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武蔵野物語 52

2008-10-11 17:53:14 | 武蔵野物語
ひじり坂の停留所、南側にゆるく長い上り坂が続いていくが、すぐ桜ヶ丘公園に着き、左側に縦長の公園が聖ヶ丘橋まで見渡せるベンチに腰掛けると、昨日降った雨を含んだ緑の風が、澄んだ陽光のもとに、五感を浄化させてくれる。
普通の休日、なにも考えず、ずっとここにいられる。
その先の図書館へ寄り道をして、読みたい本を一、二冊借り、また気に入った場所のベンチを探し読み続ける。
図書館には、道なり右にカーブして行くが、その辺りを左に下ると、緑地が多摩大学付近まで、途中幅が狭くなったりしながら、続いている。
その日は大学近くの小学校で運動会が行なわれていて、晴れ上がった秋本番を象徴していた。
多摩大学のすぐ裏側に、坂浜聖ヶ丘橋が高く横切って見える。
階段を上り橋に出ると、若葉台の整然とした街並みが眼下に見渡せ、振り返れば、広大な多摩ニュータウンが一望できる。
多分この辺りで一番標高が高い場所だろうが、眺めはとても良い。
ひじり坂から緑地伝いに多摩大学までの道のり、ゆりこは、其処こそ自身の故郷通りなのだ、と改めて再認識した。
会社の方は変化があり、ゆりこが山口常務の件を人事の親しい先輩に相談したところ、10月付で、常務は上海に転勤になってしまい、黒木と共に2,3年は戻ってこないらしい。
ゆりこは兼任の業務から、もとの国立営業所に戻され、田口は八王子営業所勤務で、コンビは解消された。
田口はゆりこと共に国立に行きたがったが受け入れられず、ふてくされて一週間の休暇を取っている。噂では海外旅行をしている様だ。
父は相変わらず一人で家にいる。戻ってくるように何度も言われているが、父に女性関係の進展がみられないので、戻ろうかな、とも考えている。
こうして以前の状態に近くなってくると、やはり誠二に会いたくなり、メールを送った。
府中の森公園でお会いできませんか、と打ってみた。