お借りした)
※水を差すわけじゃないが、今年のダービーのペースと展開は明らかに「ちょっと違う」レースだった
そういう異質なレースの結果(走った馬走れなかった馬)の今後に関して小生的には”まだ”見通せませんというのが本音かな
★ただ典さんの円熟の達人騎乗は語り継がれるレベルの見事なものでした
【日本ダービー2024】重賞レースおさらい帳
苦渋の決断は大いなる英断に! 馬優先の鞍上と陣営がダノンデサイルと共にダービー制覇
大レースにおいて番狂わせが起こると、テレビで観戦していても場内の”何とも言えない感じ”の雰囲気が伝わってくる。困惑や後悔の中に、それとは真逆の大歓喜もぱらぱらと。
今年の日本ダービーも、結果は番狂わせの部類。
何しろ、勝ったのは9番人気のダノンデサイルだ。単勝オッズは46倍と、伏兵の中でもオッズは大きめ。人気馬と、いわゆる穴人気を集める馬たちに隠れ、絶妙に見えにくい存在であった。
その馬が文句の付けようのない快勝を収めたのだから、前述のような雰囲気が場内には漂っているのだろうなと思っていたが、中継を見ているとどうも様子が違う。まるで人気馬が勝った時のような歓声や、勝者を称える拍手、”良いものを見た”という感じの笑顔があちこちに溢れていた。
そうか、ダービーだもんな、とそこで思う。
一年で最も競馬が盛り上がる日。予想する上でも、ダービーだけは当てたいという方が多いはずだ。となれば、当然出走馬のことはしっかりと調べる。
だから皆知っている。ダノンデサイルと陣営が、皐月賞でどんな決断をしたのかを。
目の前に広がっている歓喜の光景が、その決断の賜物であることを。
ペースの鍵を握ると思われたメイショウタバルの出走取消によって、展開が全く読めない中でレースは始まった。
真っ先に前を目指したのは武豊・シュガークン、岩田康誠・エコロヴァルツ、横山典弘・ダノンデサイルの3頭。実績も経験も十分なベテランたちが主張していったことで、先行争いはすぐに落ち着き、エコロヴァルツが引っ張る団子状態の馬群が形成された。
1000m通過は62秒2というスローペース。抜けた1番人気に推されていたジャスティンミラノも、しっかりと好位の外を確保し、直線の攻防に向けてなだめ気味に運ぶ。
一気にレースが動いたのは残り1000m地点。
後方から真っ先に動いてマクり上げたコスモキュランダのさらに後ろから、サンライズアースが勢いを付けて上がって行き、先頭近くまで押し上げて行く。序盤のスローとは真逆の、超高速ロングスパート勝負がここから始まった。
レース後にタイムを確認すると、後半の1000mは56秒8。ここまで前半と後半が違う流れになってしまうと、後方に位置取った馬は相当に厳しい。序盤にある程度の位置を確保した馬たちによる、絶対能力と持久力の比べ合いとなった。
この流れの中でも、二冠制覇を目指すジャスティンミラノはさすがの走りを見せた。
手応えこそあまり良く見せなかったが、並走するサンライズアースを置き去りにし、先行するシュガークンとエコロヴァルツをかわしにかかる。正に王者の走りだった。
しかし、道中も直線も一切のロスなく運んだ伏兵がいたことが、ジャスティンミラノにとっての誤算。
56歳の魔術師・横山典弘騎手に導かれたダノンデサイルが、最内1頭分のスペースを突いて一気に抜け出して行く。さすがのジャスティンミラノも屈せざるを得ない加速力と持続力。この大一番で持てる能力を全て開放して、真っ先にゴールへと飛び込んでいったのだ。
前走の皐月賞においてスタート地点まで行きながらも、横山典弘騎手がわずかな違和感に気づき、出走取消という苦渋の決断をしたダノンデサイル陣営。
一生に一度のクラシックでこうした決断はなかなかできることではないが、結果的にそれがダノンデサイルの脚を守り、ダービーに向けての立て直しと万全の仕上げを可能にした。正に”馬優先”のスタイルがもたらした栄冠と言えるだろう。
ダノンデサイル自身も、デビュー戦以来となる東京でのびのびと走り、距離が延びて凄みが増した走りを披露。1週前追い切りで見せた素晴らしい内容が本物であることを証明した。
京成杯を勝った1月と比べても、この中間の動きは別馬のようで、ここに来ての成長速度はかなり急。夏を越しての成長も期待できるだけに、今から秋の走りが楽しみになった。血統構成から菊花賞の3000mも守備範囲と思えるし、二冠達成も十分に考えられる。
敗れこそしたものの、ジャスティンミラノも非常に強い内容。
元々スタートが速い馬ではなく、今回は特に悪い部類だった。
外枠だった分スムーズに好位を確保出来たが、出していったことでこの馬としては力みの強い追走になっていたように思う。その状態で中盤から展開されたロングスパート勝負を乗り切ったのだから、やはりこの世代の中ではトップクラスの基礎能力を持っている。
ただ、今回の走りを見ていると長距離向きというタイプには映らず、今後の進路がどうなるか気になるところ。2000m前後であればより安定して走ってきそうなので、秋は菊花賞ではなく天皇賞(秋)への挑戦も視野に入ってくるのではないだろうか。
3着のシンエンペラーは2コーナー付近まで力みが強かった上、レースが一気に動いたタイミングでシックスペンスの後ろにハマっており、動き出しが遅れたのが堪えた印象。
それでも直線の伸びは目立っており、やはりこの馬は中山のような小回りよりも東京のような広いコースの方がいい。
距離に関してはどこがベストなのか分かりにくい面があるが、2400mでもある程度の結果を残せたというのは、今後の選択肢を考えると大きな収穫と言えそうだ。
レース後には凱旋門賞を含めた欧州競馬挑戦のプランも明かされた。凱旋門賞馬ソットサスの全弟という血統からも、結果がどうなるか興味深い。
4着のサンライズアースはマクり上げた後、直線で一旦は前から離されながら盛り返してきた。一瞬の切れ味には欠けるものの、末脚の持続力は光るものがある。
惜しいのはスタートや二の脚が遅く、今回のような極端な競馬が多くなってしまいそうなこと。もう少し序盤から普通に流れに乗っていけるようならばと思うが、それは今後の成長待ちか。能力は高いレベルにあるだけに、今後も扱いに悩まされることになりそうだ。
5着のレガレイラは、完全に内枠が災い。
スタートや序盤の行き脚のつかなさに改善が見られなかったことで、余計に動きにくい場所に押し込められる形となってしまった。
後ろから運んでいた馬たちにとっては絶望的な展開の中、直線だけで5着まで押し上げているので、能力の高さは世代上位の位置にあるのは間違いないが、ハイレベルな組み合わせの中でもう一段上に行くには、現状ではなにか一つ二つ恵まれないと厳しいのかもしれない。
ただ、血統的には決して早熟という構成ではないため、今はまだ本馬の中で”序章”である可能性もある。これから秋に向けてどのように変わってくるか。引き続き注目は必要だろう。
話を冒頭に戻すと、この盛り上がりは”横山典弘騎手が勝った”ことも大きいように思った。
56歳になっても変幻自在、何かをやってくれそうという期待感は現役騎手の中でもトップ。この鞍上ならば、波乱の結果もどこか納得してしまう……そう感じる方が多かったのではないだろうか。
この鞍上に全てを託しつつも、そこに至るまでにプロフェッショナルな仕事を完遂した安田翔伍調教師とスタッフの方々にも最大級の賛辞を送りたい。
筆者が使うとかなり偉そうな物言いになってしまうが、敢えて”ノリさん”がよく発する言葉を借りればこうなるだろうか。
馬も人も「よく頑張っていたよ」