goo blog サービス終了のお知らせ 

毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

フクロウの街 12

2016-05-23 09:07:12 | ヒューマン
「二人共にですか?」
「いや、元夫の新井武志の方が先に居なくなったのです、実は山路さんに来て頂いたのは、あのアパートに以前藤中啓子が住んでいた事が分かったものですから」
「藤中さんが、いつ頃ですか」
「3年前です」
山路は2年しか住んでいなかった。勿論啓子がいた事は知らず、彼女も何も言わなかった。
「山路さん、何でもいいから彼女について知っている事を話してほしいのです」
「ハローワ―クで知り合ってつき合い出したのですが、結婚歴が一度あるのを聞いている位です」
「外国の事は何か話していませんでしたか?」
「外国ですか」
「例えば、韓国とか、台湾とか」
「いや、聞いてないです」
「中野のアパートについてはどうでしたか?」
「何も話していませんでしたね」
「そうですか・・それでは何か気がついたらぜひ連絡をください。」
刑事は早口で喋ると慌ただしく去っていった。
警察はまだ何もつかんでいないらしい。
山路は、悪事に巻き込まれてもがいていく自分を感じ始めていた。

丸一倉庫の方は、新潟での法事を理由に1週間の休暇を出しておいた。
もういつ辞めてもいいのだが、実態を見極めたい気持ちが強くなっていたからだ。
引っ越し荷物は殆どないので簡単に終わり、落ち着いたところで緒方靖子にメールを送った。
中国に詳しい彼女は、今後自分にとって重要な存在なってくるだろう。
靖子から返信が来て、倉庫は近々辞めるつもだと打ってきた。
山路も同感だったので嬉しくなり、今度の休みの日に来てくれませんかと誘ってみると、あっさり承諾してくれた。
テ-ブル以外家具らしいものは何もないが、却ってやり直す意味で、ありのままを見せたかった。
休みの当日、靖子は引っ越し祝のご馳走を持って昼前にやって来た。
「本当に何も無いんですね」
「テレビは明日なんです、今日は良く来てくれました」
「インテリアは私が選びましょうか?」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フクロウの街 11

2016-05-13 06:56:50 | ヒューマン


土曜日の朝、山路は引っ越し先を探す為出かけようとしていたところ、中野警察署から呼び出しがあった。
出向いてみると、アパートの火災は放火と断定されたので、住民全員に事情聴衆をお願いしてるとの説明があった。
留守で何も見ていなかったが、交友関係をしつこく聞かれ、親戚も調べられている。
もう近くに住む気はないので、家賃の安い物件を探して墨田区まで来た。
最寄り駅は総武線平井駅で、蔵前橋通りを越え旧中川を渡ると墨田区で、道なりに歩いて行くと公園や図書館があり、その近くの古いアパートだが、落ち着いている。
山路はここなら都心にも行きやすく、静かに暮らせると考え始めた。
即入居可という事で、契約金は仕事仲間の永瀬に借りる事にして啓子のマンションに戻った。
私物を持ってきた時のバックに全て詰め込み、錦糸町のカフェで永瀬を待った。
「引っ越し決めたの」
「格安のがあって3年後には建て替えるんです、すいません、来月中には返しますので」
「やり直しでいいんじゃないの、それよりも先日刑事がきてね、君の事聞いていったよ」
「永瀬さんのところに、すいません、ご迷惑ばかりかけて」
「何があったの?」
「僕もわからないんですよ、ただ、付き合っている彼女の事だとは思いますが」
「彼女はどんなひと?」
「現在は独身ですけど、元夫は未練があるらしくつきまとっているようです」
「じゃあそのトラブルかな」
「そうかも知れませんね」
そんな話をしていた矢先、警察から山路に出頭してほしいとの連絡が入った。
朝9時に着くと、前に会った刑事が出てきた。
「実はですね、藤中啓子さんと元夫が行方不明なんですよ」





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フクロウの街 10

2016-05-09 06:45:22 | ヒューマン
「結婚はしない?」
「ええ、特に考えていないわ」
「靖子さんはいままでどんな仕事をしてきたのですか」
「ちょうど10年間、秘書をしてきました」
「そうか、そういう雰囲気ありますよね」
「そうですか、好きで初めたわけじゃないんです」
「でも英語ができるし、外資系の会社も募集が結構あるんじゃないですか」
「興味ないんです、ひとに使われるの好きじゃないから」
「自分で事業をやりたいのですか」
「できればね、山路さんは興味あります?」
「簡単に出来る事ではないし、何をやるかも分からないから」
「私、中国での仕事を考えているの」
「でも、これからの中国はどうでしょう」
「まだまだチャンスはあるわ、他のアジア諸国はもう少し先ね」
靖子は自信たっぷりに話を続けた。
「北京と上海には知り合いがいるから、いつでも連絡がとれるのよ」
「一時期興味は持っていた所なんですけどね」
「機会があったら考えてみませんか」
「貿易業ですか」
「それだけではないけど、儲ける話は沢山あるわ」
靖子の話を聞いていると終わりそうもないので、切り上げて啓子のマンションに戻ったが、誰もいなかった。

一週間過ぎたが啓子は戻らず、何の連絡もこないのでさすがに心配になり、所長の大沢に相談してみた。
「以前ここで仕事を手伝って貰った時も、急に何日か休みを取った事があったな」
所長は全く気にしていない様で、仕事の話になってしまった。
「もう馴れたと思うので、近々出張して貰いたいんだ」
「何処ですか?」
「中国か台湾だけど、中国の取引は台湾経由で日本にくるからね」
山路は曖昧な返事をして帰ってきた。
いつ辞めてもいいのだが、靖子の存在が日を追う毎に強くなり、放ってはおけない気持ちで一杯になっている。
誰もいないひとの住まいにじっとしていることもできず、山路は近くの不動産屋を見に行った。
安い部屋があればすぐに決めるつもるだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする