毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

わが町

2008-08-19 19:31:53 | 手記
千葉県船橋市に住んで20年以上になりますが、都心へのアクセスがよい為、東京の郊外にいる位の気持ちしかありません。
現在59万人が住んでいる中核市です。
新宿に生まれ育った私ですが、最初から全く違和感なく溶け込めました。
多摩や八王子ニュータウンは私の小説の故郷的存在ですが、海に近い所に住んでいるせいか、より新鮮に感じているのかも知れません。
昔ながらの商店街がなくなり、ビルが建ち並ぶ時代の変化を映しつつ、7月末に行なわれた今年の市民祭りも、大いに賑わいました。
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武蔵野物語 51

2008-08-08 19:02:29 | 武蔵野物語
「あら、どうしたの、此処よく分かったわね」
「総務で聞いて、お見舞いにきました」
田口はそう言って、メロンをゆりこに差し出した。
「そんな、たいしたことないのよ」
ゆりこは仕方なく、田口を中に入れ、父に紹介した。
「恐れいります、丁度よかった、これから夕飯なのでぜひご一緒に、ゆりこ、ビールと肴用意して」
父はとても機嫌よさそうで、いつになく饒舌だった。
「娘もこの通りですから大変でしょうが、よろしくお願いします」
「お父さん、この通りって何よ」
「ゆりこさんは才能がありますよ、僕と違って」
「ほら、みなさい」
「仕事は分かりませんが、ちょっとわがままで、良い相手が来てくれるのか心配です」
「またその話なの、良太さん、父は飲むといつもこうだから、聞き流しておいてね」
「ゆりこさんは今のままで充分素敵です、僕は好きです」
「そうですか、そう言って頂けるなんて、今日はゆっくり飲みましょう、明日は休みですから、泊まっていって下さい、部屋は空いていますから、おい、ゆりこ、お客さん用の布団用意してな」
男達が勝手に盛り上がっている。まさか田口を泊める事になるとは。
その夜は何年振りかで盛り上がった。
父は先に酔いつぶれ、田口もすっかりでき上がって、ゆり子さん、一緒にやすみましょう、とくだまいているのを漸く寝かせた。

翌朝7時近くに起きると、散歩に行く、と父のメモが置いてあった。
田口を起こし、軽い朝食を済ませると、二人で表に出た。
マンションの4階を降り、停留所の方に歩き出すと、覆われた木々で建物はすぐに見えなくなった。
「この辺りの木も成長してますね、武蔵野と違う、やはり新しい環境の魅力ってところかな」
「私、ここも、武蔵野も同じ位好きですよ」
「僕もそうです、気が合いますね」
ゆりこは誠二と会った桜ヶ丘公園を避けていた。
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武蔵野物語 50

2008-08-05 04:30:27 | 武蔵野物語
「常務、やめて下さい」
と言ったつもりだが、うまく喋れない。
「君は細く見えるけど、違うんだね」
山口は、ゆりこを上から下まで眺め回し、それからゆっくりとブラウスのボタンを外しはじめた。
何かないかとゆりこは手をいっぱいに伸ばすと、灰皿にあたったので、おもいっきり山口めがけて投げつけた。
力が出ないので足元に落ちたが、驚いて後ずさりしたのを見て、ようやく起き上がり、上着や靴を持って廊下に飛び出すと、追ってはこなかった。
なんとか靴を履いてロビーに降り、タクシーを頼んで、父のいる聖が丘に帰っていった。

翌日は金曜日だったが、出勤する気になれず、父が作っておいてくれたモーニングを食べてぼんやりしていると、9時に田口から携帯へ掛かってきた。
「今日来れないんですか、打ち合わせがあったんですけど、具合が悪いのですか?」
「すいません、夏かぜみたいで」
「ゆりこさん、昨日本社に呼ばれたでしょう、何かあったのですか」
「いえ、暑さが続いたので夏バテ気味なだけですから」
「そうですか・・ゆりこさん、なんでも相談して下さい、僕はあなたの味方ですからね」
「有難うございます」
「いま一人で休んでいるのですか」
「はい、でも実家ですから」
「それは良かった、お大事に」
ゆりこは昨日の出来事を人事部に報告しようと考えていた。ただどこまで話そうか迷いがあり、久し振りに家の掃除や夕食の支度をしていても、まだ纏まらなかった。
父は早く帰ってきて、嬉しそうだった。
「戻ってくればいいんだよ、部屋代だって高いだろう」
「そういう問題じゃないの、それよりお父さんはいい話ないの」
「何もないよ、このままが一番で、変化は面倒なんだよ」
父の方も進展はなさそうだ。
夕食を始めようとした時、チャイムがなった。
ゆりこが玄関に出てみると、背の高い田口が立っていた。
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武蔵野物語 49

2008-08-01 21:00:37 | 武蔵野物語
お盆休みの後、黒木の中国長期出張が決まり、山口とゆりこの三人で、打ち合わせ兼送別会を新宿のホテルで行う事になった。
ゆりこは参加したくなかったが、予約も済んで、断れない状況がすでに出来ていた。
黒木に関する情報はその後何もなく、調べる術は今のところない。
食事はフランス料理のコースだったが、黒木は馴れた感じで食べていた。
どうも分かりにくい人物、というのがゆりこの観察結果だ。紳士なのだが、油断ならないところがある。そう見ていた。
山口は上機嫌で、食事の後、上のバーに二人を連れていった。
ゆりこは明日も仕事ですから、と一旦断ったが、任せておけ、と言って聞いてくれない。
食事中、山口はワインをかなり飲んでいたが、いまはブランデーを飲んでいる。噂通り相当強そうだ。
ゆりこは仕方なくカクテルをゆっくり飲んでいたが、サービスだと、山口が新しいカクテルを運ばせてきた。
「常務、私そんなに飲めませんわ」
「これは乾杯用だ、我々の門出に対してのな、飲みやすいから、さあ、もう一度乾杯しよう」
これを最後に帰ろうと決め、飲み口がいいのですぐに空けてしまった。
黒木は黙って水割りを飲んでいる。
ゆりこは簡単に酔う方ではないが、少し経つと体全体が痺れ、特に足が麻痺して感覚がなくなってきた。
きっと強いカクテルを飲まされたのだ、と気づいたがもう遅い。
一人では歩けないので、仕方なく二人に支えられ、休憩室に連れていかれた。
中に入ると、ベッドが二つある部屋で、いつの間にか黒木はいなくなっており、山口と二人きりになっていた。
休憩室ではなく、ホテルのツインルームだったのだ。
ゆりこは立ち上がろうとしたが、力が入らない。
「上着を脱いだ方が楽になるよ」
山口はあたりまえの顔をして、ゆりこの上着を脱がせ、薄いブラウス姿の彼女をベッドに寝かせた。
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