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毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

唐木田通り 37

2007-03-26 18:48:07 | 唐木田通り
「中谷さんは私共の会社の担当になられてから10年は経っているはずです。私は途中入社で入ってからの付き合いですから、5、6年になります」
「そうですか、中谷さんは来た時に必ず寄る飲み屋ですとか、親しくしていた女性について知っている事をお聞かせ願いたいのですが」
「よく行く店もありましたが、柳ヶ瀬の牡丹という店ですが、でも特に親しい女性というのは気がつかなかったな」
「特定の女性はいなかったですか」
「気がつきませんでした」
村瀬は沢村が約束を守っていてくれたので、ありがたかった。
「井上玲子という女性に心当たりはありませんか、岐阜出身なんですが」
「いえ、知りません」
会社の業務内容について簡単な説明を受けた後、二人の刑事はまた来ます、と挨拶をして署に戻った。
「どう思う、あの村瀬という男」
杉橋は森川の意見を聞きたくなった。
「何か知っていて、隠している気がしますね」
「そうだろう、徹底的に張り付いてやるからな」

一方警視庁捜査一課は、井上玲子の事情聴衆の為任意出頭を求めた。
鈴木刑事が担当した。
「中谷氏の事はご存じですね」
「はい、ニュースを見て・・・驚いています」
「先週の水曜と木曜日なのですが、一緒に岐阜へ行かれたのですね」
「はい、一緒でした」
「どういうご用件で?」
「別れ話です」
「あなたから切り出されたのですか」
「いえ、逆です、彼から言われました」
「それであなたは逆上して、中谷氏を殺害したのですか」
「違います、私は何もしていません、近頃何回か別れ話を出されて、私は彼のお蔭でここまでこれたので、なんとか考え直して欲しくて旅行に誘ったのです」
「でもうまく話しはつかなかった」
「そうです、彼の決心は固く、木曜日夜、私は一人で東京に戻りました」
「それを全て証明できますか」
「何でも調べて下さい」
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唐木田通り 36

2007-03-25 10:15:32 | 唐木田通り
「奥さん、随分冷静だったな」
由起子をとりあえずホテルに帰らせた後、杉橋は呟いた。
「片づくまでいる、なんて随分義務的に聞こえますね」
森川も同感のようだ。
「何年も女性関係が続いていたのが分かり、冷め切ってしまったという事なのかな」
「先輩も気をつけて下さいよ」
「俺はそんなにもてないよ」
「よく柳ヶ瀬に飲みにいってるじゃないですか」
「酒が飲みたいからだけだよ、それより井上玲子の所在は分かったのか」
「確認が取れました、先週の金曜日からいつも通り出社しているそうです」
「そうか、警視庁にはもう連絡はいったの」
「岡安警部がとりました」
「そう、それじゃ任せるしかないな」
「柳ヶ瀬近くに下請け会社の事務所がありますね、今日営業しているそうなので行きたいのですが」
「そうだったな、そこの責任者に会ってみよう」
村瀬は二人の刑事が面会に来たのを知って、面倒な事になるな、と気が重くなった。
「お仕事中お邪魔します、早速ですが中谷さんが亡くなられたのはご存知ですね」
年上の刑事が鋭い目つきで質問してきた。
「はい、新聞で知りました」
「来る前にこちらに連絡はなかったのですか」
「ありませんでした、いつもですと必ず電話を掛けてくるのですが、今回は何の連絡もなくて、驚いています」
先週水曜日から今週火曜日にかけてのあなたの行動を詳しくお聞かせ願いたいのですが」
「私のアリバイ、という事ですか」
「関係者全員にお聞きしていますので、ご協力願います」
「まとめるのに少し時間が欲しいのですが、出来次第提出しましょう」
「すいませんがよろしくお願いします、所であなたと中谷さんとは仕事を通じての付き合いが深いと聞いていますが」
村瀬はどこまで警察が細かい事を知っているのか計りかねていたが、まだ殆ど分かっていないらしく少しほっとした。
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唐木田通り 35

2007-03-21 20:45:38 | 唐木田通り
由起子は日曜日早朝、単身で岐阜に向かった。これからは関係者の事情聴衆が始まるだろうから、良一とは距離を置いた方が変な疑いを持たれずに済むだろう。
夫が殺されたショックは思ったほどなかった。冷たい人間に見られるかもしれないが、夫の女性関係がはっきりした段階で気持ちは離れていく一方だった。
良一は1日遅れで行く予定だ。9月に入り漸く仕事も区切りがつき、岐阜駅近くにあるビジネスホテルの予約を取った。当分由起子とは電話連絡だけになりそうだ。
岐阜に着いた由起子は二人の刑事に付き添われ、達彦の亡骸と対面した。達彦であることを告げると、早速取調室らしい所に連れていかれ、杉橋という刑事から質問が始まった。
「遠い所を急がせてしまいまして、すいません、検死の結果ご主人は先週木曜日の夜から夜中にかけて何者かに殺されたと判明しました」
帰る予定の前の晩だった。
「奥さんはその木曜日に何をなさっていたか、できるだけ詳しくお聞きしたいのですが」
「あの日は、昼間はずっと会社にいて、夜は8時頃家に戻りました」
「まっすぐ帰られたのですか」
「実家に子供を預けていましたので、子供を迎えに行って一緒に家に戻りました」
「家に帰られる時、誰かに会いましたか」
「家に入る時隣の奥さんと挨拶をしました」
「あのう、こういう質問で恐縮なのですが、何か人に恨まれる様な事とか、女性関係とかで気がつかれた事はありませんか」
由起子は隠すつもりは全くなかったので、井上玲子の件を有りのままに話した。
「奥さん、その人は今日も出勤しているんですか」
「そうだと思います、会社から欠勤の報告が入った時は他に何の話もありませんでしたから」
「そうですか、森川君、至急確認してくれ」
刑事の顔つきが険しくなってきた。
「奥さん、この後の予定はどうされますか」
「片づくまでいるつもりです」
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唐木田通り 34

2007-03-19 20:28:30 | 唐木田通り
身分を証明するものは出てこなかった。金銭には手をつけず身分を隠したかったのだから、怨恨による殺人なのだろうが、もっと山奥にでも隠せばよいものを何でこんなに発見されやすい場所を選んだのか、刑事達にはそこが第一の疑問点だった。
「発作的な犯行で、処置に困った揚句、公園に置いていったのでしょうか」
森川刑事が、先輩の杉橋刑事に聞いてきた。
「それは充分考えられるな、この頃はちょっとした事で親子でも殺しあう世の中だからな、それにしても車で1時間も行けば人目につかない所は沢山あるんだが」
そんな話をしている時、鑑識係から遺留品が見つかったとの報告がきた。
ネクタイピンで、右手に握られていたそうである。
「何かのメッセージでしょうか」
森川がまた質問してきた。
「それはどうかな、なにかのはずみという事も考えられる・・・これは銀製だな、おや、文字が彫ってある」
「ぎんれい、ですか」
「銀嶺、雪が銀色に輝く嶺か、なんだか水商売風だな」
杉橋はピンとくるものがあった。勘なんかに頼るな、と後輩達には常々教え込んでいるが、長い経験の中から自然に選り分ける、実際それも必要になる部分もある。
仏は東京か、関東から来ていると思われる。やはり東京から捜索願いの身元照会を
依頼しようと考えていた。
木曜日、由起子は所轄の警察に捜索願いを提出した。会社はとりあえず長期休暇扱いにしてくれたので、給料はいままで通り振り込まれる。
「由起子さん、こうなったら私はできるだけ早く岐阜に行こうと思っています」
良一は村瀬にメールを送っておいた。彼は何かを知っている気がする。
「そうね・・・今週待ってそれから決めましょうか」
土曜日になり、実家の母に今後の予定を話終わった直後、警察から電話があり、残念ながら岐阜の公園でご主人が発見されたので、至急確認に行って貰えないかと連絡してきた。
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唐木田通り 33

2007-03-18 15:54:41 | 唐木田通り
達彦の会社からも出社していないとの連絡があり、今回は有給休暇で全くの私用で取っている。
沢村が問い合わせたところ、井上は出社しているという。予定通りだとすれば先週の金曜から出社しているはずだが、確認はまだとれていない。
「私には出張だといって、やはり女性問題で出かけたのね」
「そうでしょう、今日は火曜だから明日でまる一週間になります」
沢村はいつ警察に連絡しましょうか、と由起子に言いそびれていた。
「そうね・・・木曜日になったら、私捜索願いを出そうと思うの」
「そうするしかないですね、それまでに連絡があるかも知れません」
由起子は、連絡はもう来ないだろうと感ずるものがあったが、向き合いたくなかった。

同じ日の早朝、岐阜公園を散策していた老夫婦が、つつじの植え込みの中に倒れている人を発見し警察に通報した。
早速警察官二人が駆けつけてみると、中年の男性で、鈍器のような物で後頭部を強打されており、それが致命傷になったようだ。年齢は40才前後にみえた。
財布には一万円札5枚と千円札3枚が入っていたが、銀行及びクレジット類のカード、免許証、身分証明書等は見当たらなかった。
スーツ、靴は日本のメーカーだが良い品物で、ネクタイはイタリア製、腕時計はスイス製のブランド物を身につけている。
「この仏さん、亡くなってから数日経っていますね」
若い方の刑事が近づいて調べている。
「うん、もうすぐ鑑識が来るからはっきりするだろう、それにしても土、日に発見されなかったとはな」
中年の先輩刑事が不審気な顔をしている。
「違う場所で殺されて夜中に運ばれたのかもしれませんよ」
「でもなあ、こんな暑い時期にどこに隠していたんだろう、どうみたって4,5日は過ぎているよ」
話している内に鑑識係が到着し、本格的な検証が始まった。



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並木の丘 12

2007-03-17 11:10:24 | 並木の丘
公園へ一緒に行ってからは、慎一までが久美子の住まいに遊びに来る様になった。
「慎一君のお母さんは今日も外出なの?」
若い人の溜まり場になりそうで少しうんざりしていたが、新しい空気が流れてくる新鮮さは刺激的だった。
「はい、土、日は大抵どちらか一日は教えに行っています」
土曜のお昼は宅配のピザを頼んで食べさせている。久美子は、料理はあまり得意ではなく、家に居るよりも仕事に出ていたい性格なので、合った職場を探しているところだった。
「弥生ちゃんの方がよっぽど料理が上手いわね」
「私結構好きなんだ、作るの」
「何が得意なんですか」
慎一は弥生の事ならなんでも知りたがる。
「そうねえ、ハンバーグ、パスタ、サンドイッチ、喫茶店で働けるわ」
そういって笑っている、慎一も楽しそうだ。
「おはなが終わったらお父さんの所に行くのかな」
「行かないと思う、遅くなるって言ってたから」
「慎一君の家はどちらでしたかしら?」
「三鷹です」
久美子は、慎一の母千恵子の印象が最初と大分違うな、と興味を持ったが、三鷹に住んでいると聞いて戸惑いもあった。
前澤義明が高円寺に住んでいる関係で、三鷹で待ち合わせる事が多かったのだが、これからは場所を変えなければならないだろう。
「あのう、図々しいかもしれませんが、よろしかったら今日泊めて頂けませんか?」
「泊まるって・・でもお母さんは帰ってくるのでしょう」
「帰ってこないと思います」
「帰らない時もあったの?」
「何度かありました、今日も遅くなったら分からないから先に寝ていなさいと言われたので」
何処かに泊まってくる、とはどういう意味なのだろう。婚約している女性の行動としては不自然だ。
泊める事にして、千恵子の隠された部分をできるだけ聞きだそうと考えた。
「よかったじゃない」
弥生は何も感じていない様だ。

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唐木田通り 32

2007-03-12 05:20:12 | 唐木田通り
8月最終週の水曜日、達彦は二泊の予定で出張した。先週に引き続きまた岐阜行きである。仕事か私用か、或いはその両方で問題が出ているのだろうか。
「また行ったのですか」
良一は由起子からの連絡を受けて、すぐ村瀬の携帯に電話をしたが、マナーモードになっており、留守伝を入れておいた。
翌日昼近くになって、漸く村瀬からメールが届いた。

連絡遅れてすみません、接待の付き合いで遅くまで飲みすぎてしまい、今日になって気づきました。中谷さんからは何の連絡も来ていませんので、仕事の用事ではないのではないか、と思うのですが、来られたらすぐに電話します。沢村さんも今度はぜひ泊まり掛けでいらっしゃって下さい、お待ちしております。 村瀬

向こうの会社に顔を出していないという事は、やはり井上と向井に絡む問題なのだろう。
良一は達彦の会社に電話をして、井上に商談の為伺いたいと申し出たところ、2日間の休暇を取っているとの返答があった。やはり一緒なのだ、岐阜で何か起きているか、起きかけているのかもしれない。すぐにでも追いかけて行きたいのだが、9月になるまでは動きがとれなかった。
その日由起子と一緒に帰る為、新宿西口京王線側の、二人の待ち合わせ場所で時間を合わせた。
「良一さんは急ぐことないですよ、どうせ例の女性関係なんですから」
「それはそうですが・・・」
良一は余程もう一人の女性の存在を話してしまおうかと思ったが、我慢した。
翌日金曜の夜、達彦が帰ってくる予定だったが、土曜になっても帰ってこなかった。
由起子は以前もこういう事があったので、大して気にはしなかった。週末をいい人とゆっくりしていたいのか、きちんと清算するからやり直そうとあれ程言っていたのに、それとも話がこじれて長引いているのか。
そんな風に考えている内に日曜が終わり、月曜も何の連絡も来ず、帰ってこなかった。
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唐木田通り 31

2007-03-11 11:47:41 | 唐木田通り
「あの井上玲子なんですが、彼女は岐阜出身だったのです」
「また岐阜ですか」
「ええ、それで村瀬さんに電話をしたのですが、彼は井上の事は知らないと言っていました」
「偶然にしては何か不自然ね」
「私もそう思います、岐阜をもっと詳しく調べれば真相に近づけるでしょう」
良一は、向井智子の存在をいつ由起子に告げようか迷っていたが、井上が岐阜出身だと分かった段階でまだ言わない様にした。もしかしたら井上と向井に何らかの接点を見出せるかも知れない、解明してからにしようと考えていた。
「ところで良一さんの事ですけれど、ご家庭の方はどうなっているの?」
「家内はもう戻るつもりはなく、私がいまの家を出て、アパートを借りてでもいいから自分達だけの生活を始めてくれなければ、別れるしかないと言い張っています」
「そう、決意は固そうね・・・良一さんはどうするか纏まってきたの」
「いや、まだ、決めかねています」
「そうでしょうね、お子さんも居るし、まだ時間が掛かるわね」
由起子は自分の場合と違い、良一の家族の問題なので、良一が両親と別居さえすれば解決できるので、自分が邪魔をしなければ基に戻れるだろうと思っている。
雨は降りそうにないが曇ってきたので、唐木田通りを別所公園方向に向かって歩く事にした。
良一と知り会ってからまだ2ヶ月もたっていないのに、人生の大きな変化の波にもまれている、良一と会ったからこそうねりが大きくなったのだが、でもその為自分の気持ちに正直に取り組むきっかけを作ったともいえる。
「由起子さん、近じか僕はもう一度岐阜に行くつもりです、仕事の都合で9月になるかもしれませんが」
「そう、でもご家庭の問題もあるし、そちらを優先になさったら如何ですか」
「話は度々しています、時間を掛けて解決するしかないですから」
良一は由起子との時間を第一にしたかった。
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並木の丘 11

2007-03-10 16:20:48 | 並木の丘
久美子はやはり感ずかれてしまったと観念した。弥生がいつ舞い戻ってくるかわからないので、昨晩は久し振りに二人でホテルに泊まった。義明は出張だと周りに説明しているのだろう。秘書はベテランの男性だから何でも知っているだろうが、あちらの奥様は本当に気付いていないのだろうか。問題が起きたら今すぐにでも身を引く覚悟はできていた。
3月に入るとすぐにでも桜が咲きそうな暖かさの日もあり、そういう明るい気持ちになれる土曜日に、久美子は弥生に手伝わせてサンドイッチを沢山作り、皆で近くの公園に出掛けた。結局久美子が音頭をとらないと弥生は動かない。
よその人が見れば、仲の良い家族か親戚と映るかもしれない。
ゆるやかなのぼり坂を唐木田方向に歩いて行くと、右側に別所公園がある。
東西に細長く延びて、上りきった辺りから公園の向こう側の、並木に囲まれた家々の並ぶ丘、弥生はここが一番好きだった。
慎一は弥生の後を追いかけて、弥生は久美子の傍にくるので、三人が一緒になった。
「慎一さんは成績が良いんですってね」
久美子は興味深そうに聞いた。
「勉強はあまり好きではないんですが、面白くなくて」
「クラスでは1位で、学年でもいつも10位以内に入っているそうよ」
弥生が付け加えた。
「じゃあ、お母さんは喜んでいるでしょうね、自慢の息子で」
「母は成績にはあまり興味がないみたいです、いつも留守で忙しそうだから」
「そんな事はないと思いますよ、心の中ではとても喜んでいますよ」
「そうでしょうか、でも一緒にいても殆ど話はしないから、僕は好きな本を読んでいるんです」
飲み物とおつまみは千恵子が用意してきた。
「今年の桜は早く咲きそうですね」
千恵子が久美子に問いかけてきた。
「本当に、桜は宝野公園に観に行きましょうよ、ねえ、健吾さん」
「あそこはいいですね」






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唐木田通り 30

2007-03-05 18:12:22 | 唐木田通り
由起子が住んでいる稲城の西隣りが若葉台で、よこやまの道が始まる多摩東公園から比較的近いので、土曜の朝、若葉台駅から公園に向かう事にした。
駅から多摩大学辺りまで上りきると一番見晴らしがよくなり、聖蹟桜ヶ丘方面まで下る道も度々歩いている。
岐阜に旅行して以来、良一が会うのを避けている気配があり、由起子は自分に都合の悪い話を聞いて隠しているのだろう、と推測していた。
達彦が何をしたとしても関心が薄くなっているので、驚くよりも呆れる方が強いだろうと思っている。
8月も終わりに近づいているが、今の日本は9月のお彼岸頃までは夏の延長になって来ている。
達彦は相変わらず出張が多く、ついこの間も岐阜に出かけていた。良一が会ってきた村瀬から連絡をもらっているので、行けば必ず分かる、最低でも月一回は行く様だ。やはりあそこが問題の根っこなのだ、事情を知らなくても感ずるものが有る。
この際達彦の後を着けてでも、現場に乗り込んで話をつけてしまおうかと考えていると、良一から、話があるので会いたいと連絡があった。
まだ早い時間なので昼には充分間に合う。唐木田駅で待ち合わせることにした。
駅を出てすぐ右に戻る形で、ハンバーガーショップを過ぎるとすぐ左側に小さなレストランがある。個人宅を改造して営業しているらしく、落ち着いたインテリアで、普段何気なく寄るのに最適だ。二人共香りの良いコーヒー付きのランチセットを頼んだ。
「急に呼び出してすいません、用事があったのではないのですか?」
「いいえ、朝早めに起きて、よこやまの道の出発点に行ってたのよ」
「歩くつもりだったのですか」
「そう、あなたと最初に出会ったのもよこやまの道でしたし、この頃会ってくれそうもないから、歩きながら考えてみようと思っていました」
「すいません、調べていたのです、一つ分かりました」
「悪い話?」
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