世知辛い騎手事情のよもやま話=
「アイツでは勝てない」「消極的な騎乗が」…競馬界の過酷すぎる“勝利至上主義”が悲劇を招く!いま落馬事故が続く「衝撃の理由」
◆“いま勝っている”騎手に乗ってほしい
最近は特に、騎手の勝利数ばかり重視されるようになり、馬との相性など他の要素が考慮されにくくなっているという。
「今はリーディング(※騎手の勝利数のこと)が最も重視されています。騎手のエージェント間では、2~3週前の時点で『この騎手は〇日に京都、×日は福島にいる』というリストが出回るようになっており、どこの競馬場にどの騎手がいるかが事前にわかっている。
重賞レースともなれば、馬主も“いま勝っている騎手”に乗ってほしいわけです。そのため、馬主がそのリストを見て『この騎手が当日空いているなら』と、単純にリーディングの上から順番に選んで依頼することが増えているのです」
たとえ新馬戦や未勝利戦からともに勝ち進んできた馬だとしても、騎手自身がリーディング上位にいなければ、大レースでは簡単にお役御免となってしまうのだ。
「落馬事故は色々な要因が絡んでいるものではありますが、吉田隼人騎手は例年に比べてリーディングが落ちており、少し調子が悪かった。焦る気持ちがどこかにあったのかもしれません」
◆騎手を守れる人間がいなくなった
以前に比べて、騎手や調教師、馬主の関係性はビジネスライクなものになったという。
「勝負事だから当然ではあるものの、最近は馬主側も余裕がなく『何が何でも勝ちたい』という気持ちが強すぎると感じます。かつてはあった若手ジョッキーを育てようという気概もなくなり、騎手の乗り替わりも激しく、露骨になりました。何か少しでも気に入らないことがあれば、簡単にクビにしてしまう」
以前は、調教師と騎手の間には師弟関係があることが普通だった。たとえば、テイエムオペラオーに騎乗していた若手時代の和田竜二のように、調教師がミスをした騎手を庇うこともできたが……。
「15年ほど前からエージェント制度が主流になり、そういった師弟関係を保つのが難しくなりました。大手馬主の場合には、調教師側が言う事を聞かないようなら厩舎から管理馬を引き上げることもできてしまいますし、今は調教師も強く物を言える立場ではありません。騎手を守れる人間が誰もいなくなりましたね」
さらに、世界トップクラスの外国人ジョッキーの相次ぐ来日も、多くの中堅騎手の焦りに輪をかけていると指摘する。
◆“勝ちに行く騎乗”のウラで
「コロナ禍が一段落し、経験豊富な外国人騎手に頼む馬主が多くなりました。仕方ないこととはいえ、それでもっとも割を食うのは30~40代の中堅です。実際に、そのあたりの騎手で乗鞍が一気に減った者は引退に追い込まれてしまいました」
厳しい勝負の世界とはいえ、騎手たちも人間である。トップスピード70km近くで駆ける競走馬に生身で騎乗し、レースに挑んでいる。“勝ちに行く騎乗”はもちろん称賛されるものではあるが、過剰に求めすぎないよう周囲も心掛けたいものだ。