ぶらつくらずべりい

短歌と詩のサイト

「嘘、それからセスナ機」

2013-01-27 05:57:31 | 結社提出歌
「嘘、それからセスナ機」

さくらさくしたであけびの花もさく君もちいさく嘘とつぶやく

断崖で立ち尽くしてる僕のなか春の突風吹き抜けていく

前髪も君に遅れてくしゃみする菜の花経由の風に吹かれて

早緑の枇杷の葉の輝る木の下のきみとはきっと実を結ばない

万全の準備をしたと言うきみが拗ねて見上げる六月の青

初夏の昼、競歩のように駆け抜けて脱ぐもの脱がず玄関でする

紅潮を終えた乳房に耳を当て海に還りし血流を聞く

夏空に下手投げした白球を僕らはいつも見失うだけ

初秋に生まれた僕は夏の影引きずる君を探してしまう

二度ともう銀河を渡ることはない道に散らばる木犀を踏む

肌寒い風、初冬、ほら、たくさんの落ち葉がきみの嘘のごと降る

寒いとは言わない僕の指先を沈黙のまま乳房にしまう

細長い時間だったね君自身きみから語ることはなかった

気づかない振りに気づいていた君も告げられぬまま自転車を押す

君なしの未来が欲しい冬空に小さな白いセスナ機が飛ぶ