ウイークデーの昼休みに、春の光を浴びながら二人で歩く。大学通りも大勢の人で賑わい、咲き出した桜の下で皆幸せそうな顔をして寛いでいる。
この時節を素直に楽しめないのは、私達だけなのだろうかと思う位、周りの人々が華やいでみえる。
有名なここの桜は昭和9~10年に植えられたそうで、この古木が国立、といえるような存在感がある。
ゆりこは病院に行った事を誠二に打ち明けた。
「一人で様子を見にいったの?」
「もしかして、あなたにも会えるかなって思ったものだから」
「年度末の締めがあったりして忙しかったんだ、でも説明もしなくて悪かったね」
「いいの、私、あなたの奥さんのことをもっと探りたい気持ちが強くなったのよ」
「普通に会社勤めをしている人に比べると、随分変わってみえるだろうね」
「就職した経験はあるの?」
「ないよ、学校の成績はよかったそうだけど、卒業してからは資格を取ったり、ピアノを弾いたり、絵を描いたり、そんな生活を送っていたそうだ」
「恵まれていたのね」
「親の忠告を聞いたりはしないそうだから」
「好きなことだけをしてきたってこと」
「自立して、自分で稼ぐ意欲は全くなかったらしいよ」
話している間に、さくら通りまで歩いて来た。大学通りは南北に伸びているが、さくら通りは東西に広がり調和がとれている。
「誠二さんの知り合いに、滝沢というひとはいる?」
「僕は知らないなあ、誰なの」
「勘違いかもしれないけど、奥さんの病室の前で見かけたものだから」
「家内の親戚にもいないはずだよ」
ゆりこは自分の会社の所長だ、というのはまだ黙っていようと思った。
その週の昼休み、また滝沢所長と打ち合わせを兼ねて食事を共にした。次第に回数が増えてきている。
「所長、先日の日曜日、K病院にいらっしゃいませんでした?」
「日曜日・・・ああ、行ったよ」
この時節を素直に楽しめないのは、私達だけなのだろうかと思う位、周りの人々が華やいでみえる。
有名なここの桜は昭和9~10年に植えられたそうで、この古木が国立、といえるような存在感がある。
ゆりこは病院に行った事を誠二に打ち明けた。
「一人で様子を見にいったの?」
「もしかして、あなたにも会えるかなって思ったものだから」
「年度末の締めがあったりして忙しかったんだ、でも説明もしなくて悪かったね」
「いいの、私、あなたの奥さんのことをもっと探りたい気持ちが強くなったのよ」
「普通に会社勤めをしている人に比べると、随分変わってみえるだろうね」
「就職した経験はあるの?」
「ないよ、学校の成績はよかったそうだけど、卒業してからは資格を取ったり、ピアノを弾いたり、絵を描いたり、そんな生活を送っていたそうだ」
「恵まれていたのね」
「親の忠告を聞いたりはしないそうだから」
「好きなことだけをしてきたってこと」
「自立して、自分で稼ぐ意欲は全くなかったらしいよ」
話している間に、さくら通りまで歩いて来た。大学通りは南北に伸びているが、さくら通りは東西に広がり調和がとれている。
「誠二さんの知り合いに、滝沢というひとはいる?」
「僕は知らないなあ、誰なの」
「勘違いかもしれないけど、奥さんの病室の前で見かけたものだから」
「家内の親戚にもいないはずだよ」
ゆりこは自分の会社の所長だ、というのはまだ黙っていようと思った。
その週の昼休み、また滝沢所長と打ち合わせを兼ねて食事を共にした。次第に回数が増えてきている。
「所長、先日の日曜日、K病院にいらっしゃいませんでした?」
「日曜日・・・ああ、行ったよ」