いつもの、図書室に変化があった。
ジャニスのお決まりの席は、閲覧室の隅の窓際のテーブル。
そこでの昼休み。 ジャニスは本を開く。
だけど・・。
この前の昼休みから、決まって、巻き毛の青い瞳の転校生がジャニスの向かい側に座った。 無言のまま、向かい合わせのまま、本を読む。
一週間が過ぎる頃には、ジャニスは無言の来訪者を待つようになった。
彼は決まって、ジャニスが座ったあと、5分ほどすると . . . 本文を読む
現れない彼が読んでいた本を探しジャニスは、ページをめくった。
彼が何をよんでいたかという興味もあった。
彼が感じただろう感覚を共有したかった。
彼を没頭させるだけの内容がジャニスを虜にした。
いつのまにか、物語にひきこまれ、ジャニスの腕は中世の甲冑の騎士につかまれた。
「この前の本はもうよみおえたの?」
あっ。ジャニスは息をのむ。
中世の騎士は青い瞳でジャニスをのぞきこんでいた。
. . . 本文を読む
図書室を出た途端、エドガーの腕にアランが腕をからませてきた。
「お見事・・・。それで、彼をどうする気さ?」
アランの腕を振りほどくことは簡単なことだったが、エドガーはそれをしなかった。
「君の獲物じゃない」
エドガーの返事にアランは声を殺して笑った。
「エドガー?語るに落ちたというのは、そういうことをいうんだよ」
笑いをエドガーの腕におしつけているアランにエドガーはいくぶんか、冷ややか . . . 本文を読む
手ごろな家がみつからず、空いていた大きな屋敷をかりた。家具も調度も本も置きっぱなしだったのは、いずれ、また此処に帰ってくるためだったのだろう。人がすまない屋敷は空気が入れ替わらない。見も知らぬ人間が住まう嫌悪感より屋敷の保護が先になったもののこれだけの広さに調度・・・。借り手がつかなかったところに現れた二人。相応の金額を握らされたら、不動産の親父だって、嫌でも、貸し与えたくなる。子供二人ですむとい . . . 本文を読む
図書室の中の痴話沙汰が結論するまで、アランは出窓に座って時間がすぎるのを待つしかなかった。もしかすると、ジャニスの行動次第では、此処もそうそうにたびだたなきゃならなくなるかもしれない。
-王様気分で、城下を眺められる最後になるかもしれないー陽光は明るく、陰湿で暗い、駆け引きに興じている図書室の二人には、遠い世界だろうと思えた。
出窓に座ったまま、アランはあふれてくる涙をぬぐった。
ー茶番でし . . . 本文を読む
「今?マチアスの代わり?どういうことだ!!」
「さあね。君の目で確かめればいいさ。君が今、僕を打ち抜いたら間違いなく、ジャニスはヴァンパイアにひきこまれる。マチアスの代わりどころか、僕さえいなくなるんだからね・・。キリアン、君のせいで、ジャニスがマチアスのように昏睡し、君はまた、マチアスよろしく、ジャニスも殺すんだね」
キリアンはアランの言葉が真実であるか、どうかをみきわめるかのように、口を閉 . . . 本文を読む
並びたつ本棚を直射日光から保護するため、天井近くにいくつもの小窓がつくられ、屋根のひさしが書庫への直光をふせいでいた。
アランの背中越しにあたりを伺うキリアンに
懐かしいあるいは、憎い、エドガーの声が聞こえた。
「やあ、キリアン。熱心なおいかけに感謝するよ」
エドガーの声のあたりに銃口をむけなおしながら、キリアンはエドガーを捜した。
エドガーをみつけたキリアンの指は引き金をひくこともでき . . . 本文を読む
アランの足取りより先を歩いていたエドガーがアランを待った。
「どうしたのさ?」
アランの足取りの重さをエドガーは言う。
「ジャニスを仲間に入れなかったって、言ったね・・」
軽くうなだれて、エドガーはアランの言葉にうなずいた。
「それで・・足取りが悪くなった?って、こと?なんでさ?」
「君は・・・結局・・ジャニスにロビンを重ねようとしていただけ・・ってことになるかな・・」
エドガーを君 . . . 本文を読む
「ウェールズ(注・考証していないので、適当です)に・・いこう」
切符を買いに行くエドガーの背中をみつめ駅舎の待合にぽつねんと立ち尽くすアランの後ろ髪に触れるものがあった。
そっと、振りむくと、アランの髪にふれていたのは、赤い風船だった。
ヘリウムガスで膨らませた風船はふわふわと宙に舞い、風船が逃げ出さないように縛られた細い糸の先を、4、5才くらいの男の子がしっかり握り締めていた。
「あ?」 . . . 本文を読む