憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

お登勢・・16

2022-12-18 12:40:58 | お登勢
ひとり、部屋に残されるとやはり、お登勢がこっちに話してくれなかったことが心に浮かび、ひかかってしまう。そのこだわりを宥めるようとお芳は自分に言い聞かせる。剛三郎の言うとおりにしよう。あたしからは、お登勢になにもいうまい。と・・・。だけど・・・。と、お芳は思う。剛三郎の推量が本当だったとしたら、お登勢は誰の事をおもっているというんだろう?殆ど木蔦屋に居るばかりで、お登勢が誰かとこっそり逢っている・・ . . . 本文を読む

お登勢・・17

2022-12-18 12:40:44 | お登勢
お芳もおさんどんよろしく、袖をまくり挙げて、てつないにはいっていったくどにいつも、朝餉の手伝いにはいるお登勢の姿がみあたらない。「おやあ?めずらしく寝坊かい?」今まであったことじゃないから、寝坊というより・・・。具合でも悪くしたのかしらん?と、お芳は挙げた袖、そのままに、お登勢の様子を見に行く事にした。お登勢の部屋のふすまの前でお芳は声をかけた。「お登勢、はいるよ。どうしたね?具合でもわるいのかい . . . 本文を読む

お登勢・・18

2022-12-18 12:40:27 | お登勢
しぶしぶという呈をよそおって、剛三郎はぽつりとつぶやいてみせた。「どこかの・・・大店の・・旦那の妾・・」「あっ・・ええ?」あまりにも意外な言葉がとびだしてきた。お芳の胸がびくりびくりと動いているのが自分でもわかる。「なにを・・、そんな馬鹿な・・・」剛三郎の話に何の裏打ちなんかありゃしない。ないけれど、それを違うといえる裏打ちもない。違うといえる裏打ちもないどころか、大店の旦那の妾。そう考えれば、な . . . 本文を読む

お登勢・・19

2022-12-18 12:40:13 | お登勢
そして、剛三郎である。中村の旦那をたてまえにとって、急く足をそのまま、洸浅寺横の茶店にすべりこまると、番台に座ったままの茶店の婆にたずねた。「若い娘が、一人であがりこんでいるだろう?」当然、「ああ。ずっと待っておいでだよ」と、返されてくるだろう婆の言葉が剛三郎を裏切った。「昨日、一緒に来た娘さんかい?・・・見かけてないよ」「え?」婆の顔つきをまじまじとのぞきこんでみた。ずいぶんと娘を待たした男を娘 . . . 本文を読む

お登勢・・20

2022-12-18 12:39:47 | お登勢
「そのお登勢が・・・一昨日・・口がきけるようになったんですよ・・・」それは、めでたいことであろうに・・・。それでも、くぐもったお芳の顔からよくない仔細があるらしいと男にはわかった。「貴方がお登勢にあったことがあるのか、見たことがあるのか、わかりませんが、そりゃああ、綺麗な娘なんですよ。ですから、お登勢にのぼせ上がって悪さを仕掛けるものがでてきちゃ・・・口の利けないお登勢になにか、あっちゃあいけない . . . 本文を読む

お登勢・・21

2022-12-18 12:39:33 | お登勢
「お登勢がそれだけの理由で出て行ったんだと思えないのは、まだ、ほかにもわけがあるんですよ」お芳は話してゆく道筋を思い返しながら男にまだ、わけがあるきがすると、きりだした。「次の日に・・・私はお登勢にかねてから考えていたことではあったのですが・・・」これも、いいわけだと、お芳は思う。かねてから、考えていたなら、もっと、早くお登勢の口が利けなかったときにこそ、告げるべきだったのだ。「お登勢の口がきける . . . 本文を読む

お登勢・・22

2022-12-18 12:39:19 | お登勢
「女将さん。私はひとつだけ・・・不思議に思うんですが、たずねてもいいでしょうかねえ?」曰くありげにきかれれば誰でも「どうぞ」というであろう。お芳もそうだった。「なんでしょう?」膝を正すかのようにお芳がすわりなおすと、男はくすりとわらった。「いや、そんな、たいそうなことじゃないんですよ。一つは、そんなお登勢さんなのに、ひょっとして、どこかの所帯持ちの男と・・・と、いう考えが何故わいてきたのか?と、や . . . 本文を読む

お登勢・・23

2022-12-18 12:39:06 | お登勢
木蔦屋での用事が不首尾に終わったと手ぶらで帰るわけも行かず、男は郭界に足を伸ばした。蛇の道は蛇、の、通り、女衒のことは郭界にきけば直ぐ分かる。郭界の入り口から三軒目。こじんまりした構えをしているが、そこに任侠の徒がいる。郭界の秩序を守り、かわりに上前をはね、かたわら、ときおり、賭場も開いている。歓楽街の任侠といえば、また女衒の元締めといってもいい。そこで、清次郎のことをたずねあげるが、いっそうはや . . . 本文を読む

お登勢・・24

2022-12-18 12:38:52 | お登勢
「なるほど・・・。確かにおまえさんの話を聞けば晋太さんというのが、『兄』のような人と言われたのに、得心するよ。私は、口入屋にも、いってこようとおもっていたんだけど、その前にやはりその晋太さんをたずねてみようとおもう。晋太さんというのが、何処にいるのか、おしえてもらえまいか」男の言葉に清次郎はゆっくりと男を斜めからみあげなおした。「笑わせちゃあいけないよ。木蔦屋にならいざ知らず、この俺にも、お登勢に . . . 本文を読む

お登勢・・25

2022-12-18 12:38:36 | お登勢
男が井筒屋奥の間に上がりこんだ頃、木蔦屋にやっと剛三郎が戻ってきた。相変わらず一目散に庭に降り立とうとする剛三郎に「おまえさん。ちょいと、盆栽はあとにして・・・。こっちへ来ておくれよ。良い知らせがあるんだよ」「まあ、待ちなよ・・・」お芳の言葉をかわしておいて、剛三郎は剪定の道具箱をのぞいた。 あるはずのものが無い時の人間の顔は、どこか、魔が抜けた表情になる。思考と感情がいっぺんに止まり頭の中と同 . . . 本文を読む

お登勢・・26

2022-12-18 12:38:21 | お登勢
「ああ。やっぱり、おまえさんも本当は店の中の誰かだとおもっていたんだね」じゃあ・・・。本当は剛三郎も何もかも承知だったんだ。お登勢が男をかばってやったことを見抜いて、ああ、ああ。それで、お登勢の好きなようにさせてやれって・・・。「なんだよ?その男もそういってたのか?店の中のものだって?」「そうだよ。そして、お登勢の事もその夜這いの男の事をよくよく、かんがえてやったんだ、って。その男にだって、生活が . . . 本文を読む

お登勢・・27

2022-12-18 12:38:08 | お登勢
井筒屋に上がりこんだ男こと米問屋。大西屋の隠居であるが、親子みつどもえで雁首を並べられると、さすがに立て板に水の如くには言葉が出てこない。何処から、話してゆくかを順序だてていたはずだが、良い知らせを待つ親子にお登勢の出奔を告げるのが、いかにも残念である。「大西屋さん・・・。いかがでしたか?」うずうずと、尻が動くかのような息子徳冶を目の端に置く事にこらえかねた井筒屋の主人・徳エ門が口火を切った。「そ . . . 本文を読む

お登勢・・28

2022-12-18 12:37:54 | お登勢
徳冶を連れ出すと 大西屋は立ち話もなんだからと一膳飯屋に入った。昼真から、酒もなんだろうかとおもったが、いける口かなとたずねれば、徳治の云もあり、大西屋は徳利ふたつと、 奴を前に徳冶がお登勢さんの承知をもらう難しさを話す事になった。「まず、なにから、はなしてゆけば、よいかとおもうんだが・・・」大西屋の口の重たさの裏側にあるものが、なんであるか、わからないまま徳冶の不安をあおる。「ま・・まさかと、お . . . 本文を読む

お登勢・・29

2022-12-18 12:37:38 | お登勢
縁の下に隠れたままのお登勢がみじろぎもせず、正気を逸しかけていた。そのお登勢に気がついたのが、 晋太であり、子供ひとりがやっとはいれるかという狭い縁の下でお登勢を菰に乗せ、引きずり出してきたのである。晋太がお登勢に気が付くのがもう少し遅かったら、今頃は口のきけない気違いになりはて、お登勢はどうなっていたであろうか。「子供心にもねえ、助けてやりたい。助けてやりたい。って、晋太さんはそれだけしかなかっ . . . 本文を読む

お登勢・・30

2022-12-18 12:37:25 | お登勢
お登勢は昨日の明け方近くに木蔦屋をぬけだしていた。これもお登勢なりにかんがえたことである。夜中に戸閉まりを解き放つ無用心を思ったお登勢は木蔦屋のまかない方であるおさんどんが一番におきだしてくる明け方近くまでを待った。勝手口の戸が開いていてもおさんどんが最初にそこに来る。蜆売りや豆腐売りがくどに顔をだせるように、戸の鍵をはずすのが、おさんどんの日課でもあるわけだからおさんどんがいれば、戸があいている . . . 本文を読む