靖子は黙って出ようとしたが、その男の顔をみてどこかで会った気がして立ち止まった。
40才位に見える。
「いきなりで失礼しました、好きな小説の舞台になった所でつい夢中になったもので、村井といいます、怪しいものではありません」
軽く笑いながら名刺を差し出した。
靖子は仕方なく受け取ってみると、中村法律事務所 村井修一と印刷されている。肩書きはついていない。
「先ほどカフェでお見かけしたので」
「緒方と申します」
「この温泉は近いけど来る機会がなくて、やっと時間が取れてほっとしています」
「あの、私部屋に戻りますので」
「お引き止めしてすいません、また機会がありましたら」
靖子は早く一人になりたくて、返事をせずに戻った。
夕食前に温泉に入ったが、高台にあるホテルからの眺めは素晴らしく、神社の大杉や周りの山裾を見下ろして、まさに一望千里の世界にいる。
中学生の時交通事故で両親を失い、残された自分は預けられた親戚で遠慮しながら過ごしてきた。
それがたまらなく、19才の春に飛びだし、他人を信頼する事なく今を生きている。
空いている温泉にゆっくり浸かって土産物売場に行ってみると、村井が買い物をしていた。
「娘になにを買っていいのか分からないんですよ」
靖子の顔をみると、独り言のように呟いた。
「お嬢さん、おいくつなんですか」
「11才になります」
「それならもうあまり子供っぽいものはだめですね」
「そうだな」
靖子は仕方なく合いそうな雑貨をいくつか選んでみせた。
「有難うございました、助かりました」
村井は本当にほっとしたようで支払いを済ませると、お礼にといって、越後縮みの柄が入っている財布を渡した。
「あら、そんなにして頂かなくても」
「いや、ほんの気持ちなんです・・それであの、夕食を一緒にいかがですか、一人だと味気ないので」
「ええ、よろしければご一緒に」
靖子は微笑んで応えた。
40才位に見える。
「いきなりで失礼しました、好きな小説の舞台になった所でつい夢中になったもので、村井といいます、怪しいものではありません」
軽く笑いながら名刺を差し出した。
靖子は仕方なく受け取ってみると、中村法律事務所 村井修一と印刷されている。肩書きはついていない。
「先ほどカフェでお見かけしたので」
「緒方と申します」
「この温泉は近いけど来る機会がなくて、やっと時間が取れてほっとしています」
「あの、私部屋に戻りますので」
「お引き止めしてすいません、また機会がありましたら」
靖子は早く一人になりたくて、返事をせずに戻った。
夕食前に温泉に入ったが、高台にあるホテルからの眺めは素晴らしく、神社の大杉や周りの山裾を見下ろして、まさに一望千里の世界にいる。
中学生の時交通事故で両親を失い、残された自分は預けられた親戚で遠慮しながら過ごしてきた。
それがたまらなく、19才の春に飛びだし、他人を信頼する事なく今を生きている。
空いている温泉にゆっくり浸かって土産物売場に行ってみると、村井が買い物をしていた。
「娘になにを買っていいのか分からないんですよ」
靖子の顔をみると、独り言のように呟いた。
「お嬢さん、おいくつなんですか」
「11才になります」
「それならもうあまり子供っぽいものはだめですね」
「そうだな」
靖子は仕方なく合いそうな雑貨をいくつか選んでみせた。
「有難うございました、助かりました」
村井は本当にほっとしたようで支払いを済ませると、お礼にといって、越後縮みの柄が入っている財布を渡した。
「あら、そんなにして頂かなくても」
「いや、ほんの気持ちなんです・・それであの、夕食を一緒にいかがですか、一人だと味気ないので」
「ええ、よろしければご一緒に」
靖子は微笑んで応えた。