やってきた男は・・。自分をおおなもち、だと名乗った。多くの名を持つ男だという。それは、また、多くの国をおさめている証である。「出雲では、なんとよばれていることでしょう」女、奴奈宣破姫の問いに男はにまりと笑ったように見えた。「ここでの名前があればよろしいでしょう」すなわち、この国もおおなもちが治めるということであり、奴奈宣破姫、自らが統括する国の首長になるということは、奴奈宣破姫に男との因を結べとい . . . 本文を読む
ーと、いうことは・・・ースサノオの、思ったとおりだった。あの日、アマテラスは、機を逃さなかっただけにすぎない。日食を予測し、アマテラスは、祠にこもった。まもなしに日食がはじまり、アマテラスが祠にこもったせいだと周りのものは、騒ぎ立てる。ー確固たる、君臨と、人心の統治ーあるいは、目くらましにすぎない。ー本当の君臨は、民の生活に根をおろすーとにかくは、人々の生活を豊かにしてやらねばならない。たたら製鉄 . . . 本文を読む
「根の国をおさめよ」そういわれたスサノオを思う。根の国・・・。この世に存在しない黄泉の国をおさめよとは、ひいては、死ねという事でしかない。憤怒がそのまま、声になる。「いかほどに・・。ならば、根の国にどういけばよろしいですかな」スサノオはたっぷりの皮肉で応戦したはずだった。炒った豆から芽が出ぬようにひねった鶏が朝を告げないようにスサノオがいきながらえたまま、どうやって、黄泉の国へいけようか?スサノオ . . . 本文を読む
ー行くが良いー
義父、スサノオの言葉にオオナモチは、目を見開いた。
ーそれは・・・つまり・・-
多くは語るまいと、スサノオは、懐に手をくむと、黙ってうなづいてみせた。
ー確かに・・・-
今、スサノオの娘である、すせり姫の私心をはばかっている時ではない。
間違いなく、アマテラスは、奴奈川一帯を掌握する。
ぬながわひめが、翡翠により、民の信頼と崇拝を集めていることが
アマテラスには、一 . . . 本文を読む
「つまるところ、翡翠の呪力は、太陽信仰に勝てないとおっしゃるわけですか?」ぬながわひめの苦渋を思い量り大国主命は返事を濁した。「精神力の問題であるとおもいます」精神力とは、術を使うものの能力をいうのではない。民衆の信仰心をさす。大きな根源力が、術者の能力を増幅させる。
仮に成らぬ予測であっても、根源力が集結すれば、ならぬ筈のものが成る。
「アマテラスのほうが、民の心をつかんでいるということです . . . 本文を読む
ぬながわひめが出雲にいったあと、建御名方命がぬながわひめにかわり、奴奈川いったいをおさめていた。翡翠の宣託をうけられぬ民衆は一抹の不安をだかえていたが、くわえて、おおなもちへの信頼も厚かったのであろう。出雲の立国がゆるまぬものになればよいと、身を呈しおおなもちにつきしたがい、出雲の地にでむいたぬながわひめの出雲への思いを解してもいた。そのぬながわひめが奴奈川にもどってきた。
民、一族は巫である、 . . . 本文を読む
建御名方命に追討の命が下されたころには、すでに、スサノオもおおなもち(大国主命)も惨殺に処されていた。
天にも届く社をたてるということが、出雲明け渡しの交換条件だったという。
ーめくらましでしかないー
スサノオの諸国平定の中身といえばたたら製鉄の功、治水灌漑と諸国の民の生活の礎になった物事ばかりである。
スサノオへの信頼はすでに、信奉の域にたっしていた。
ーアマテラスめが・・・-
なに . . . 本文を読む
スサノオの命をうばいさると、アマテラスの軍勢が美穂の入り江におしよせ、アマテラス自ら美穂の住まいにずかずかとはいりこんだ。
きりつめた顔に幼さがのこるみほすすみをみつけ、にらみすえた。そして、ふたつ、ならんだ千木の由縁におもいあたった。
ひとつは、国津神の千木、すなわち地方豪族と解していい。おおなもちのことである。
もうひとつは、天津神。すなわち、おおなもちは、天津神の系譜をもつ女御、姫と因 . . . 本文を読む
「へさきに鏡をかかげよ」アマテラスの横暴に急遽かけつけたにぎはやひだったがすでに、時はおそく、スサノオはいわんや、おおなもちまでもが、死出の旅路についていた。
いまは、ことしろぬしとみほすすみの住まいとなった美穂の社の目と鼻の先にある入り江にアマテラスひきいる兵が大挙していた。
あまたの船に入り江にはいることもかなわぬとみたにぎはやひは、恭順のしるしになる神器のひとつ、辺津の鏡を船のへさきにと . . . 本文を読む
「アマテラスさまはおおなもちの願いをかなえてくださるのですよ」おおなもちの願い?おおなもちがなにをねごうたのか、ことしろぬしの口からきかされるだろう。はたして「おおなもちは、天まで届く社をねがったのです。それは莫大な人力と時間がかかることでしょう。それでも、アマテラスさまはおおなもちの願いをかなえてくださる」
ーなるほどーにぎはやひの胸にぬながわひめの推量とおなじ考えがわいていた。
ーー天まで . . . 本文を読む
大きな岩を墓標にしたのは、簡単に墓をほりかえせぬようにしたともみえた。
ーすると、ここにスサノオがねむっているのかー手をあわせ、スサノオにたずねてみたとて、返事などかえってくるわけがない。
日御碕ちかく、平らな草原の真ん中にすえられた墓石に夕日がにじみだしてきていた。
「おおなもちは・・?」
スサノオの後をおったといってはいたが、別の場所で自害したということにしているのだろう。
にぎはや . . . 本文を読む
真にスサノオが眠るかどうかわからぬが、スサノオの墓は確かにあった。「おおなもちの亡骸は?」「うむ」返事を返したがアマテラスは言葉をつなごうとしない。「スサノオをこのままにしておくのも、哀れでな。社をひとつ、建立してやろうとおもっている」にぎはやひの問いをかわすかのようである。
「おおなもちの亡骸は?」にぎはやひはもう一度尋ねなおした。
先のように剣をつきつけてくればアマテラスにとって都合のわる . . . 本文を読む
落ちいく陽においつこうとするがごとく走りいくアマテラスの馬の手綱がひきしぼられた。
馬が荒い息のままその場に静止するとアマテラスは馬の背から降りた。
ーここか?-
馬上のにぎはやひはあたりをみわたした。目にうつったのはただ、ただ広い茅の群生だった。さほど、背の高くない茅がならびたつ、その向こうの茅がおしなべられている。
落ちいく陽光がおしなべられた茅の中に並び立つ七つ、八つの黒い石を影絵の . . . 本文を読む
「どうした?おりぬのか?」馬上であれば黒き石はことさらはっきりとみえておろう。にぎはやひは、黒き石の数にとまどうているとみえた。
「あ?ああ・・」やっと、馬の背をおりると、アマテラスの近くにあゆみよりながら、尋ねるしかない。「ここか」おおなもちの墓はここだというのか?にぎはやひのとまどいをみすかしてアマテラスは言葉少ない。「ああ。そうだ」またも笑いがこみあげてきそうである。にぎはやひの勝手な憶測 . . . 本文を読む
かみ殺した笑いがまだ口の中にのこっている。粛清なる事実をつげるにふさわしからぬ。アマテラスは静かに頭をたれ己が静まるの待った。
やがて、にぎはやひにまたも邪推されるだろう事実をしゃべりだした。「すべてが、おおなもちである」
にぎはやひの顔が怒りに震える。顎が宵闇の中でがくがくとうごいている。言葉にならぬ怒りを言葉にしようとするものの口中、舌がしびれ、こわばっているとみえた。「おおなもちは出雲を . . . 本文を読む