
0.5%の世界到来 家計は?企業は? NHK 2025年1月30日 18時21分
実に17年ぶりです。1月24日、日銀が追加の利上げに踏み切り、日本経済は2008年10月以来となる「(金利)0.5%」の世界へと突入しました。
17年前の経済はどんな状態だったのか、金利はどれくらいだったのか。
当時を振り返りながら暮らしや経済への影響を考えます。
(経済部記者 峯田知幸)
17年ぶりの0.5%
「ついにきたか…」
仕事上、金利とつきあいのある人、もしくは日頃金利の動向が気になっている人はどう受け止めたでしょうか。
日銀は24日の金融政策決定会合で追加の利上げを決定、政策金利をそれまでの0.25%程度から0.5%程度に引き上げました。
引き上げ幅はわずか0.25%です。
小幅にみえますが、日本では長きにわたって政策金利=0%程度、ときにはマイナスだった時期すらあったことを考えると0.5%というのは高い壁のようにも見えます。
2008年10月、前の月に起きた世界的な金融危機=リーマンショックを受けて日銀が利下げを行うまで、日本の政策金利が0.5%だった期間があります。
しかし、その期間はわずか1年8か月(2007年2月~2008年10月)。
0.5%超となれば、公定歩合が政策目標だった1995年までさかのぼります。
つまり0.5%という金利環境で何が起きるのかは、当時の経験則からある程度予想はできるものの、経済情勢や産業構造、個人や企業の経済行動も変わっていて、実際は「始まってみないとわからない」というのが正直なところでしょうか。
振り返る0.5%の世界
とはいえ、当時の金利環境を振り返ると相場観はつかめるかもしれません。
前回の0.5%の経済はどのような状態だったのでしょうか。
2007年2月に日銀は0.25%前後から0.5%前後に政策金利を引き上げましたが、その3か月前、政府は「景気回復が戦後最長の『いざなぎ景気』を超えた」という判断を示しました。
0.5%前後への利上げを発表した 日銀 福井総裁(2007年2月)
今から振り返れば失われた30年のまっただ中、実感なき景気回復と言われはじめましたが、この年の企業の中間決算は4年連続で過去最高を更新。
2002年から2008年にかけて景気回復局面は73か月続きました。
2007年は地価調査では商業地が16年ぶりに全国平均で上昇に転じ、10年ものの国債利回りは1.9%台まで上昇していました。
一方、2008年には原油価格が1バレル=100ドルを突破。
またサブプライムローンショックでマネー市場の過熱感が顕在化し、リーマンショックにつながっていきます。
2007年7月に起きた新潟県中越沖地震ではサプライチェーンの集中リスクも明らかになりました。
1.お金を借りるとき
このときの国内銀行の貸出金利(総合、ストック)を見てみます。
日銀がまとめた個人や企業に対して国内銀行が資金を貸し出す際の平均金利の推移です。日銀貸出平均約定金利 07~08と23~24をミックス
日銀が0.5%前後に政策金利を引き上げた2007年2月は1.798%。
翌月には1.8%台、同じ年の7月には1.9%台に上昇、その後、日銀がリーマンショックを受けて利下げに転じる2008年10月まで1.9%台が続いています(グラフ青)。
現在、同じ統計はどうでしょう。
先週、日銀が追加利上げをした直前までの分しか公表されていませんが、2024年10月が0.885%、11月が0.892%です。
かつての0.5%の時代と比べるとまだまだ低い水準(1%ほど低い)にとどまっています。
長きにわたって大規模金融緩和が続いたことによって金利が極めて低い状態に抑えられていた影響とみられますが、今回の利上げによって上昇傾向がより鮮明になってくる可能性はあります(グラフ赤)。
実際、先週日銀が追加の利上げを決定したのをきっかけに大手銀行は相次いで変動型住宅ローン金利の基準にもなる「短期プライムレート」を引き上げることを決定、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行はいずれも3月から1.625%だったのを1.875%に改定すると発表しました。
この先、さまざまな金利の見直しが行われることが予想されます。
07年~08年時と比べてまだ差があるとはいえ、かつての「0.5%の世界」のような金利水準となっていくのかどうか、消費や投資の行方を左右する重要なポイントとなります。
2.お金を預けるとき
では、普通預金金利はどうでしょうか。
日銀がまとめている前回の0.5%の時代(2007年2月~2008年10月)の普通預金金利は2007年3月から0.196%、2007年10月から2008年10月まで0.198%が続きます。
一方、今回、日銀が利上げに踏み切ったあと、大手銀行(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)は普通預金金利を0.1%から0.2%に引き上げる(3月~)と発表しました。
普通預金の金利水準をみてみると、貸出金利と異なり、前回の0.5%の時代とほぼ同じ水準となることがわかります。
ただ、当時と比べてネット銀行やインターネットバンキングのサービスが普及していて、ネット銀行の中には預金を獲得しようと条件付きながら0.5%という高い金利水準をうたうところも出ています。
金利ある世界に突入したことで金融機関の間では預金獲得競争が一段と激しくなっていて、もしかしたら前回の0.5%の時代よりも預金金利を引き上げようという動きが増えるかもしれません。
トータルではどうなるか
借り入れの利払い負担が増える一方、預金で得られる利息は増える。
気になるのはトータルではどうなるか…です。
大和総研の分析によると、、、、
▽家計の場合…純利息収入0.2兆円程度↑
『利息収入>利払い負担』で家計全体では純利息収入が0.2兆円程度増えるとみています。
ただし特に30代、40代の世帯では住宅を購入する世帯が比較的多く、ローンを組んでいるケースが多いことから『利息収入<利払い負担』の関係にあるということです。
一方、60代以上の高齢世帯は年金受給者が多く含まれていることや住宅ローンの返済を終えている世帯が多いことからほかの世代と比べて預貯金が多く、金利上昇の恩恵を受けやすいと指摘しています。
▽企業の場合…純利息収入0.7兆円程度↓
『利息収入<利払い負担』で企業全体では純利息収入が0.7兆円程度減少するとみています。
企業の多くは資産よりも有利子負債を抱えているため、利払い負担がどうしても大きくなりそうです。
企業規模別にみてみますと、大企業の純利息収入の減少幅は経常利益対比でー0.6%、一方で中小企業の場合はー1.0%で、中小企業の方が利払い負担が増えることのインパクトが大きくなりそうです。
人手をなんとか確保しようと(つなぎとめようと)賃上げを行っている中小企業もあり、人件費に加えて利払い費も増えてくると決して楽ではありません。
「0.5%の世界」が進んだ場合、家計の場合は住宅ローンを抱える世帯が多い30代、40代、企業の場合は中小企業で負担感がより強まりそうです。
こうした負担感を打ち消しながら消費、投資の回復が続くには、やはり『賃上げの継続』と『適正な価格転嫁』が不可欠になりそうです。
ほかの国の政策金利は?
たかが0.5%、されど0.5%。
日銀が引き上げた幅はわずかですが、さまざまな金利や利率、利回りに影響するだけに、経済へのインパクトは大きくなります。
ちなみにほかの主な中央銀行をみてみると、日本の政策金利が極めて低いことがわかります。
▽FRB(米連邦準備制度理事会)…4.25%~4.5%
▽ECB(ヨーロッパ中央銀行)…3%(最も重視する政策金利)
▽BOE(イングランド銀行)…4.75%
▽カナダ銀行…3.25%
▽オーストラリア準備銀行…4.35%
名目金利から物価上昇率を差し引いた「実質金利」となると、ほかの国はプラスですが、日本の場合はまだまだマイナス圏にある(消費者物価指数は直近で+3% ※生鮮食品除く)とされていて、経済情勢次第ですが日銀はこの先もさらなる利上げを検討していくとみられます。
普通預金以外にも国債の利率が過去最高になったり(3年固定)、大手生命保険が40年ぶりに平準払いの年金保険の利回りを引き上げたりする動きがすでに出ていて、お金を運用する上では今後も追い風が吹く可能性はあります。
ただ、お金を借りる場合は先の試算にあるように利払い負担が重くのしかかります。
帝国データバンクの試算では政策金利が0.5%に引き上げられ、借入金利が0.25%(日銀の引き上げと同じ)上乗せされると、利払い負担の増加は1社あたり平均68万円、経常利益が赤字に転落する企業は1.8%(調査対象=借入金利と支払い利息が判明しているおよそ9万6000社)ということです。
一方、大手企業では内部留保が年々増えているため、借り入れから生じる利払い負担よりも純金利収入の方が大きくなるといった分析もあります。
本格的な金利ある世界の到来。
金利の動向は暮らしや企業活動、そして金融市場までその影響は広範囲に及びます。
英語だと「interest」 これからはその存在に目を向け、文字どおり関心をもって動向や影響を見ていく必要がありそうです。
(1月24日「ニュース7」などで放送)
実に17年ぶりです。1月24日、日銀が追加の利上げに踏み切り、日本経済は2008年10月以来となる「(金利)0.5%」の世界へと突入しました。
17年前の経済はどんな状態だったのか、金利はどれくらいだったのか。
当時を振り返りながら暮らしや経済への影響を考えます。
(経済部記者 峯田知幸)
17年ぶりの0.5%
「ついにきたか…」
仕事上、金利とつきあいのある人、もしくは日頃金利の動向が気になっている人はどう受け止めたでしょうか。
日銀は24日の金融政策決定会合で追加の利上げを決定、政策金利をそれまでの0.25%程度から0.5%程度に引き上げました。
引き上げ幅はわずか0.25%です。
小幅にみえますが、日本では長きにわたって政策金利=0%程度、ときにはマイナスだった時期すらあったことを考えると0.5%というのは高い壁のようにも見えます。
2008年10月、前の月に起きた世界的な金融危機=リーマンショックを受けて日銀が利下げを行うまで、日本の政策金利が0.5%だった期間があります。
しかし、その期間はわずか1年8か月(2007年2月~2008年10月)。
0.5%超となれば、公定歩合が政策目標だった1995年までさかのぼります。
つまり0.5%という金利環境で何が起きるのかは、当時の経験則からある程度予想はできるものの、経済情勢や産業構造、個人や企業の経済行動も変わっていて、実際は「始まってみないとわからない」というのが正直なところでしょうか。
振り返る0.5%の世界
とはいえ、当時の金利環境を振り返ると相場観はつかめるかもしれません。
前回の0.5%の経済はどのような状態だったのでしょうか。
2007年2月に日銀は0.25%前後から0.5%前後に政策金利を引き上げましたが、その3か月前、政府は「景気回復が戦後最長の『いざなぎ景気』を超えた」という判断を示しました。
0.5%前後への利上げを発表した 日銀 福井総裁(2007年2月)
今から振り返れば失われた30年のまっただ中、実感なき景気回復と言われはじめましたが、この年の企業の中間決算は4年連続で過去最高を更新。
2002年から2008年にかけて景気回復局面は73か月続きました。
2007年は地価調査では商業地が16年ぶりに全国平均で上昇に転じ、10年ものの国債利回りは1.9%台まで上昇していました。
一方、2008年には原油価格が1バレル=100ドルを突破。
またサブプライムローンショックでマネー市場の過熱感が顕在化し、リーマンショックにつながっていきます。
2007年7月に起きた新潟県中越沖地震ではサプライチェーンの集中リスクも明らかになりました。
1.お金を借りるとき
このときの国内銀行の貸出金利(総合、ストック)を見てみます。
日銀がまとめた個人や企業に対して国内銀行が資金を貸し出す際の平均金利の推移です。日銀貸出平均約定金利 07~08と23~24をミックス
日銀が0.5%前後に政策金利を引き上げた2007年2月は1.798%。
翌月には1.8%台、同じ年の7月には1.9%台に上昇、その後、日銀がリーマンショックを受けて利下げに転じる2008年10月まで1.9%台が続いています(グラフ青)。
現在、同じ統計はどうでしょう。
先週、日銀が追加利上げをした直前までの分しか公表されていませんが、2024年10月が0.885%、11月が0.892%です。
かつての0.5%の時代と比べるとまだまだ低い水準(1%ほど低い)にとどまっています。
長きにわたって大規模金融緩和が続いたことによって金利が極めて低い状態に抑えられていた影響とみられますが、今回の利上げによって上昇傾向がより鮮明になってくる可能性はあります(グラフ赤)。
実際、先週日銀が追加の利上げを決定したのをきっかけに大手銀行は相次いで変動型住宅ローン金利の基準にもなる「短期プライムレート」を引き上げることを決定、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行はいずれも3月から1.625%だったのを1.875%に改定すると発表しました。
この先、さまざまな金利の見直しが行われることが予想されます。
07年~08年時と比べてまだ差があるとはいえ、かつての「0.5%の世界」のような金利水準となっていくのかどうか、消費や投資の行方を左右する重要なポイントとなります。
2.お金を預けるとき
では、普通預金金利はどうでしょうか。
日銀がまとめている前回の0.5%の時代(2007年2月~2008年10月)の普通預金金利は2007年3月から0.196%、2007年10月から2008年10月まで0.198%が続きます。
一方、今回、日銀が利上げに踏み切ったあと、大手銀行(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)は普通預金金利を0.1%から0.2%に引き上げる(3月~)と発表しました。
普通預金の金利水準をみてみると、貸出金利と異なり、前回の0.5%の時代とほぼ同じ水準となることがわかります。
ただ、当時と比べてネット銀行やインターネットバンキングのサービスが普及していて、ネット銀行の中には預金を獲得しようと条件付きながら0.5%という高い金利水準をうたうところも出ています。
金利ある世界に突入したことで金融機関の間では預金獲得競争が一段と激しくなっていて、もしかしたら前回の0.5%の時代よりも預金金利を引き上げようという動きが増えるかもしれません。
トータルではどうなるか
借り入れの利払い負担が増える一方、預金で得られる利息は増える。
気になるのはトータルではどうなるか…です。
大和総研の分析によると、、、、
▽家計の場合…純利息収入0.2兆円程度↑
『利息収入>利払い負担』で家計全体では純利息収入が0.2兆円程度増えるとみています。
ただし特に30代、40代の世帯では住宅を購入する世帯が比較的多く、ローンを組んでいるケースが多いことから『利息収入<利払い負担』の関係にあるということです。
一方、60代以上の高齢世帯は年金受給者が多く含まれていることや住宅ローンの返済を終えている世帯が多いことからほかの世代と比べて預貯金が多く、金利上昇の恩恵を受けやすいと指摘しています。
▽企業の場合…純利息収入0.7兆円程度↓
『利息収入<利払い負担』で企業全体では純利息収入が0.7兆円程度減少するとみています。
企業の多くは資産よりも有利子負債を抱えているため、利払い負担がどうしても大きくなりそうです。
企業規模別にみてみますと、大企業の純利息収入の減少幅は経常利益対比でー0.6%、一方で中小企業の場合はー1.0%で、中小企業の方が利払い負担が増えることのインパクトが大きくなりそうです。
人手をなんとか確保しようと(つなぎとめようと)賃上げを行っている中小企業もあり、人件費に加えて利払い費も増えてくると決して楽ではありません。
「0.5%の世界」が進んだ場合、家計の場合は住宅ローンを抱える世帯が多い30代、40代、企業の場合は中小企業で負担感がより強まりそうです。
こうした負担感を打ち消しながら消費、投資の回復が続くには、やはり『賃上げの継続』と『適正な価格転嫁』が不可欠になりそうです。
ほかの国の政策金利は?
たかが0.5%、されど0.5%。
日銀が引き上げた幅はわずかですが、さまざまな金利や利率、利回りに影響するだけに、経済へのインパクトは大きくなります。
ちなみにほかの主な中央銀行をみてみると、日本の政策金利が極めて低いことがわかります。
▽FRB(米連邦準備制度理事会)…4.25%~4.5%
▽ECB(ヨーロッパ中央銀行)…3%(最も重視する政策金利)
▽BOE(イングランド銀行)…4.75%
▽カナダ銀行…3.25%
▽オーストラリア準備銀行…4.35%
名目金利から物価上昇率を差し引いた「実質金利」となると、ほかの国はプラスですが、日本の場合はまだまだマイナス圏にある(消費者物価指数は直近で+3% ※生鮮食品除く)とされていて、経済情勢次第ですが日銀はこの先もさらなる利上げを検討していくとみられます。
普通預金以外にも国債の利率が過去最高になったり(3年固定)、大手生命保険が40年ぶりに平準払いの年金保険の利回りを引き上げたりする動きがすでに出ていて、お金を運用する上では今後も追い風が吹く可能性はあります。
ただ、お金を借りる場合は先の試算にあるように利払い負担が重くのしかかります。
帝国データバンクの試算では政策金利が0.5%に引き上げられ、借入金利が0.25%(日銀の引き上げと同じ)上乗せされると、利払い負担の増加は1社あたり平均68万円、経常利益が赤字に転落する企業は1.8%(調査対象=借入金利と支払い利息が判明しているおよそ9万6000社)ということです。
一方、大手企業では内部留保が年々増えているため、借り入れから生じる利払い負担よりも純金利収入の方が大きくなるといった分析もあります。
本格的な金利ある世界の到来。
金利の動向は暮らしや企業活動、そして金融市場までその影響は広範囲に及びます。
英語だと「interest」 これからはその存在に目を向け、文字どおり関心をもって動向や影響を見ていく必要がありそうです。
(1月24日「ニュース7」などで放送)