ぶらつくらずべりい

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智恵子抄「亡き人に」高村光太郎

2010-10-28 05:14:07 | クンストカンマー(美術収集室)詩・俳句
雀はあなたのやうに夜明けにおきて窓を叩く
枕頭(ちんとう)のグロキシニアはあなたのやうに黙つて咲く
朝風は人のやうに私の五体をめざまし
あなたの香りは午前五時の寝部屋に涼しい

私は白いシイツをはねて腕をのばし
夏の朝日にあなたのほほゑみを迎へる

今日が何であるかをあなたはささやく
権威あるもののやうにあなたは立つ

私はあなたの子供となり
あなたは私のうら若い母となる

あなたはまだゐる其処(そこ)にゐる
あなたは万物となつて私に満ちる

私はあなたの愛に値しないと思ふけれど
あなたの愛は一切を無視して私をつつむ

真弓「バターの塊」斎藤典子

2010-10-28 05:13:39 | クンストカンマー(美術収集室)短歌
春の窓われに帰りくるひとの見ゆまなこの裏の風景として

初句の「春の窓」とは謎である。窓を見ているのか、もたれ掛かっているのか。ただその後に「見ゆ」とあるから見ているのだろう。と思えば「まなこの裏の風景」に繋がる。そして「われに帰りくるひと」とは誰なのか。それも各々の読みに委ねられる。春はさまざまな幻を見させてくれる。