憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ブロー・ザ・ウィンド ・・1

2022-12-14 16:40:13 | ブロー・ザ・ウィンド
悲しい事があるとレフィスはよくこのデッキに立った。風が吹く。雨がどこかで降っているせい。ちょうど、あの日もこんな天気。一陣の風が吹いて途端に大雨。親友だったティオが死んで、三年と二ヶ月も経った。小さな頃から一緒にいて、二人で航海士になるのが夢だった。今日は船の仲間の誕生日を祝った。シャンペンを開けてコングラチレーション。嬉しそうな彼の顔を見ていたら、たまらなくなった。誕生日の少し前、ティオが死 . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・2

2022-12-14 16:39:58 | ブロー・ザ・ウィンド
アランの友達以上、恋人未満のキスも今のレフイスには、惟、悲しいだけだった。テイオへの気持ちも友達以上、恋人未満のまま変ることもなければ、砕ける事もなく、育つ事もなく、惟、そのまま海の底に沈んだテイオと一緒にレフィスの心のなかに沈んだままだった。「ティオ……もうすぐ、私、二十才だよ…なのに……」ベッドに潜り込む前にレフイスは、小さ . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・3

2022-12-14 16:39:43 | ブロー・ザ・ウィンド
翌朝は昨日の風が嘘の様に静まり、波が穏やかな紺碧色にそまっていた。白い波を泡立て船が進みその跡が白く撹拌された飛泡で長い軌跡をつくっていた。操舵室に入ると、自動操縦から手動に切りかえる作業をしていたアランがレフイスに声をかけた。「おはよう。よく、ねむれた?」「おかげさまで。シャンパンがきいたみたい」「ん」「ウオッチャーは?」「セタが、メインで・・」「ん、わかった」航海日誌を開くとレフイスは自分の名 . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・4

2022-12-14 16:39:28 | ブロー・ザ・ウィンド
アランの何気ない告白はレフイスの中に留まっていた。アランの言うとおりレフイスは自分を巡る外の世界の事さえテイオに語りかけていた。レフイスにとってどうなんだろう。と、考える事を忘れていた。アランは自分の告白を足下の元に断られてもよかったのかもしれない。態々アランに具体的な例えを出されたその内容がレフイスを考え込ませていた。確かにレフイスは自分にとってアランがどうであるかを考え様とはしていない。自分に . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・5

2022-12-14 16:39:12 | ブロー・ザ・ウィンド
もう一度レフイスの手を取ろうかどうしょうかとアランは迷った。レフイスがアランの示した好意はテイオとの続きを模索させるだけでしかない。それはアランにとってはあるいはとっても都合のいい事ではある。どんなにテイオが遠い存在であるか、どんなに手答えのない空虚な存在であるかをレフイスに早く気がつかせてゆくことであろう。が、その事はレフイスにこんなにまで哀しい顔をさせてしまう。そして淋しい心を埋める為にレフイ . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・6

2022-12-14 16:38:57 | ブロー・ザ・ウィンド
小さくこごまってレフイスは膝を抱えていた。自分でも何故アランの申し出を受ける気になったのか判らなかった。只、テイオの母親の「忘れてくれるほうがいい」という言葉にそうじゃないと言えなかった後悔がアランの申し出を代償のように受け入れさせたのかもしれない。『テイオが生きてた事を知ってくれる人間がほしい』テイオの母親の心の底。本音はそれだったろうけど、諦めるしかない事を虚受しようとしている彼女への反発であ . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・7

2022-12-14 16:38:41 | ブロー・ザ・ウィンド
明くる朝。泣きはらした目元のはれが引ききらないレフイスにあった。「いいかな?」食堂の席は勝手に決める。セルフサービスで自分のバケットに料理を並べたレフイスがパンをほうばったアランの前に立った。アランは少し慌てながらパンを呑み込んだけど、言葉が出せる状態にはならなかったので手でどうぞとレフイスに席を勧めた。「ありがとう」バケットをおくとレフイスはパンをちぎり始めた。口の中のものをミルクテイ―で流しこ . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・8

2022-12-14 16:38:24 | ブロー・ザ・ウィンド
それから一ヶ月もすぎただろうか。レフイスは中央のホールのど真中にたっていた。渡されたシャンパングラスの中に船長が「おめでとう」と、言いながらシャンパンをそそいでいた。順ぐりに側に寄って来た仲間もレフイスの二十歳の誕生日を祝う言葉をかけて行った。その中にはウォッチャ―を脱け出して来たアランもいた。「おめでとう」アランがレフイスに一言告げると「あとでいく」と、レフイスの部屋への来訪を告げてシャンパンを . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・9

2022-12-14 16:38:09 | ブロー・ザ・ウィンド
部屋に戻ったレフイスの耳に遅い時間にドアをたたくのを憚る静かなノックの音がきこえてきた。ドアの鍵を開けると、少し草臥れた顔のアランが立っていた。「おつかれさま」レフイスがドアのノブを掴んでいた手を離してアランにどうぞと手の平を部屋の中に向けて泳がせた。「うん。いい誕生会だった?」「ええ」「一緒に祝えなかったのが残念だったよ」足元を固定された小さな木製のイスにアランは座った。たかが二十才の女の子でし . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・10

2022-12-14 16:37:54 | ブロー・ザ・ウィンド
やけつくような真夏の日差しがアランの首筋から額から所構わず汗を吹き出させていた。一陣の風が路地を吹きぬけ、風の中は潮の香りがみちていた。荷物を肩から下ろしアランは首筋に巻きつけていたタオルで汗をふいた。海の近くのレフイスの家までもう直ぐだった。荷物を担ぎ直すとアランはレフイスの家をめざした。入り江を取り巻く様に家々が立ち並んでいる。その中ほどの赤い屋根の家。天辺に胴色がすっかり緑青色になった風見鶏 . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・11

2022-12-14 16:37:38 | ブロー・ザ・ウィンド
入り江を望む丘の上まで続く小道を下草が覆い隠していた。この熱さの中を墓を訪れる者も少ないのだろう。踏まれる事がなくなって下草は延び放題に伸びていた。いつ頃レフイスがこの下草を踏んで墓に上がって行ったのか判らないほど下草は人が通った跡を消し去るかのように一端はしゃんとのびたったのだろう。そのあとでこの熱さに蒼い葉をしなだらせていた。と、なるとレフイスは随分朝早くからこの場所にきているということになる . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・12

2022-12-14 16:37:22 | ブロー・ザ・ウィンド
真夏の空は抜けるように青く、白い砂浜を歩く二人の上で太陽は夕刻の時まで灼熱の熱さをかえる事なく照りつづける事を約束していた。「あーーあつーいーーなんとかしてくれー」アランの叫び声にも似た懇願をよそに太陽はじりじりという音さえ立てそうに勢いを増していた。「一番熱くなる時間だもの。しかたないよ」「およがないのか?」海に逃げこむ事を目論んだアランの瞳がちらりとレフイスをみた。レフイスはアランの泳ぎに行こ . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・13

2022-12-14 16:37:07 | ブロー・ザ・ウィンド
岬に辿りつくとさすがに浜辺ほどに人はいなかった。が、それでも海中からそそり出た岩肌の高さが格好の飛びこみ場所になっていて何人かの少年がたむろしながら飛び込みを繰返していた。「あの高さだと結構こわいんだぜ」「勇気のみせどころ?」頭から綺麗に海の中に落ちこんで行くものもいれば鼻を摘まみながら足から落ちて行く少年もいる。深く沈みこんで慌てて息を継ぎに浮上して来る様子が岩肌の高さを思わせた。「ん。勇気のみ . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・14

2022-12-14 16:36:52 | ブロー・ザ・ウィンド
「かわいいひとだね」突然の声の方をアランは振向いた。波間に洗われ、わずかに水面に地肌を覗かせている岩の上に声の主はいた。「上がって来るのをまってたんだ。ここらへんの人じゃないよね?」さっきまで飛びこみを繰り広げていた少年の内の一人であろうか。潮に煽られて金色の髪がぱさついていた。深い海を思わすダークブルーの瞳が日に透き通ると緑を帯びた色を見せていた。「あ?待ってたって?」「ウン。ここはきれいなとこ . . . 本文を読む

ブロー・ザ・ウィンド ・・15

2022-12-14 16:36:35 | ブロー・ザ・ウィンド
アランは少年と二人で一番近い岸に向かって泳ぎ始めた。「彼女は、泳がないの?」「え?ああ」「ふうーん。でも、もう夏は終るよ」「え?」「アオブダイが群れて来るのはもっと先なんだ。今年ははやい」「そうなんだ・・・」「残念だね」岸辺に辿りつくとレフイス達のいる浜辺をみていた少年の顔が暗く翳った。どうしたのだろうと思うアランに少年は悲しげに呟いた。「御免。せっかく、一緒に探してもらったのに・・・これ、もうい . . . 本文を読む