【火の鳥展】の続きです
(※思い入れが強く長文になっています)
第二部 手塚流輪廻(りんね)の世界 ↓
1967年1月『CОM』の紙面に新たな連載として
【火の鳥】が始まり、
(その後、出版社が変わったりしますが)
12遍の作品が描かれました。
最終的に完結することはありませんでしたが
過去と未来、宇宙や地下など
様々な舞台で描かれた作品はどれも素晴らしいものです。
ここでの展示では
“ 手塚流輪廻 ”を追体験するべく時系列順に
各編が紹介してありました。
こちらが“ 手塚流輪廻の世界 ”の図です ↓
会場内には
各編の紹介と原稿の一部が展示されていました。
(生命編と望郷編の原稿は私の写真の撮り方が悪く、掲載なし)
1.黎明編 ↓
黎明編の原稿です ↓
黎明編は初期の『火の鳥』(漫画少年にて掲載)の
子ども向けストーリーから
大人向けの漫画へと大きく変化します。
可愛く描かれていた火の鳥も神秘的な姿へと
様変わりし
猿田彦(火の鳥の作品で重要なキャラクター)が登場する
ことで、後に“火の鳥の輪廻の世界”が広がっていきます。
2.ヤマト編 ↓
ヤマト編の原稿です ↓
「ヤマト編」は4世紀ごろの日本が舞台になっています。
面白いのは、ここに登場する九州の豪族であるクマソというのが
「黎明編」で地の底から自力で脱出した青年、タケルの子孫たちだ、と
いうことです。
「黎明編」からの続きの話として描かれていることと併せて
魅力的なのが、
奈良の石舞台古墳の謎と絡ませてストーリーが展開されて
いくことです。(もちろん史実とは異なりますが)
3.鳳凰編 ↓
鳳凰編の原稿です ↓
連載の順番では5番目になる「鳳凰編」ですが
時系列順でいくと3番目になります。
8世紀ごろの日本、奈良時代を舞台に
東大寺大仏殿の鬼瓦製作を絡めた作品です。
(もちろん、史実とは異なります)
この「鳳凰編」は輪廻転生について、主人公である我王(がおう)を
通して語られており、
非常に完成度が高い作品であり傑作です。
私も【火の鳥】シリーズで一番好きな作品です。
4.羽衣編 ↓
羽衣編の原画です ↓
「羽衣編」は日本に古くから伝わる「羽衣伝説」を
元にした作品です。
連載の順番としては7番目に描かれた作品ですが
珍しい1話読み切りの短編です。
手塚先生自身はこの作品とは別に、新たな構想で
「羽衣編」を描き直したい、という思いを持っていたそうです。
確かに、この「羽衣編」
本当はもっと違うことを表現したかったのでは…と
思えてなりません。
時系列としては「乱世編」より70~80年ほど前だと想定
(手塚先生の話によると)されています。
5.乱世編 ↓
乱世編の原稿です ↓
12世紀末、日本の平安京の頃の京都を舞台に
平家と源氏の戦いなどを絡めたストーリーになっています。
壇ノ浦の戦いなども出てきて、
史実とは異なるのですが興味深い話です。
平清盛が不老不死を求めた…なんていうのも
どこまで真実でどこから作り話なのかが分からないほど
真に迫っています。
義経伝説に触れていたりするのも面白いし、何と言っても
「鳳凰編」のラストで我王(がおう)が山奥へ去った後の
ストーリーが繋がっていて、ファンにはたまらない作品です!
6.異形編 ↓
異形編の原稿です ↓
連載順序としては11番目の「異形編」
舞台となるのは15世紀の日本、蓬莱寺というお寺。
八百比丘尼と呼ばれるどんな病でも治す、という尼(あま)を
中心に展開されます。
この「異形編」は輪廻転生どころの話ではなく、
命を軽んじた為に
永遠に死ぬことのできない運命を背負う、という
凄まじいストーリーなのです。
しかも、
この「異形編」は「太陽編」ともリンクしていて、
傷ついた妖怪たちが八百比丘尼のもとに
集まってくる…という理由が「太陽遍」で明らかになります。
7.太陽編 ↓
太陽編の原稿です ↓
連載順でいくと12番目、最後の作品となったのが
「太陽編」です。
火の鳥シリーズの中でも一番長い作品で
7世紀の日本と21世紀の未来が描かれています。
ここで大きく取り上げられているのが“ 宗教 ”に
ついてです。
「異形編」で出てくる妖怪たちの謎も
この「太陽編」で明らかになります。
【火の鳥】はこの「太陽編」をもって最後となってしまうのですが
もちろん
手塚先生の中ではまだ先の構想があり、
物語は続いていくはずだったのです…。
8.生命編 ↓
連載順では10番目にあたるのが「生命編」です。
ここでは新たにクローン技術によりクローン人間が
生まれる、というストーリーで
人間とは何か、生命とは何か、
手塚先生自身が訴えたい思いというものが
この作品を通して伝わってきます。
【火の鳥】の作品は過去の歴史を交えて展開される
だけでなく、
科学技術や世の中の風潮なども織り交ぜながら
創られており
膨大なテーマを持つ作品なのだ、ということを
改めて思い知らされるのです。
9.望郷編 ↓
連載順では8番目に描かれた作品で
シリーズの中で最も描き直しや変更の多い作品でもあります。
ロミという1人の女性が辿った数奇な人生を
火の鳥が読者に教える…という形で始まります。
この作品は、「未来編」に登場するムーピーや
「宇宙編」に登場する宇宙船パイロットの牧村など
リンクする登場人物も多く
火の鳥ファンにとってはこの繋がりも興味深いものなのです。
10.復活編 ↓
復活編の原画です ↓
連載順では6番目の「復活編」
この作品は、2483年が舞台となっています。
空を飛ぶ車エア・カーに乗っていたレオナが交通事故で
事故死をするのですが
脳の半分を人口脳にして、死んだレオナを
生き返らせる手術がなされるのです。
その後遺症から、ロボットが人間のように見え
人間が醜い物体にしか見えなくなってしまうレオナ。
事務用ロボットのチヒロ61298号と出会い、
その後
レオナの心とチヒロの心を合わせたロボットが造られるのですが
それが、ロビタなのです。
輪廻転生の世界にロボットまで登場してくるという…
もう、手塚先生のスケールの大きさに脱帽です。
11.宇宙編 ↓
宇宙編の原稿です ↓
連載順では4番目に描かれた作品で
舞台は西暦2577年、宇宙船の中からストーリーは始まります。
「望郷編」で登場する宇宙船パイロット牧村が
「ぼくは殺される」という手書きを残して
ミイラになって発見される、という
衝撃的な事件から話は展開していきます。
この「宇宙編」を読んでトラウマになった…という読者が多いそうで、
凄まじい作品です。
結論から言えば、誰一人として報われない物語なのです。
因果応報という言葉が強烈に響く作品です。
12.未来編 ↓
未来編の原稿です ↓
いよいよ“手塚流輪廻の世界”のラスト、
「未来編」です。掲載順では2番目の作品で、
読者の中でも人気が高い作品なのだそうです。
西暦3404年の地球。
地球は死に向かっており、人類は地下に国家都市を築き
巨大コンピューターに自らの支配をゆだねる…
ここで登場するのが
「望郷編」で登場するムーピーです。
ムーピーを隠していた、として追われる
山之辺マサトとムーピーが変身した姿のタマミ。
二人は追手から逃げている途中に遭難し、
火の鳥に導かれて猿田博士のドームへと
たどり着きます。
猿田博士はドームの中で、絶滅した生物を甦らせるため
人口生命装置を開発し実験に取り組んでいるのですが
完成させることが出来ず、
山之辺マサトがその実験を引き継いでいくのです…
猿田という人物が輪廻の輪を象徴していることに
注目するのはもちろん、
人類の終末が手塚先生の中で予想されている、ということにも
驚かされる作品なのです。
以上、
“手塚流輪廻の世界”で12編の作品を見てきましたが、
もう、凄いですよね…
発想の素晴らしさだけでなく、
作品をリンクさせていくところや
展開が凄すぎるのです…
圧倒的な世界観です。
で、
やっぱり気になるのが
【火の鳥】のラストはどうなるはずだったのか…。
手塚先生の死によって永遠にラストを知ることは
出来なくなってしまったのですが
生前、書き残されていた原稿によって
少しだけ構想が分かるそうです。
その原稿(複製)が今回、展示されていました!↓
1988年に書かれた「大地編」のシノプスです
(シノプスとは文章や物語などの全体像を短く、要点を押さえて説明したもの)
序章から始まります。
タクラマカン砂漠の果てしない荒野を
さまよう猿田博士が出てくる、という設定です。
舞台は、
昭和13年(1938)1月
日中戦争の勝利に沸く上海
西安路にある超一流クラブ
猿田博士が、
タクラマカン砂漠の中に
“さまよえる湖”があり、
そこに火の鳥と呼ばれる伝説の鳥が実在し、
その鳥の血液には驚くほど未知のホルモンが
含有されているのだ、と
調査で判断したことを打ち明ける…
ここから話が展開されていくはずだったのですが
こちらも絶筆となってしまいました。
この原稿が
「太陽編」に続くエピソードの構成だったのでは、
と言われています。
この物語の続きは手塚先生にしか分かりません。
圧倒的な作品は、未完のままとなってしまいました。
これは手塚先生が一番辛く、心残りな事だったのだろう…と。
確かに作品としては未完ですが、
【火の鳥】の凄さは今後も失われることはない!と
私は思います。
手塚先生、凄い作品の数々をありがとうございました。
そして改めて、お疲れ様でした…