白銅に告げていない。
女の話がきこえる場所に居なかった白銅である。
ー私を読んだということだろうか?ー
だが、わざわざ読まなくても良い。
じき . . . 本文を読む
昼には、烏丸まで、と、思っていたが
鴨川縁に、人だかりを見た。
それで足が止まったのだが、
人だかりの真ん中に、あの口入屋の男がいる、と
法祥がいいだした。
「どれだ?」
「あの、背の高い男です。着物を羽織っている、あの男です」
妙な言い方をしているが、素裸に着物を羽織っているのではない。
普通に、着物をきておいて、もう1枚薄手の麻かなにかの着物を
羽織っている。
羽織を重ねる . . . 本文を読む
朝食を戴くと、さそくに、足駄をはむ。
大師も寺の外まで出て、二人の出立を見送ってくれた。
「おまえは、三井寺には寄ったことはないのか?」
都まであないするというくらいだから、
そちこち、顔をだしていそうな気もする。
「いえ、私は・・行方をくらますに必死でしたから」
そうだった。生き残ってしまった法祥が
都近くに居れるわけはなかった。
「最初に、導師にかくまってもらって、
それから . . . 本文を読む
三井寺の船場があるはずだと、探していると
人影が岸辺に立ち、白銅らに手をふっているように見える。
ようよう船が近づいていくと
人影の姿がはっきりしてきた。
ー大師だー
三井寺の大師自ら、供連れもつけず一人、岸に寄るとは、いかなることだろう。
そして、白銅たちを待っているようにも見える。
大師は、寄ってきた舟を
繋ぐ場所を指示すると
白銅と法祥に深く頭を下げた。
舟を繋ぎ終え、岸 . . . 本文を読む