「僕が、後を継ぐのですか?」
「そうだよ、君の事は充分理解してるつもりだ、この仕事も信用第一だからね、人柄が大事なんだ」
「でも、全く経験も知識もないんですけど」
「それはこれから覚えればいい、全部教える、どんな職業でも最後は結局気持ちだよ、当り前の事だけど」
誠二は返事に窮してしまった。いまはその気になれないが、すぐに断る訳にもいかないし、といって曖昧な態度はもう通用しそうにない。
その時、佳子がまた呼びに来た。
「社長、いつもの山崎様がお見えです」
「そうか、約束がしてあったな、誠二君、きょうはこの後会えそうもないので、よく考えておいてよ、今週こちらから連絡する、お昼は深沢君と一緒に行ってくれ、僕の名前で何でも頼める店だから」
そう言うと足早に去っていった。
誠二は逃げ出したい気分だったので、本当にほっとした。当分ここへ来るのはやめよう、アルバイトでもいいからすぐに働きに出よう。
そんな考えで一杯になっていたが、佳子の声が、息が感じられる様な近くで聞こえてはっとした。
「あのう、レストランはあちらなんですけど」
「いやどうも、お昼までつき合わせてすいません、いいんですか?」
「こちらこそ、サインで好きなものを食べられますから」
佳子は嬉しそうに瞳を輝かせた。
イタリアンレストランだったが、少し早い時間に着いたので空いていた。
「深沢さんは東京育ちなの?」
「そうです」
「ご両親は」
「いまは母と住んでいます」
「そう・・いや、プライベートな部分を聞いてしまって」
「いえ、父とはずっと会っていなかったのですけど、ここの就職を世話してくれました」
「じゃあ、お父さんと小島社長が知りあいなんだ」
「そうです、社長が銀座で画廊を始める時、父が斡旋したそうです」
「不動産業をやってたんだね」
「当時は黒木不動産だったそうです」
「そうだよ、君の事は充分理解してるつもりだ、この仕事も信用第一だからね、人柄が大事なんだ」
「でも、全く経験も知識もないんですけど」
「それはこれから覚えればいい、全部教える、どんな職業でも最後は結局気持ちだよ、当り前の事だけど」
誠二は返事に窮してしまった。いまはその気になれないが、すぐに断る訳にもいかないし、といって曖昧な態度はもう通用しそうにない。
その時、佳子がまた呼びに来た。
「社長、いつもの山崎様がお見えです」
「そうか、約束がしてあったな、誠二君、きょうはこの後会えそうもないので、よく考えておいてよ、今週こちらから連絡する、お昼は深沢君と一緒に行ってくれ、僕の名前で何でも頼める店だから」
そう言うと足早に去っていった。
誠二は逃げ出したい気分だったので、本当にほっとした。当分ここへ来るのはやめよう、アルバイトでもいいからすぐに働きに出よう。
そんな考えで一杯になっていたが、佳子の声が、息が感じられる様な近くで聞こえてはっとした。
「あのう、レストランはあちらなんですけど」
「いやどうも、お昼までつき合わせてすいません、いいんですか?」
「こちらこそ、サインで好きなものを食べられますから」
佳子は嬉しそうに瞳を輝かせた。
イタリアンレストランだったが、少し早い時間に着いたので空いていた。
「深沢さんは東京育ちなの?」
「そうです」
「ご両親は」
「いまは母と住んでいます」
「そう・・いや、プライベートな部分を聞いてしまって」
「いえ、父とはずっと会っていなかったのですけど、ここの就職を世話してくれました」
「じゃあ、お父さんと小島社長が知りあいなんだ」
「そうです、社長が銀座で画廊を始める時、父が斡旋したそうです」
「不動産業をやってたんだね」
「当時は黒木不動産だったそうです」