2021年8月9日の沖縄タイムスに出ていた。「オスプレイ配備ヤマ場 佐賀反対多数なら拒否も」と。これは九州防衛局が地権者約560名にアンケートを配布するというもの。内容は2項目。①配備計画を理解しているか、②土地を売る意思の有無だそうだ。
防衛省の意図はこうだろう。①理解していると言えば、地権者に納得して戴いた。②土地を売るとなれば、あとは金次第。③ここの場合、1990年の佐賀空港建設当時、県と漁協との協定に自衛隊等の軍事利用を認めないが入っており、この協定の解消を迫る。
九州防衛局ー防衛省は、このアンケートの実施を7月28日に開かれた三者協議の場で、佐賀県と有明漁協を押し切ったそうだ。
8月4日佐賀新聞が伝えるところによれば、地権者有志の会が防衛省のアンケート調査に撤回と破棄を迫ったようだ。配備する側のアンケート結果を議論や今後の検討に使われば、主導権を奪われるとの危機感があるようだ。沖縄で見てきた私には、防衛省が悪辣な策をとるのは火を見るよりも明らかだ。防衛省は、質問項目の①も②も針小棒大に利用して、建設協定の破棄を迫ってくるだろう。
佐賀空港。正面が滑走路で、前面がのり養殖の盛んな有明海。2020年12月23日
防衛省は、佐賀空港へのオスプレイ部隊の配備を2018年度までに強行する計画だった。これが地元の有明漁協、地権者の反対で頓挫している。やむなく第1ヘリコプター団の木更津(千葉県)駐屯地に代替運用が開始されている。
ここに「陸上自衛隊の佐賀空港利用について」(防衛省 2017年4月)がある。それを参考にしながら私の見解を述べておきたい。
佐賀空港駐車場の西側(写真上)の33ヘクタールが狙われている。2020年12月23日 撮影:山本英夫
(1)国が説く「安全保障」
冒頭に「我が国を取り巻く安全保障」が書かれている。「我が国を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増しています」とし「防衛省としては、国民の生命・財産と領土・領海・領空を守り抜く」と対中戦争の軍事強化の意図・実態を隠しながら、「琉球諸島防衛」網を作りますと、何やら勇ましい。
冷静に考えて戴きたい。もしも武力で、中国と権益を押し合いへし合いしていけば、与那国島・石垣島・沖縄島・奄美大島ばかりか、佐賀空港周辺を含む九州全域ー否、日本全体が戦場になりかねないことが隠されている。米国の覇権のための戦争を「国民の生命・財産」を守り抜くなどと、よくも言えたものだ。2013年度防衛計画大綱や中期防をあげているが、17機の陸自オスプレイ部隊は相浦駐屯地等(長崎県)の水陸機動団を琉球諸島等に運び「島嶼奪還作戦」を遂行するための輸送部隊だ。
「島嶼防衛のイメージ」図が示されているが、そこに住民は描かれていない。無人島のイメージを描きながら、対地攻撃戦闘機、攻撃ヘリ、オスプレイによる上陸作戦、輸送ヘリによる上陸作戦、水陸両用装甲車による上陸作戦等が行われる。こうなれば完璧な戦争だ。ところでここは、無人島の尖閣諸島ではない。尖閣諸島に軍事力をしかけるほど中国はアホではない。どちらが先に手をだすのかわからないが、レーダー基地の与那国島、対艦ミサイル・対空ミサイルを装備した石垣島(2023年配備予定)、同じく宮古島を軸に戦争に発展してしまった暁には、多くの住民は避難する場所も方法も時間もないまま、戦渦に巻き込まれていく。沖縄戦の二の舞が繰り返されるのだ。
(2)佐賀空港に何が来るのか?
テイルトローター機(オスプレイ)は、飛行場のない島にも離着陸可能という。その通りだが、オスプレイ導入は災害対処のためではない。戦争のために水陸機動団などの軍隊を運ぶのが主目的だ。ここをごまかす「説得」は、ペテンと言うほかない。
さらに佐賀空港にやってくるのは目達原(めだばるー佐賀県)駐屯地のヘリコプター部隊約50機すべてがやってくる。偵察ヘリを「観測ヘリ」と称し、対地(ロケット弾)攻撃ヘリや、多用途ヘリがやってくる。すべて戦争のためのへリだ。これらは朝鮮半島をターゲットした戦争に備えてきたのだろうが、「島嶼防衛」と称した対中戦争のためとの二刀流になるだろう。
同文書には全く触れられてないが、ヘリ部隊のいなくなった目達原駐屯地はどうなるのか。自衛隊はなくなるのだろうか。否であろう。ここに残るのは九州補給処だ。軍事物資の補給処。格納庫を貯蔵庫に改造するのは簡単だ。もしも本気で戦争となれば、食料、武器弾薬ほかの備蓄はますます重要になる。佐賀空港まで20kmであり、大変便利な場所である。この問題も含めて考えて戴きたい。
(3)佐賀空港がなぜ狙われたのか
佐賀空港になぜ配備するのか。相浦駐屯地に近く島嶼部への展開に便利だと。陸海空統合作戦に便利だとも言う。要するに戦争目的に使いやすく便利なのだ。そして何よりも重要なことは、オスプレイ等の飛行に2000mもの滑走路は全く不要だが(オスプレイはヘリモードでなければ離発着不可)、なぜここなのか? ズバリ述べておく。滑走路があれば、大型機で人員、戦闘物資を集積し、搬出入しやすいからだ。目達原(補給処)駐屯地との協働利用が考えられる。
(4)建造施設について
施設整備の中で 弾薬庫の説明がないが、どの規模を考えているのだろうか。例えば相浦等に行けば、そちらに弾薬はそろっている。ここに置く必要があるのか。あるとすれば、補給用ということになる。ヘリやオスプレイの乗務員が携帯する小銃、ピストルだけではなく、他の用途も考えられているのだろう。
施設・排水処理設備で、問題になることに、消火剤がある。航空機の消火活動には、化学薬剤が使われる。強烈な合成洗剤のようなものだ。泡で空気を遮断する。沖縄では発がん物質であるピーフォスなどの使用、海への排出事故が起きており問題になっている。油水分離槽の設置は一般の自動車給油所などの常設設備だ。海上を飛ぶ航空機、ヘリの帰還時の洗浄は不可欠だ。また、火災時の消火活動は、当然あり得る。この際、肝心なことは脂分、消火剤等を100パーセント基地内部で処理できる貯水槽が必要だ。沖縄の普天間基地にはこれがないから、度々とんでもない排出事故を起こしているのだ。こうした設備が不備ならば、汚染水は有明海に流れ出してしまう。
(5)空港利用の態様、飛行経路、訓練及び飛行ルートについて
如何なる飛行、訓練を行うのか、何も書いていないに等しい。これでは何もわからない。
へリ、オスプレイは飛び上がるまで、着陸してから、それぞれ10分前後エンジン・ローターを回している(飛行の安全上)。また、1機で飛ぶことはほとんどない。2機、あるいは、3機、4機で飛ぶ。当然騒音は大きくなる。また米軍との共同演習も当然予想される。この際、要注意なのは、飛行高度の問題だ。米軍機は航空特例法が適用されており、高度150m以上でよいことになっている(実際はもっと低いこともある)。自衛隊機は300mだ。これらが共同演習すると、縦2層に飛ぶのか? 米軍機にひっぱられる可能性(低く飛ぶ)が高い。防衛省は如何に説明しているのだろうか。国内法を遵守しろ。
訓練ルートの説明もない。佐世保・相浦(長崎県)や大村空港(長崎県)、高良台演習場(福岡県久留米市)、大野原演習場(佐賀県嬉野市・長崎県東彼杵町)、大矢野原演習場(熊本県山都町)、十文字原演習場(大分県別府市等)、日出生台演習場(大分県由布市等)などに行き、演習を行うのだろう。これらの周辺各地でのへリモードでの飛行は常態となるだろう。
(6)オスプレイの安全性について
日米合同委員会の合意が示されているが、常に米軍言いなりの日本・防衛省であり、信用できない。特に2016年12月13夜間の名護市安部、ギミ﨑への墜落を「不時着水」としていることに象徴されている。不時着とは飛行計画外の場所に難あって着陸することだ。操縦不能になって落ちれば、「墜落」という。別途現場写真をご覧戴きたい。そもそもヘリが海に着陸することは全く想定されていない。海に着陸できる構造に出来ていない。なお、オスプレイは機体を軽量化するために、特殊繊維を使用している。これがばらばらにはじけ飛び、微粒子となり、辺り一面に流出した。素手で触ると、それがとげのように刺さる危険なものだった。もしも有明海に墜落したら、のり養殖等の作業に重大な支障をきたす。またのりに付着したら出荷できなくなる。安部に落ちたときは、米軍も沖縄防衛局も除去作業を行っていない。
2016年12月13日夜ギミ咲きに墜落したオスプレイ。胴体前部と主翼の片側。12月14日朝撮影。
やや離れて。右側はエンジンとローター各一個(双発機)。赤と黄色の浮き袋は緊急時用の避難器具。これが「不時着水」なのか?! 16年12月14日撮影
尾翼と主翼反対側。墜落の凄まじさがわかるだろう。2016年12月14日撮影 以上の撮影は船の上から。もしも米軍機が墜落したら、米軍の処理が終わるまで、米軍に占拠されてしまう。私有地でも公有地でも。これを日本政府は認めているのだ。
そしてオスプレイには、オートローテーション機能がないのだ。もしもエンジンが止まってしまえば、そのまま落ちるのだ。一般のヘリは、エンジンが止まっても、ローターが自動回転し、軟着陸できる構造になっているが、止まったらアウトのオスプレイだ。
(7)終わりに
1990年代の先輩たちは、かしこかったのだ。佐賀空港の新設を巡って、自衛隊等の軍隊の使用を規制した先見の明は素晴らしい。あれから30年あまりがたつなかで、日本国が再び戦争に頭を体を向けている今現在、そうなったら、どうなってしまうのか、よくよく考えて戴きたい。一時のお金では得られない、土地と海を宝に、命を育める地域を作り続けて戴きたい。
これは沖縄の私からのお願いです。