政勝はその神社の境内の中に入ってみた。
そこには、今、思ってみても妙な物ばかりがあった。
石に刻み込まれた道祖神に過ぎないと思って
何気なく目をやっていた政勝もうっと息を飲んだ。
描かれた道祖神は向かい合う男女であったり、
男同士、あるいは女同士であったのであるが
それが一様に互いの性器に手を延ばしている。
慌てて辺りを見渡せばあちこちにそれと判る物が並び立っている。
民間信仰の産土神に子を授かりたい夫婦が
性器を模った物を奉納する事は良くある事であり
政勝自身は驚く事ではなかったが、
連れ歩いてきている一穂の事が一番に懸念された。
年端の行かぬ一穂に見せられぬ物であった。
「流石に・・あれ・・は、いかぬ」
と、政勝は言うと、また話し出した。
慌てた政勝は一穂を境内から連れ出そうとしたが、
すぐ側に居たはずの一穂が見当たらない。
間の抜けた話しであるが、
政勝が男女の淫らな彫り物に目を奪われている間に
一穂が何時の間にか政勝の側から離れていた事に気がつかなかったのである。
僅かの間の事である。
そこいら辺に居るはずであるなと政勝は一穂を呼ばわってみた。
が、返事が無い。
が、良く見れば神社の扉がかすかに開いている。
ははあ・・・。あそこには入っておるなと、当りをつけて政勝が歩んで行った。
政勝が扉に手をかけ開けようとすると中から一穂が飛び出して来た。
「ま、ま、政勝・・あれは?・・中に」
一穂が驚愕の色を見せている。
政勝は扉の中の、見てはなら無い物を塞ぐかのように扉を閉めながら、
どうせこの境内の調子では
中には大きすぎる陽根と
一穂にとって奇怪な物でしかない陰根が
対で飾られていたのだろうと高を括っていたのである。
が、一穂が政勝にむしゃぶりついて来ると
「ど・・髑髏・・が・・髑髏が飾られてあったのじゃ」
と、言ったのである。
どうやら真言立川流の宗派の社であったかと
政勝にも得心がいくとそうそうに一穂を連れ帰って来たのである。
「その事に関係があるのかもしれぬの?」
と、政勝は話しを結んだ。
真言立川流というは、性愛を教義にする宗派である。
性愛と呼べる物ならそれが男女であろうが
それが同性同士であろうが
門戸を開いて招じ入れているので、
禁断の愛憎に陥った者達の確固たる逃げ場所にもなっており、
新町の春を鬻ぐ者達の信奉をも集めていた様であるが
経典が性愛事に基を成しているとならば、
敢えて表立った門徒の呼集はしておらず
影参り的な口の裏で悩み迷う者達が
密かに寄り集って出来上がっている宗派なのである。
何処でどう言う事になったのか、
開祖である早川何某が奥義を伝授しながら
性愛の果てに極楽浄土に上ったと言う事で
早川の髑髏が本尊に奉られているという
実しやかな噂が流れていた時期があったのである。
それを政勝も何処からか聞き及んでいたという事であり、
ならば妙な道祖神の石彫りにも、
社の中に髑髏が奉られているのにも政勝には得心がいく事であった。
真言立川流についてはそれでおくとしても、
やはり、森羅山には社と呼べるような建物は一切無い筈なのである。
それで、澄明は改めて政勝に尋ねた。
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