憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

空に架かる橋   1

2022-09-17 15:58:47 | 「空に架かる橋」
私がこの病院にきて、もう、3ヶ月が経つ。ココに来た当初、ここは戦地から、程遠く、前戦から、やむなく撤退してきた兵士の手当てがおもな勤務だった。なのに、今、病院は戦地ととなりあわせになりつつある。世界協定だけはまもられ、核兵器や細菌兵器などをつかわないかわりに、文字通り、戦地は肉弾戦の修羅場とかし、いつのまにか、破壊されてはいけないはずの病院も砲弾を受け建物の片側からは青空がくっきり見える有様になっ . . . 本文を読む

空に架かる橋   2

2022-09-17 15:58:30 | 「空に架かる橋」
ココにいるスタッフは医師が2名とあたし達看護士が3名。ほんの3ヶ月前にココに派遣される事になったんだけど、千秋だけは、志願してここにきた。と、いうのも、外科担当である露木先生がココに来ることになったせい。つまり、千秋ははためからみたら、俗にいうおっかけ・・・?っていうことになるんだろうけどあたしからみたら、非常に難解なおっかけということになるかな。と、いうのも、千秋は露木先生の「仁術」を崇拝してい . . . 本文を読む

空に架かる橋   3

2022-09-17 15:58:11 | 「空に架かる橋」
明美の事を少し話そうと思う。明美は・・・。そうだね、千秋とちがって、目下恋愛道、驀進中ってとこだね。相手?それがあたしの一番、心にひっかかること。明美の相手はこの病院の入院患者。哲司って言う名前だけど、哲司は連隊から、ココに搬送されてきた男なんだ。怪我なんかじゃないんだ。虫垂炎が腹膜炎を併発させて、担架でかつぎこまれてきて、けが人の手術ばかりだった露木先生に「いやあ。平和な病気だ。ひさしぶりだなあ . . . 本文を読む

空に架かる橋   4

2022-09-17 15:57:53 | 「空に架かる橋」
そして、もう一人の医師。佐々木先生。彼はもう60歳い近い年齢だから、この病院でのポストは、院長ってことになる。スタッフが総勢5名で院長って呼ばれるのも妙だろうけど、この病院自体はかなりおおきい。 食料の保管庫も薬品のストックも充分だし、手術中に停電なんてことになっても自家発電機器にリターンできる。最新設備が整っていると言う事で、この病院がバックアップ基地として、えらばれたんだけど・・・。 一番 . . . 本文を読む

空に架かる橋   5

2022-09-17 15:57:37 | 「空に架かる橋」
佐々木先生に呼ばれた私達は玄関の脇にある個室に入った。ここは、患者さんの家族に入院手続きなどを説明したりする、いわば、応接室なんだけど、今は本来の目的でつかえるわけもなく、医師というか、男性陣の私室になっている。と、いっても、ほとんど治療室に立てこもりの状態で先生二人がココで並んで睡眠をとるなんてことはない。まあ、そんなことは今かんけいのないことだけど、話し場所として、ここを選んだのは単に患者に話 . . . 本文を読む

空に架かる橋   6

2022-09-17 15:57:21 | 「空に架かる橋」
夜からの雨が木立に辺りそとはしとしとという音をたてている。レトルト食品を温めただけの食事を皆にくばりおわると、仮眠ベッドに横たわったあたしの耳にかすかな銃声の音がきこえた。「ちかくなってきたね」隣のベッドに身体を横たえた明美はベッドの中で息をころしている。「大丈夫よ・・・ここは」病院への攻撃は禁止されている。だけど、実際のところ、不可抗力にせよ、病院は砲撃をうけて、片屋根をふっとばされている。「わ . . . 本文を読む

空に架かる橋   7

2022-09-17 15:57:05 | 「空に架かる橋」
朝には雨がやんでいた。遠くから銃弾の音が散漫にひびいてくる。あたしは東さんの包帯を替えながら、その音の意味をかんがえていた。銃の音は病院の後方の山向こうからきこえるきがする。そして、緩慢な発砲。 これは、部隊が後退をしいられているということではないだろうか?発砲を繰り返しながら部隊が山の中に逃げ込んでいる。 つまり・・・。それは、この病院がもう、敵の陣地の中にのみこまれたということになるんじゃ . . . 本文を読む

空に架かる橋   8

2022-09-17 15:56:49 | 「空に架かる橋」
参戦なぞできるはずもない東さんでさえああだったから、あたしは、当然、哲司のことが気になっていた。目の端でさっきから哲司を盗み見しているんだけど、明美が哲司になにか、話しかけていた。しばらくすると、哲司は自分の服にきがえだして、たった一つの武器である自動小銃をベッドの上においた。 ああ。哲司は部隊にもどるんだ。 明美は?明美は哲司の傍をはなれると、あたしの傍をすり抜けざまに伝言をよこしてくれた。 . . . 本文を読む

空に架かる橋   9

2022-09-17 15:56:31 | 「空に架かる橋」
昼食を終えると哲司は「いってきます」と、ちょっと、そこら辺に旅行にでも行くように簡単に出発をつげた。立ち上がった哲司を見送るために明美も哲司のあとをついていった。 それが、哲司の生きてる姿を見る最後になったんだ。 玄関先での長い抱擁のあと、明美は哲司の瞳の中に笑顔を残そうとつとめたことだろう。 だけど、そのあと・・・。玄関を出た哲司は鍛え抜かれたスナイパーのたった一発の銃弾に頭を打ち抜かれ明 . . . 本文を読む

空に架かる橋  10

2022-09-17 15:56:14 | 「空に架かる橋」
あたしの目の前を血だらけの少年兵を背負った兵士が通り過ぎた。銃口を向けていた男はあたしと佐々木先生にこっちにこいと合図をすると、少年を背負った男の後をついてゆけというようだった。佐々木先生はもうわかっていたんだろう。背負われた少年の太ももの先は両足とも・・・無かった。診察室に入ると少年は佐々木先生の仮眠ベッドにも使われていた診察ベッドによこたえられた。佐々木先生は少年をみつめていたけど・・。少年を . . . 本文を読む

空に架かる橋  11

2022-09-17 15:55:57 | 「空に架かる橋」
佐々木先生が少年への手術にのぞんだのは、やはり、先生が医者だからだ。医者の眼の前にいる、けが人には、敵もみかたもない。万に一つも助からないと判っていても、佐々木先生は少年の身体の傷を縫合してゆく。それが彼を取り巻くものの心の手術にもなる。先生はけが人や病人を治療するだけの医者じゃない。そんなでかくて、深い心で医療に従事する先生だったのに、やっぱり、ココは戦場でしかなかったんだ。先生の仁の心はこの手 . . . 本文を読む

空に架かる橋  12

2022-09-17 15:55:40 | 「空に架かる橋」
患者がどうやって殺されたか。あたしがこのことを知るのは、明美からなんだけど、その明美もあたしが手術室に入ってる間に「殺された」んだ。変な言い方だね。明美はチャンと生きてるよ。だけど、あたしには、そうとしかいえない。それをこれから話してみる。哲司に取りすがったまま、明美は何にもかんがえられなかったんだ。もし、哲司が部隊にもどった上で死んだとしたら、哲司の死は明美に知らされる事が無い。だから、明美のな . . . 本文を読む

空に架かる橋  13

2022-09-17 15:55:23 | 「空に架かる橋」
佐々木先生とあたしが手術室をでて、少年を診察室のベッドに連れて行くときあたしは不思議な光景をみた。診察室にまで運び込まれたベッドの上で、銃口を向けられていた患者は誰一人いない。部屋の壁の隅に患者が着ていた服だけが山になってつまれていた。ちらりと、目の端でみとめただけだったけど、下着まであった。患者は素っ裸にされて、どこにつれさられたというんだろう?千秋も露木先生も居ない。明美は?明美はまだ、哲司を . . . 本文を読む

空に架かる橋  14

2022-09-17 15:55:08 | 「空に架かる橋」
「いつまでも、こうしちゃいられないな」明美の身体を嘗め尽くす役得を終えると、男は明美の手をつかんで、立ち上がらせた。中にはいれと男にうながされた明美はプログラムの実行を掛けられたロボットみたいにだった。男の銃に威嚇されているわけでもなく、明美が男の言葉にしたがったのは、中に居る、あたし達のことがきになったからにちがいない。銃口の先を歩く明美が診察室の扉を開けた。明美の眼にうつしだされたのは裸の患者 . . . 本文を読む

空に架かる橋  15

2022-09-17 15:54:52 | 「空に架かる橋」
源次郎さんが歩みだすとあわてて明美は後を追いすがった。明美に銃を向けてた男は明美の行動を黙認していた。明美の無駄をあざわらうか、明美の気のすむようにさせると決めたか、あるいは、明美の生死さえ自由に出来る余裕のせいか。ドアをあけて、廊下を過ぎ地下室へのエレベータにのせられながら、明美は源次郎さんに銃を向けている兵士を説得し続けた。「彼は民間人なのだ。彼は老人なのだ」だけど、兵士はなんの言葉も発そうと . . . 本文を読む