敦子から簡単な葉書が届き、退院して母と小金井市に引越した、と新しい住所を知らせてきた。地図で調べてみると、西部多摩川線の新小金井駅になる。
野川公園にも近く、緑の多い場所を選んだということか。
緑豊かなハケの道を、一人創造しながら歩いている、そんな敦子に武蔵野はふさわしいのかもしれない、と誠二はふと思ったりした。
滝沢はその後、郵送で退職願いを送ってきただけで、行方をくらましてしまった。
住まいだった賃貸マンションも解約されていて、連絡の取りようもない。
ゆりこは、誠二の突き止めた黒木の自宅の方から追求しようかと思ったが、仮に黒木に会えたにしろ、何も喋るはずがないだろうから、いまは打つ手がみつからなかった。
ゆりこの父は、また 椿 によく通うようになり、どうやらあちらの二人はよりが戻ったらしい。
相手の雅子は、男性の噂がいつもついてまわる問題の女性だが、ゆりこは好印象を持ち始めていた。
ゆりこと誠二は、昨年の9月以来、久し振りに府中の森公園に行ってみた。
暑い夏の続きよりも、やはり春の緑風は心地よい。
「誠二さん、奥さんは特に連絡してくるとか、ないの?」
「別に何もこないね、僕に、別の女性が居るでしょうと言ったけど、怒っている感じではないし、冷静なのが却って不気味だよ」
「暫くは別居状態で、成り行きに任せて様子をみるってこと?」
「どうしてよいか、分からないんだ」
周りの人々の関係が、皆、中途半端な状態に保たれている。
何も解決していないのだが、特別不幸なわけではない。
ゆりこは一度出直すべきなのではないか、と思い当たった。
父の家を出、誠二とは一旦離れて、仕事を変え何もかも新しくやり直す、そうしないと、行きつく先は一つになってしまいそうで、まだ黄泉の世界に辿り着くには早すぎると、武蔵野の森に抱かれる自分をみつめた。
-第二部-
野川公園にも近く、緑の多い場所を選んだということか。
緑豊かなハケの道を、一人創造しながら歩いている、そんな敦子に武蔵野はふさわしいのかもしれない、と誠二はふと思ったりした。
滝沢はその後、郵送で退職願いを送ってきただけで、行方をくらましてしまった。
住まいだった賃貸マンションも解約されていて、連絡の取りようもない。
ゆりこは、誠二の突き止めた黒木の自宅の方から追求しようかと思ったが、仮に黒木に会えたにしろ、何も喋るはずがないだろうから、いまは打つ手がみつからなかった。
ゆりこの父は、また 椿 によく通うようになり、どうやらあちらの二人はよりが戻ったらしい。
相手の雅子は、男性の噂がいつもついてまわる問題の女性だが、ゆりこは好印象を持ち始めていた。
ゆりこと誠二は、昨年の9月以来、久し振りに府中の森公園に行ってみた。
暑い夏の続きよりも、やはり春の緑風は心地よい。
「誠二さん、奥さんは特に連絡してくるとか、ないの?」
「別に何もこないね、僕に、別の女性が居るでしょうと言ったけど、怒っている感じではないし、冷静なのが却って不気味だよ」
「暫くは別居状態で、成り行きに任せて様子をみるってこと?」
「どうしてよいか、分からないんだ」
周りの人々の関係が、皆、中途半端な状態に保たれている。
何も解決していないのだが、特別不幸なわけではない。
ゆりこは一度出直すべきなのではないか、と思い当たった。
父の家を出、誠二とは一旦離れて、仕事を変え何もかも新しくやり直す、そうしないと、行きつく先は一つになってしまいそうで、まだ黄泉の世界に辿り着くには早すぎると、武蔵野の森に抱かれる自分をみつめた。
-第二部-